はいくる

「中島ハルコの恋愛相談室」 林真理子

読む本を選ぶ上で、あまり関係ないように見えて実はすごく重要な要素、それは「表紙」です。表紙によって物語の質が変わることはありませんが、魅力的な表紙の本は人の目を引き寄せるもの。「表紙につられて手に取ってみたら、予想以上に面白かった!」ということだってあるでしょう。

かくいう私自身、表紙に惹かれて本を選んだ経験は数えきれないほどあります。中でも、恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』、近藤史恵さんの『タルト・タタンの夢』、村山由佳さんの『野生の風 WILD WIND』の表紙は、その作家さんにはまるきっかけとなったこともあり、今もはっきりと覚えています。そう言えば、この作品の表紙もけっこうインパクトありますね。林真理子さん『中島ハルコの恋愛相談室』です。

 

こんな人におすすめ

すっきり爽快なエンタメ小説が読みたい人

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傍若無人にして大胆不敵、遠慮も容赦も一切ない女社長・中島ハルコ(52)。毒舌家だが世の真理を見抜いている彼女のもとには、今日も様々な相談事が舞い込んでくる。「不倫相手がお金を返してくれない」「息子がギタリストになりたいと言い出した」「東大卒という学歴のせいで男性に敬遠されてしまう」「定年退職後の夫が鬱陶しくて仕方がない」etcetc。持ち込まれた相談をばっさばっさと切り捨て、いつの間にか解決していくハルコ。厚かましいのに憎めない、愉快痛快なニューヒロイン誕生!

 

ピンクのスーツを着て仁王立ちした女性の人形という、妙に目につく表紙が目印です。「行動力のある中高年女性が人々の悩みを解決する」というあらすじを聞くと、ドラマ化された柚木麻子さんの『ランチのアッコちゃんシリーズ』を連想する人も多いと思います。ですが、本作のタイトルでもある中島ハルコの図々しさ・俗っぽさはアッコちゃんの遥か上。それでもどこか憎めず、言うこともやることも間違ってないというキャラクターが面白いですね。全十話から成る短編集なのですが、印象的だった話をいくつか紹介します。

 

「ハルコ、パリで熱弁をふるう」・・・フードライターのいづみは、取材に訪れたパリで押しの強い中年女性と出会う。中島ハルコと名乗る女性の図々しさに呆れつつも、どことなく面白いものを感じたいづみは、ついつい自分の不倫問題について打ち明けた。

カフェでギャルソンに日本語をまくし立ててもなぜか通じるという中島ハルコパワーが凄いです(笑)このエピソードで出てくるいづみは、本作の準主役とも言えるキャラクター。出会いからしハルコに振り回されっぱなしな所が、今後の彼女の運命を予感させます。

 

「早くもハルコが語る」・・・駅でばったり出くわしたいづみとハルコ。なりゆきで隣同士の席に座ることになったいづみに、ハルコは自分の過去について語り始める。いかにして中島ハルコは中島ハルコとなり得たのか。その強烈な背景が今明かされる。

この手の傍若無人キャラの場合、私生活は謎というパターンが結構多いのですが、中島ハルコは別。社長令嬢からの転落、二度の結婚と離婚、起業などについて赤裸々に語ってくれます。なんだかんだ言いつつ、関わる人間をちゃんと面倒見てやっているところが、ハルコが嫌われない理由なんでしょうね。

 

「ハルコ、夢について語る」・・・ハルコと旧知の仲である菓子店経営者に取材することになったいづみ。ところが取材の場で、経営者から家庭内の悩み事を打ち明けられてしまう。それは、「息子が店を継がずにギタリストになると言い出した」というものだった。

親にしてみれば深刻な悩みなんでしょうが、その後のハルコの言葉が面白すぎて噴き出してしまいました。ギタリストになる夢を「どう考えても無茶」と切り捨てておきながら、現れた息子が美形だったのを見た途端、「この顔なら食いっぱぐれない。きっと女が食べさせてくれるし、いずれ奥さんが経営するスナックで弾き語りでもするようになる。本人が選んだ人生ならいいじゃない」とあっさり言うハルコ・・・まあ、真理だね。

 

「ハルコ、母娘を割り切る」・・・ハルコはいづみの飲み友達・美樹と会う。長年両親と同居し、円満にやってきた美樹だが、四十歳を過ぎて結婚を考え始めた途端、両親が猛反対し始めたという。親の豹変の理由が分からず、戸惑う美樹だが・・・・・

いわゆる「毒親」問題の話です。かつては我が子が結婚することを願っておきながら、いざ自分が年老いてくると、介護要員確保のため嫁いでほしくないと望む親。「親子仲が悪いわけではなく、結婚話が出るまでは円満だった」という辺りがリアルですね。この話に出てくる美樹には、個人的にすごく共感したので、なんとか親から逃げ出して幸せになってほしいです。

 

「ハルコ、主婦を叱る」・・・ハルコはいづみのグルメ取材に、元同級生の妙子を同席させる。長年専業主婦だった妙子だが、今は定年退職して家にいる夫の横暴ぶりに振り回されているという。悩む妙子をハルコは一喝し・・・

濡れ落ち葉と化した夫に悩む妻という、世の女性の共感を集めそうな話です。こういう場合、女性同士で結託しそうなものですが、そこはやっぱり中島ハルコ。「人には人生の落とし前をつける時が来る。私のような独身女は孤独を、あんたのような専業主婦は定年後の旦那を背負わなきゃならない。それが嫌なら知恵とお金を使え」というハルコの言葉は、乱暴なようでいて筋が通っているのかもしれません。

 

登場人物の中に誰一人として「何の落ち度もない善人」はいません。それぞれ身勝手だったり依存心が強かったり優柔不断だったりで、自業自得でトラブルに巻き込まれているケースも多いです。そんな中、厚かましいながらまったくブレない中島ハルコの存在は痛快でした。続編の『中島ハルコはまだ懲りてない!』も面白かったので、近々取り上げたいと思います。

 

・ここまで図々しくなれたらいっそ魅力だね度★★★★☆

・名古屋あるあるネタが楽しい!度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    表紙だけで借りた本は何冊かありますが、外れが少なかったです。
    この作品の表紙も格好良いですね。
    ハルコのキャラクターが魅力的です。
    「ランチのアッコちゃん」もそうですが、森沢明夫さんの「癒し屋キリコ~」のキリコに近い気がします。
    楽しみな作品です。

    1. ライオンまる より:

      確かに、それらの作品と近いですね。
      ただ、ケチで厚かましく不倫もするというハルコのキャラクターが強烈です。
      彼女の個性を受け入れられるか否かで、本の評価も変わりそうです。

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