私の個人的な意見ですが、フィクション世界におけるジャンルの中で、<ホラー>というのはやや特殊な位置付けにある気がします。作品に求められるのは、<恐怖><怖気><震撼>といったネガティブな感情。最近はホラーも細分化してきて、ミステリー的な謎解きがあったり、恋愛要素が絡んだりするケースも多々ありますが、根本にあるのが<恐ろしさ>という点は変わりません。
そのせいかどうなのか、色々なジャンルに挑戦されている作家さんでも、「ホラーだけはまだ・・・」ということが一定数あるように思います。その一方、「〇〇先生、ホラー初挑戦!」というような作品は、普段とは違う、新鮮なカタルシスをもたらしてくれることもしばしばです。この作品を読んだ時も、相当な衝撃でしたよ。林真理子さんの『聖家族のランチ』です。
こんな人におすすめ
家族の崩壊をテーマにしたホラーが読みたい人
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「一番印象に残っている時代は?」というアンケートがあるとしたら、どんな答えが集まるでしょうか。回答者の立場によって違うと思いますが、ある世代以上の人達なら、恐らくバブルの時代を挙げると思います。これは一九八六年から一九九一年にかけて起きた好景気のことで、地価高騰やリゾート地開発、就職活動における売り手市場など、様々な社会現象が発生しました。私自身は小さかったためほとんど意識しませんでしたが、「バブルの頃はね・・・」と思い出話をされた経験は数えきれないほどあります。きっと、それほど強烈な印象を残す時代だったのでしょう。
バブルの時代を扱った小説の例を挙げると、黒木亮さんの『トリプルA 小説格付会社』、楡周平さんの『修羅の宴』、当ブログで過去に紹介した貫井徳郎さんの『罪と祈り』などがあります。いずれも、バブルの波に揉まれ、踊らされる人間の業の深さをテーマにしていました。そういう話ももちろん面白いのですが、ずっしりした小説を読んだ後には、明るく口当たりのいい小説が読みたくなるもの。今回は、バブル期に前向きに逞しく生きていく女性達の小説を取り上げたいと思います。林真理子さんの『トーキョー国盗り物語』です。
こんな人におすすめ
女性の幸せ探しをテーマにした小説が読みたい人
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悩みを抱えた時の一番スタンダードな解決方法は、「誰かに相談する」だと思います。ネットで調べる・占いに頼る・趣味に没頭して気を紛らわせる、などの方法もありますが、これだと正確性に欠けたり、根本的な問題解決にならなかったりしますよね。信頼できる誰かと向き合い、悩みを打ち明ければ、たとえ解決策が見つからなくても気持ちが軽くなるものです。
となると次なる問題は「相談相手として誰を選ぶか」ということです。両親や配偶者など、確実に頼れる身内がいる人はいいでしょう。ですが、そういった身内を持たない人もいますし、場合によってはその身内が悩みの種だったりするケースもあります。恋人や友達にしたって、性格や能力その他諸々によっては、「好きだけど、的確な助言をくれる相手ではない」ということだってあり得ます。でも、この人が知人ならば、悩み相談する相手を迷わずに済むんじゃないでしょうか。林真理子さんの『中島ハルコはまだ懲りてない!』に登場する中島ハルコです。
こんな人におすすめ
コミカルで痛快な人間模様が読みたい人
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読む本を選ぶ上で、あまり関係ないように見えて実はすごく重要な要素、それは「表紙」です。表紙によって物語の質が変わることはありませんが、魅力的な表紙の本は人の目を引き寄せるもの。「表紙につられて手に取ってみたら、予想以上に面白かった!」ということだってあるでしょう。
かくいう私自身、表紙に惹かれて本を選んだ経験は数えきれないほどあります。中でも、恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』、近藤史恵さんの『タルト・タタンの夢』、村山由佳さんの『野生の風 WILD WIND』の表紙は、その作家さんにはまるきっかけとなったこともあり、今もはっきりと覚えています。そう言えば、この作品の表紙もけっこうインパクトありますね。林真理子さんの『中島ハルコの恋愛相談室』です。
こんな人におすすめ
すっきり爽快なエンタメ小説が読みたい人
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現在日本において、介護はもはや社会的な問題です。新聞でもテレビでも、介護に関する話題が出ない日はないと言っても過言ではありません。いつ何時、自分が介護する側、あるいはされる側になるか、不安に思う人も多いのではないでしょうか。
こういうご時世ですので、介護をテーマにした小説はそれこそ星の数ほどあります。ミステリーなら東野圭吾さんの『赤い指』、ヒューマンドラマでは篠田節子さんの『長女たち』、青春小説の側面もある木村航さんの『覆面介護師ゴージャス☆ニュードウ』など、どれも面白い作品ばかりでした。ですが、インパクトという点ではこれがトップクラスではないでしょうか。林真理子さんの『我らがパラダイス』です。
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年を重ねたら、周りからどんな呼ばれ方をしたいですか?女性相手に「おばさん」と呼びかけることが失礼だとはよく言われますが、男性だって、軽々しく「おじさん」と呼ばれたくはないですよね。皆から慕われ、年相応の敬意を払われる呼称―――――「姉御」「兄貴」なんて、けっこう嬉しいんじゃないでしょうか。
でも、不思議なもので、そうやって皆に頼られている人が、要領良く幸福になるとは限りません。むしろ、面倒見が良く賢い人だからこそ、貧乏くじを引いてしまうケースも多いはずです。今日はそんな女性をヒロインに据えた一冊、直木賞受賞作家である林真理子さんの「anego」をご紹介します。
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