はいくる

「などらきの首」 澤村伊智

他のテーマにも言えることですが、<ホラー>の中には色々なジャンルがあります。幽霊や悪魔と戦う正統派のオカルトホラー、現代社会を舞台にしたモダンホラー、古城や洋館などが登場するゴシックホラー、人間の狂気を扱ったサイコホラー、内臓飛び散るスプラッタ、ホラーながら論理的な謎解き要素もあるホラーミステリーetcetc。ホラー大好きな私は何でもOKですが、この辺りは個人で好みが分かれるところでしょう。

たいていのホラー小説は、一冊ごとに上記のジャンルが分かれています。ですが、最近読んだ澤村伊智さん『などらきの首』には、様々のジャンルのホラー短編小説が収録されていました。一粒で二度どころか三度も四度も美味しい思いをした気分です。

 

こんな人におすすめ

・バラエティ豊かなホラー短編集が読みたい人

・『比嘉姉妹シリーズ』が好きな人

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人が居つかない物件で毎夜聞こえる不気味な声、死してなお転落を続ける少女の幽霊、居酒屋で醜態を繰り広げるサラリーマンたちの運命、映画撮影中に響く不可思議な悲鳴、カメラに写った謎の風景、少年の日に遭遇した怪異の正体・・・・・それらは、日常のすぐ側に棲んでいる。日常に潜む様々な怪異と恐怖を描いた著者初の短編小説集

 

『ぼぎわんが、来る』の映画化で、ますます知名度を上げた澤村伊智さん。そんな澤村さんの最新作は、コンパクトな佳作が詰まった短編小説集です。『ぼぎわんが、来る』をはじめとする『比嘉姉妹シリーズ』のキャラクターも相変わらず活躍しており、ファンには堪らない一冊でした。

 

「ゴカイノカイ」・・・とある貸しビルの五階には、なぜか入居者が居つかない。曰く、夜になると「痛い、痛い」という不気味な声が聞こえるという。困り果てた大家は、怪奇現象の専門家に解決を依頼するのだが・・・・・

第一話に相応しい正統派怪談です。最初に除霊を依頼した専門家(こいつもなんか怪しい)が尻尾を巻いて逃げ出す下りなんて、いかにもジャパニーズホラーにありそう!恐らく日本一有名な<あの呪文>の謎に触れるところも面白かったです。なるほど、確かに<あれ>がどこに行ったのか、気にする人はあまりいませんね。

 

「学校は死の匂い」・・・雨の日、体育館で投身自殺を繰り返す白い服の幽霊。小学生の比嘉美晴は、なりゆきで真相解明に挑むことになる。ある時、美晴は幽霊が複数の人物への謝罪を繰り返していることを聞いてしまい・・・

学校という閉鎖空間の嫌な面が描かれたエピソードでした。その中で活躍するのは、好戦的に見えて面倒見の良い比嘉美晴。『ずうのめ人形』で彼女が見せた一面は、この頃から発揮されていたんだなぁ。死んでも謝罪を続ける霊が哀れだった分、最後の展開は因果応報と思ったり・・・今後の惨劇を感じさせるラストがとても好みです。

 

「居酒屋脳髄談義」・・・行きつけの居酒屋で酒を飲むサラリーマンたち。彼らの日課は、コミュニケーションと称し、要領の悪い女性社員・牧野をいじって楽しむこと。ところが今夜の牧野はいつもと違い、男達のパワハラ・セクハラを次々と論破していって・・・

ラストまで振り返るとかなりタチの悪い怪異なんですが、牧野の論破っぷりが見事なせいか、妙にコミカルな味わいがあります。男達の牧野への絡み方が悪質な分、彼らがぐうの音も出ないほど言い負かされる展開は気分爽快!交わされる応酬自体もなかなか面白いし、これは舞台か何かにしたら映えるんじゃないでしょうか。

 

「悲鳴」・・・かつて殺人事件が起こったという山で、大学の映画サークルがホラー映画を撮ることになる。横柄なOBにうんざりしつつ撮影が進む中、メンバーの一人が不審な悲鳴を聞き・・・・

ホラー作品でしばしば出てくる<怪奇現象の理由を探ろうとする登場人物たち>をぶった斬ってくれるエピソードです。まあ、一般人の目から見たらそうなるし、最後の一言が出てくるわな。ちなみにこの話は最初、どこで『比嘉姉妹シリーズ』と繋がっているか分かりませんでしたが、再読して気づきました。彼女、ここでも力を発揮していたのか・・・

 

「ファインダーの向こうに」・・・幽霊が出ると噂のスタジオで撮影を行う取材陣。売れっ子だった頃の栄光が忘れられないカメラマン・明神は、相変わらず態度が偉そうだ。撮影終了後、写真を確認すると、なぜか撮ったはずのない河原の写真が混じっていて・・・

間違いなく本作中で一番後味のいい話でしょう。澤村さんがこれほど希望のある話を書くなんてちょっと意外と思ったり(褒め言葉)。『比嘉姉妹シリーズ』の名コンビである野崎と真琴の出会いが描かれているところも嬉しいですね。この二人が今後、どうやって関係を深めていったかも気になります。

 

「などらきの首」・・・高校生の寺西は、今なお少年時代の悪夢に魘され続けている。それは、かつて祖父母の住む田舎で体験した<などらき>という化け物にまつわる悪夢だ。ひょんなことから寺西は、同級生の野崎とともに再び<などらき>の謎に挑むことになり・・・

表題作なだけあって恐怖度・衝撃度ともに抜群でした。澤村さんお得意の土着的要素も盛り込まれているし、これは長編にしても十分成立するでしょう。<恐怖→解決して安心→と思ったらまた恐怖>という流れはまさに鳥肌もの。ミステリーとしてもしっかり成立しているところも得点高いですね。ここで登場する寺西君は、なかなか誠実で柔軟性のあるキャラクターなので、いつか長編でも登場してほしいです。

 

『比嘉姉妹シリーズ』ファンの私には大満足の一冊でしたが、澤村ワールドのキャラクターがあちこちで登場する関係上、過去の著作を読んでいないと面白さが半減してしまうところが難点と言えば難点です。興味を持たれた方は、できれば『比嘉姉妹シリーズ』三作を読んでから本作に進むことをお薦めします。澤村さんが短編でもセンスを発揮できる作家さんということはよく分かったので、今後もこういう作品集をどんどん出してほしいものです。

 

バラエティ豊かで怖さもたっぷり!度★★★★★

謎解きもしっかりありますよ度★★★★☆

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