はいくる

「怖ガラセ屋サン」 澤村伊智

皆さんは、どんな都市伝説がお好きですか?国内外合わせると膨大な数の都市伝説が存在しますが、ホラー大好き人間な私は、やっぱり怪談系の都市伝説に惹かれます。口裂け女、赤マント、三本足のリカちゃん、さとるくん、ひきこさん・・・話を聞いた人のところに現れる<カシマさん>なんて、怖すぎてパニック起こしそうになったっけ。

都市伝説はインパクトがある上に想像の余地が多く、著者のオリジナリティを出しやすいからか、よく創作物のテーマになります。直木賞候補にもなった朱川湊人さんの『都市伝説セピア』や、ドラマ化された長江俊和さんの『東京二十三区女』などは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。どの作品でも、ゾクッとさせられる都市伝説がたくさん書かれていましたが、今日ご紹介するこの本も負けていませんよ。澤村伊智さん『怖ガラセ屋サン』です。

 

こんな人におすすめ

恐怖をテーマにしたホラー短編集が読みたい人

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どうか、どうかお願いです。あいつを死ぬほど怖がらせてやってください---――依頼者の願い通り、ターゲットを恐怖のどん底に突き落とす<怖ガラセ屋サン>。未知の恐怖を鼻で笑う者、他人の弱みに付け込んで荒稼ぎする詐欺師、いじめを隠蔽しようと目論む子ども、怪談ライブで持ちネタを披露する参加者達、向かいのベッドの異変に気付いた入院患者。驕った彼らに<怖ガラセ屋サン>が突きつける身の毛もよだつ恐怖とは・・・・・ホラー小説の名手が放つ、最恐恐怖小説集

 

対象に発狂しかねないほどの恐怖を味わわせる<怖ガラセ屋サン>の不気味さが、最高に都市伝説っぽくてグッド!ただやみくもに怖がらせるだけでなく、<恐怖>という感情についての考察もしっかりしていて、何度も「ほほう」と唸らせられました。怖いという感情って、実はかなり奥が深いものなんですね。

 

「人間が一番怖い人も」・・・会社の後輩とその婚約者を家に招き、会食することになった浦部夫妻。後輩も婚約者も怪談に目がなく、怪談ライブがきっかけで知り合ったという。そんな二人に対し、浦部の妻は「怪談なんかより、人間の方がよっぽど怖い」と、侮るような態度を取るのだが・・・・・

過去、澤村伊智さんは著作の中で、昨今の「人間が一番怖い」ブームを吹っ飛ばすような化物無双を描いてくれました。その矜持が、このエピソードには込められていると思います。<生きた人間が一番怖い=目に見えない恐怖なんて所詮は子ども騙し>と嘲笑する者達の末路は、あまりに悲惨であまりに残酷。前半と後半のとある変化が凄まじかったです。

 

「救済と恐怖と」・・・自らの悲惨な生い立ちを語る少女。霊感商法で荒稼ぎする男。二人の運命が交錯した時、戦慄の復讐劇が幕を開ける。他者を踏みにじってのし上がる者を待つ地獄とは、果たして・・・・・

少女が語る貧しい半生があんまり過酷で、なんとか救いがあってほしいと思いましたが・・・・・まさかこう繋がってくるとは!!元気そうで何よりだけど、そんな生き方しかなかったのかと、やるせない気分になります。詐欺師が自業自得で生き地獄に突き落とされたところだけは痛快でした。

 

「子供の世界で」・・・仲良しグループの中で始まった、陰湿ないじめ。やがていじめられっ子は死に、次第に存在すら忘れ去られていく---――はずだった。その女が奇妙な箱を携えて現れるまでは。

第二話同様、自業自得で後半生を台無しにされるいじめっ子達。なのに、因果応報で気分爽快!とならないのは、やり口があまりに常軌を逸しているから、そして家族までまとめて不幸になっているからでしょうか。こんな目に一生遭い続けるくらいなら、正直にいじめを自白した方がマシだろうに・・・担任がいわゆる無責任教師ではなく、いじめに気付いて厳格に対処したのに解決できなかったという辺りが、なんとも嫌な感じです。

 

「怪談ライブにて」・・・とあるライブハウスで参加者がステージに上がり、各々が知る怪談話を語り始める。老人ホームで起きた入居者の不審死、心霊スポットに出かけた男を襲う怪奇現象、塀の向こうで腐乱していく女、ハウス内に出没する指のないミュージシャン。五番目の女が語るのは<怖がらせ屋>にまつわる話で・・・・・

五つ目の話で、これまで語られてきた怪談がすべてひっくり返る展開がすごく好み!ただ、標的達は全員死ぬほど怖い思いをしただろうけど、罪を償うチャンスはまだ残されています。そういう意味で、前の三話に比べると後味は悪くありません。最後、語り手の願いが叶ったのは、良かったと思っていいのかな?

 

「恐怖とは」・・・人気俳優がボロアパートを借り、不倫相手と密会しているという噂。真偽を確かめるため、カメラマンはアパートの近くに張り込む。そこに、噂を持ち込んだ情報屋が現れた。二人は車内に身を潜め、動きがあるのを待つのだが・・・・・

ホラー一辺倒な本作の中で、このエピソードのみサスペンスの色合いが濃いです。これまで人知を超えた活躍(?)を見せた怖ガラセ屋サンも、ここではごく常識的かつ物理的に動くのみ。終盤で見せる人間臭い反応は、ちょっと可愛いと思っちゃいました。二人が交わす<恐怖>に関する問答が興味深いです。

 

「見知らぬ人の」・・・入院中の主人公には、気になることがある。同室の徳永さんのもとに毎日見舞いに来る女性のことだ。夫婦というには年の差がありすぎる。その話を聞いた主人公の妻が、後日、徳永さんに見舞いの女性の話を振ったところ、予想外の答えが返ってきた。曰く、あの女性はまったく見知らぬ他人で、なぜか毎日徳永さんのもとを訪れて支離滅裂な話を語り続けるそうで・・・・・

病院という、幽霊話の宝庫が舞台ながら、見知らぬ人の恐怖を描いているところがニクイですね。事態が把握できず、おろおろする主人公の心理描写が臨場感たっぷりです。一体どうして怖ガラセ屋サンの標的になったのか、さっぱり訳が分からないところもめちゃ怖い!それでは最後に皆さんご一緒に、「はあああああああ?」。

 

「怖ガラセ屋サンと」・・・そこここで囁かれる<怖ガラセ屋サン>の噂。標的は一様に身の毛もよだつ恐怖を味わう上、その正体を追おうとした者は謎の失踪を遂げたという。馬鹿馬鹿しい。下らない。そう思いつつ、<怖ガラセ屋サン>の調査を行う主人公だが・・・

最終話ということで、怖ガラセ屋サンの正体を調べようとする取材者目線の話です。他の収録作品にちらりと触れている部分もあって、最初から最後までゾクゾクゾク・・・今回の主人公は恨みを買って怖ガラセ屋サンの標的にされたわけではないので、恐怖で人生台無しにされるわけではありませんが、その分、意味不明でモヤモヤした恐怖を味わうことができました。祖父の事件の顛末がすごくすごく気になります。

 

この手のホラー作品のお約束として、怖ガラセ屋サンの正体は謎のまま。一応、実行者として女性は毎回登場しますが、果たして同一人物なのか、それとも何かの組織のメンバーなのか、一切分からないまま終わります。ということは、これからいくらでも膨らませられるということなので、ぜひともシリーズ化してほしいですね。後味はかなり悪いので、夜には読まない方がいいかもしれません。

 

恐怖の迫り方が異常すぎる度★★★★★

でも、標的にされた人間達の愚挙も怖い度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

     昔少年ジャンプで掲載された漫画「アウターゾーン」を思い出します。澤村伊智さんは「怪談のテ-プ起こし」以来読んで無かったですがこれは読んでみたくなりました。プ-チンにも怖ガラセ屋さんが取り憑いて欲しいと感じました。

    1. ライオンまる より:

      「アウターゾーン」大好きで、今も実家にあります。
      確かに雰囲気似ていますが、ミザリィが時々登場人物を助けてやったりするのに対し、怖ガラセ屋サンはただただ標的に地獄の恐怖を味わわせるのみ。
      このご時世、こういう存在が本当にいてくれたらいいのにと、つい願ってしまいます。
      しんくんさんは、確か澤村伊智さんの「うるはしみにくしあなたのともだち」を読まれていたと思います。
      あちらは長編、本作は短編で、ややテイストが違いますが、どちらも面白かったです。

  2. しんくん より:

    読み終えました。
    一話目の「人間が一番怖い人も」から強烈なオチで驚きました。
    二話目の「恐怖と救済と」まさに詐欺師が地獄に突き落とされる場面は痛快でした。ストーリーを語る少女のドライな姿が印象的でした。
    「見知らぬ人の」もまた意外な展開で怖ガラセ屋さんはまさにアウターゾーンのミザリィだと感じました。
     最後に実況中継を正体を探る作者が出てくる場面は澤村伊智さんらしさを感じましたがイマイチよく理解出来ないのが残念でした。
     イジメをした子供にも容赦ない結末を下すのも澤村伊智さんらしいですね。

    1. ライオンまる より:

      序盤からインパクト抜群の短編集ですよね。
      「見知らぬ人の」は、一体何が原因でこんな目に遭うのか、当人にも読者にもさっぱり分からないところがより不気味でした。
      アウターゾーンのミザリィは子どもに優しいので、いじめっ子も痛い目に遭わせつつ更生の余地は残してやるはず・・・
      一切感情を見せず、子どもだろうと家庭持ちだろうと恐怖のどん底に突き落とす様子が恐ろしかったです。

  3. しんくん より:

     ふと思ったのですが怖ガラセ屋サンは中山七里さんの嗤う女、蒲生美知留と重なりました。

    1. ライオンまる より:

      確かに!
      底も得体も知れない雰囲気が似ていますね。

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