皆さん、自分をどんな人間だと思いますか?親兄弟、友達、恋人の真実の姿を知っていると断言できますか?あるいは、周りの人達は自分の本当の姿を理解してくれていると言い切れますか?
できる、と言いたいところだけど、なかなか難しいのが人間というもの。ほんの少し見方を変えるだけで、まったく違った姿が見えてきても不思議ではありません。というわけで、今日ご紹介するのがこの作品、貫井徳郎さんの「愚行録」です。
静かな住宅街で起きた一家四人惨殺事件。被害者となったのは、エリートの夫、美しく優雅な妻、可愛らしい二人の子ども。幸福を絵に描いたような家族が、なぜ無残にも殺されなくてはならなかったのか。事件を追うライターに乞われるがまま、被害者一家について語る隣人・同僚・旧友・元恋人たち。彼らの証言から浮かび上がる被害者たちの裏の顔と、事件の恐るべき真相とは・・・・・
「取材を受ける関係者の証言」と「兄と会話する妹の告白」が交互に繰り返される本作。最初は純粋に被害者を悼んでいたのであろう証言者たちが、インタビューが進むにつれて本音をむき出しにしていく様子にゾッとさせられました。正直、ラストで明らかになる真相より、徐々に明らかになる人間の悪意の方が何倍も怖い!
被害者たちにまつわるエピソードも、それを語る証言者たちも、タイトルに違わず愚かなものばかりです。「相手を誉めているように見せて、実はさり気なく悪口を吹き込む女性」だの「手玉に取られたことに気付かず、のんきに昔の恋人を懐かしむ男性」だの、いかにも現実にいそうですよね。殺人事件についてだけでなく、幼児虐待や名門校内でのスクールカースト問題についても触れられていて、改めて作者の力量の凄さを感じました。
また、もう一つのポイントとなるのが、要所要所に挿入される少女の独白。一見、兄に向けて無邪気に語りかける妹の言葉なんですが、段々と劣悪な家庭環境が透けて見えてきます。この少女の暮らしぶりが本当に悲惨で、読むのが辛いと感じる読者もいるのではないでしょうか。少女自身が自分の生活をごく普通に受け入れてしまっているところが、いっそう哀れで仕方ありません。
彼女の独白が、本筋である殺人事件と思いがけない所で結びついていく過程は見事の一言。そこそこミステリ慣れしているはずの私ですが、これは完全に予想外でした。読了後、きっとページを遡って事実関係を確認し直したくなるでしょう。
最近知ったばかりですが、この作品、2017年に映画公開が決まっているそうですね。主演は妻夫木聡と満島ひかり。その他、なかなかの実力派キャストが顔を揃えているようですし、今から公開が待ち遠しいです。
人間って本当に愚か度★★★★★
真実の形は十人十色度★★★★☆
こんな人におすすめ
・証言形式のミステリーが好きな人
「告白」のような独白形式で惹き込まれて一気読みでした。
後からジワジワと疑問が沸いてくる展開も良かったです。
本を返したから思った疑問に解答頂いてありがとうございました。
映画化も楽しみです。
少しずつ謎や疑問が出てきて、ハラハラしながら読めましたね。
このオチは映像で完全再現するのは難しいと思うので、映画版がどうなっているか、すごく気になります。