作家名

はいくる

「初恋料理教室」 藤野恵美

堂々と言うようなことではありませんが、私は料理が苦手です。食べることは大好きなんですが、自分で作るとなると無頓着かつ大雑把。料理本やインターネットで調べた簡単なメニューを機械的に作ることがほとんどで、皿に移せばいいだけの惣菜をスーパーマーケットで買ってくることもしばしばです。

料理上手になるための努力方法は人それぞれですが、中には料理教室に通ってスキルアップを計る人もいるでしょう。もしこんな料理教室が現実にあれば、私のような根っからのズボラ人間でも、料理の楽しさに目覚められるのではないでしょうか。大人向けの小説だけでなく、ジュニア小説の名手としても名高い藤野恵美さん『初恋料理教室』です。

続きを読む

はいくる

「おだやかな隣人」 赤川次郎

現代では隣近所との人間関係が希薄になり、コミュニケーションを取る機会も少なくなったと言われています。プライバシーの保護や防犯上の問題から、ある意味では仕方ないことなのかもしれません。ちなみに私はというと、ご近所さんと挨拶程度は行っても世間話を交わすことなど稀、名前を知らない相手も大勢います。

では、もし隣人が自分と共通点を多く持っていたらどうでしょう?その上、人好きのする、とても魅力的な相手だったら?普段はご近所付き合いなどしない人でも、親しくなりたいと思ってしまうのではないでしょうか。そして付き合う内、隣人の恐ろしい秘密を知ってしまうかも・・・今日ご紹介するのは、そんな謎めいた隣人を扱った作品です。日本人作家としては国内最多の著作発行部数を誇る、赤川次郎さん「おだやかな隣人」です。

続きを読む

はいくる

「ときどき旅に出るカフェ」 近藤史恵

私が大人になったらやりたいと思っていたことの一つ、それは「行きつけのカフェを見つけること」です。家の近所に居心地のいい店を見つけ、店員さんとも顔馴染みになり、お茶やスイーツを楽しみながらのんびりとした時間を過ごす・・・たぶん、ドラマか何かで見たシチュエーションだと思いますが、子どもの頃から本気で憧れていました。

そんな夢を持っていたからなのか、カフェを舞台にした小説も大好き。森沢明夫さんの『虹の岬の喫茶店』、池永陽さんの『珈琲屋の人々』、村山早紀さんの『カフェかもめ亭』など、どれも面白かったです。最近読んだカフェの出てくる小説といえば、近藤史恵さん『ときどき旅に出るカフェ』。こんなカフェが近所にあったらなぁ。

続きを読む

はいくる

「盲目的な恋と友情」 辻村深月

「盲目的」という言葉を辞書で引くと、「愛情や情熱・衝動などによって、理性的な判断ができないさま」とあります。文字通り、目が見えなくなるほど強い感情。そんな感情に突き動かされて誰か・何かを思うのは、果たして幸せなことなのでしょうか。

フィクションの世界には、盲目的な愛情や友情、嫉妬心に憎悪などがしばしば登場します。良いものであれ悪いものであれ、五感を狂わせるくらい強烈な感情というのは、創作物のテーマにしやすいんでしょうね。今日は、あまりに強く恋と友情にのめり込んだ女性達の物語を紹介します。瑞々しく希望のある作風で有名な辻村深月さん。そんな彼女にしては珍しいイヤミス作品『盲目的な恋と友情』です。

 

続きを読む

はいくる

「ぐるぐる猿と歌う鳥」 加納朋子

「ごあいさつ」欄にも書いてある通り、私は九州出身で、人生の大半を九州で過ごしてきました。海もあれば山もあり、ラーメンと明太子以外にも美味しい食べ物が色々あり、よその土地への移動もしやすい。身びいきかもしれませんが、いいところがたくさんある土地ですよ。

自分の故郷だからということもあるでしょうが、九州を舞台にした作品を見かけると、ついつい手が伸びてしまいます。重厚な歴史もの、どろどろしたイヤミス、胸がきゅんとするようなラブストーリーなど様々な作品がありますが、ハートウォーミングな成長物語が読みたい時はこれ。加納朋子さん『ぐるぐる猿と歌う鳥』がおすすめです。

続きを読む

はいくる

「宮辻薬東宮」 宮部みゆき、辻村深月、薬丸岳、東山彰良、宮内悠介

本屋や図書館でうろうろしていると、「アンソロジー」という本を見かけることがよくあります。「アンソロジー」とは、複数の作家による短編作品などを収めた出版物のこと。現代的な名前で呼ばれていますが、万葉集や古今和歌集、新約聖書などもアンソロジーに当たります。

複数の作家の作品が収録されるという形式上、内容の質にばらつきが見られるアンソロジー。たとえ話のレベル自体は高くても、「この設定は苦手」などいうこともあり、大満足の作品を見つけることは難しいです。ですが、最近読んだアンソロジーはレベルが高かったですよ。当代の人気作家が一堂に会したアンソロジー『宮辻薬東宮』です。

続きを読む

はいくる

「ドクター・デスの遺産」 中山七里

この世には、どれほど議論を尽くしても正解が出ないであろう問題があります。例えば死刑制度や少年犯罪への厳罰化。賛成派と反対派、どちらの言うことにも一理あり、是非を決めることは恐らくできないでしょう。

答えの出ない問題の筆頭格として、安楽死が挙げられます。自分自身、あるいは家族が不治の病にかかり、地獄の苦しみを味わっていたとしたら・・・安楽死を考えることは、果たして罪なのでしょうか。安楽死問題を扱った小説はたくさんありますが、今回は中山七里さん『ドクター・デスの遺産』を取り上げたいと思います。

続きを読む

はいくる

「バック・ステージ」 芦沢央

大抵の図書館には「予約」というシステムがあります。本を確実に借りることができるよう予め予約しておく方法で、人気作家の新刊や大作映画の原作本などには予約が殺到します。予約件数が数百ということも決して珍しくなく、その場合、本が手元に届くのは何カ月も先ということにもなりかねません。

小学生の頃から図書館通いを初めてウン十年。ほとんどの場合、予約で出遅れてしまっていた私ですが、先日初めて「予約一番目をゲット」という出来事を経験しました。大好きな作家さんの新刊なので、喜びもひとしおです。それがこれ。芦沢央さん『バック・ステージ』です。

続きを読む

はいくる

「風味さんのカメラ日和」 柴田よしき

写真撮影は好きですか。私自身は撮る方は決して上手ではありませんが、見るのは大好き。インターネットで美味しそうなスイーツの写真を見つけては、一人ニンマリしていることもしばしばです。

今はスマートフォンなどの普及により、一昔前よりずっと手軽に写真が撮れるようになりました。それはもちろん楽しいことだけれど、時にはしっかりとカメラを構えて写真撮影するのも面白いかもしれません。今日取り上げるのは、柴田よしきさん『風味さんのカメラ日和』。最近忘れていた、「レンズを通して物を見ることの楽しさ」を思い出せた気がします。

続きを読む

はいくる

「娘と嫁と孫とわたし」 藤堂志津子

女性同士の人間関係は難しい。これ、色々なところでよく使われる言い回しです。女の立場から言わせてもらうと、男性同士の人間関係もけっこう難しいと思うんですが・・・とはいえ、同性ばかりが集まると、異性が混じっている時とは違う軋轢やしがらみが生じることは事実でしょう。

私はイヤミスが大好きなので、女性同士のドロドロを扱った作品はたくさん読みました。ですが、さすがに小説やドラマになるような争いなど、そうそう起こらないもの(と思いたい)。女性のリアルな駆け引きを描いた作品といえば、これなんてお勧めですよ。直木賞をはじめ数多くの文学賞を受賞し、エッセイストとしても有名な藤堂志津子さん『娘と嫁と孫とわたし』です。

 

続きを読む