作家名

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「出口のない部屋」 岸田るり子

密室。ミステリー好きなら、まず間違いなく一度は目にしたことのあるキーワードでしょう。閉ざされた部屋、出入り不可能な状況、その中で起こる謎めいた事件。江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』をはじめ、密室を扱った推理小説はたくさんあります。

とはいえ、たくさんありすぎて、ちょっとやそっとの密室ものではもはや読者が驚かなくなったことも事実。現実にはなかなか実現困難なケースが多いこともあって、一歩間違うと批判・冷笑の対象にもなりかねません。そこで今回は、一風変わった密室が登場する小説をご紹介します。岸田るり子さん『出口のない部屋』です。

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「さよなら神様」 麻耶雄嵩

「苦しい時の神頼み」「触らぬ神に祟りなし」「捨てる神あれば拾う神あり」ぱっと思いつくだけで、神様にまつわることわざはたくさんあります。日本は八百万の神様が存在する国。身近なところに神様がいるのは、何も故事成語に限った話ではありません。

もしすぐ近くに神様がいて救いの手を差し伸べてくれたら・・・?そんな空想をしたことがある人って結構多いのではないでしょうか。でも、少なくともミステリーの世界においては、神様がさっさと犯人を見破ってしまうと物語が成立しませんよね。ですが、そんな「反則技」とも言える手に挑戦した作品があるんです。破天荒で癖のある作風ながら、その独特の世界観が根強い支持を得る麻耶雄嵩さん『さよなら神様』です。

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「ネバーランド」 恩田陸

昔から私が憧れてやまないものの一つ、それが「寮生活」です。きっかけは、たぶん『あしながおじさん』を読んだことでしょう。親元を離れ、同年代の少年少女が集まって共同生活を送る。ルームメイトと夜中までお喋りしたり、食堂でみんなと食事したり、週末はパーティーが開かれたり・・・もちろん、実際の寮生活には苦労も多いと分かっていますが、憧れる気持ちは今でもしっかり残っています。

世界的に有名な『ハリー・ポッター』シリーズをはじめ、寮が登場する創作作品はたくさんあります。どちらかというと海外を舞台にしていたり、ファンタジーや漫画寄りだったりする作品が多い気がしますが、等身大の若者が出てくる作品も色々ありますよ。たとえばこれ。恩田陸さん『ネバーランド』がそうです。

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「沈黙の教室」 折原一

ちょっと寂しい話ですが、私は同窓会にほとんど出たことがありません。小学校から大学まで、仲の良い友達数名と個人的に会いはするものの、クラス全体で集まった機会は数えるほど。幹事を決めずに卒業したり、取りまとめ役だった子が遠方に引っ越したりしたことが原因かもしれませんね。

かつて同じ教室で学んだ仲間たちが集まり、旧交を温め合う同窓会。和気あいあいと思い出話で盛り上がれれば、これほど楽しいものはないでしょう。ですが、もし同窓会に集う仲間たちに恨みを抱く者がいれば?そして、同窓会に乗じ、過去の復讐を企んでいたとしたら・・・?そんな復讐劇を描いたサスペンス小説をご紹介します。叙述トリックの名手として有名な折原一さん『沈黙の教室』です。

 

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「シャルロットの憂鬱」 近藤史恵

以前の記事でも書きましたが、私は生まれた時からずっとマンション暮らしで、飼ったことがある生き物は金魚とヤドカリのみ。そのため、犬や猫といった動物を飼うことに憧れがあります。今でも、コリーやレトリバーのような大型犬と楽しげに遊ぶ人がいると、「いいなぁ」とついつい目で追いかけてしまいます。

とはいえ、動物を飼うことはままごととは違います。生活の中に生き物を迎え入れることで不自由も増えるでしょうし、トラブルに巻き込まれることもあるでしょう。先日、動物がいる生活の大変さと、それを上回る楽しさを描いた小説を読みました。近藤史恵さん『シャルロットの憂鬱』です。

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「幸せのプチ-――町の名は琥珀」 朱川湊人

「妖精」と聞くと、どんな生き物を想像するでしょうか。羽が生えた小さな美少女の姿?尖った耳と鼻を持ちナイトキャップをかぶった姿?中国などでは、いわゆる「妖怪」も妖精と同じ扱いだそうですね。

ファンタジー作品に登場する妖精は、不思議な姿と力を持つことが多いです。でも、中にはごくありふれた姿を持ち、町に溶け込んでいる妖精もいるのかも・・・朱川湊人さん『幸せのプチ-――町の名は琥珀』には、そんな妖精が登場するんですよ。

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「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」  歌野晶午

日本には素晴らしい推理小説を書く作家さんがたくさんいます。どの方もそれぞれ甲乙つけがたい魅力を持ち、一番を決めるのは難しいのですが、幻想・怪奇分野ではやはり江戸川乱歩の名前を挙げる人が多いのではないでしょうか。私自身、学校の図書室に置いてあった乱歩作品(確か、少年探偵団シリーズ)を読み、そのミステリアスな作風にすっかり魅了された記憶があります。

現代の作品で、あの独特のおどろおどろしさを出すのは難しいかも・・・・・と思っていたところ、面白そうな作品を見つけました。江戸川乱歩好きなら、タイトルを見ただけで手に取りたくなってしまうかもしれませんね。どんでん返しの巧みさに定評のある、歌野晶午さん『D坂の殺人事件、まことに恐ろしきは』です。

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「淋しい狩人」 宮部みゆき

こんなブログまで開設しているのですから今さら言うまでもありませんが、私は読書が好きです。一番好きなのはミステリーですが、基本的にホラー、恋愛、SF、ヒューマンドラマと何でもござれですし、エッセイや児童文学にも手を出します。親に聞いてみると、昔から本さえ与えておけば何時間でも大人しくしている子どもだったようですね。

そんな私が大好きな場所、それが本屋です。最近、大型書店はどんどん綺麗になり、店内に立派なテーブルやソファを設置して購入前の本を読めるようにしてあったり、併設のカフェからなら飲食物を持ち込めたりするような店も多いです。そういう店ももちろん好きですが、昔ながらの小さな本屋さん、街角にひっそりあるような古本屋さんも大好きですよ。そんな愛すべき本屋を扱った作品といえばこれ。ありとあらゆるジャンルの小説を手がけ、無類のゲーム好きとしても知られる宮部みゆきさん『淋しい狩人』です。

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「我ら荒野の七重奏」 加納朋子

学生時代、何か部活動をやっていましたか?私の場合、部活参加が半ば義務だった中学校ではパソコン部でしたが、高校では三年間通して帰宅部部員。当時は特に何も思わなかったものの、今になって振り返ると、何かやっておけば良かったかもと思います。

そんな私は知りませんでしたが、十代の部活動って、親の役割がすごく大きいんですね。時には子どもとは無関係な部分で、親がシャカリキにならなければならない場面もあるんだとか・・・今日は、そんな部活にまつわる保護者の奮闘記をご紹介します。当ブログでも紹介した『七人の敵がいる』の続編、加納朋子さん『我ら荒野の七重奏』です。

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「沈黙の町で」 奥田英朗

最近、棚の整理をしていたら、中学時代の文集を見つけました。何気なく眺める内、当時のことを色々思い出したんですが・・・あの時代は、社会人とはまた違う厳しさと残酷さがあったと、つくづく思います。体の成長に心がついていかず、行き場のないパワーを持て余す。中学生って、人生で一番不安定な時期なのかもしれません。

中学生たちの人間模様をテーマにした小説といえば、映画化もされた宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』などが有名ですね。ですが、リアリティという面を重視するなら、私はこちらの方が好きです。海外でも多くの作品が翻訳されている、奥田英朗さん『沈黙の町で』です。

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