中山七里

はいくる

「毒島刑事最後の事件」 中山七里

何をもってその作品を好きと思うか。基準は人それぞれです。ストーリーが何より大事と言う人もいれば、その作家さんの作品なら何でも読んでみるという人もいるでしょう。タイトルや挿絵に重きを置く人だっているかもしれません。<登場人物>もその一つ。「このキャラ大好き」「この人が主人公なら続編も読んでみよう」。そうやって読む本を決めることって、案外多いのではないでしょうか。

小説界の人気キャラといえば、私が真っ先に思い浮かべるのは有栖川有栖さんの『作家アリスシリーズ』に出てくる火村英生と、森博嗣さんの『S&Mシリーズ』に出てくる犀川創平。どちらもコミカライズや映像化されている人気作品なので、ご存知の方も多いと思います。私も二人とも大好きですが、ここ数年で、彼らをしのぐほど好きなキャラクターと出会ってしまいました。中山七里さん『毒島刑事最後の事件』に登場する毒島真理です。

 

こんな人におすすめ

皮肉の効いたミステリー短編集が読みたい人

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「人面瘡探偵」 中山七里

いわゆる<バディもの>と言われる作品の場合、主人公コンビの信頼関係が物語を左右する鍵となります。アガサ・クリスティーの『シャーロック・ホームズシリーズ』でも、名探偵ホームズと助手のワトソン博士の名コンビぶりは世界に知れ渡っています。信頼し、支え合うコンビの姿は、読者をわくわくさせてくれるものです。

その一方、決して友好的とは言い難いコンビの存在も、それはそれで面白いです。例えば、漫画ですが、柩やなさんの『黒執事』。幼い少年貴族と彼に仕える執事が主人公ですが、実はこの執事の正体は悪魔で、少年貴族の魂欲しさに仕えているだけ。当然、両者の間に真の信頼関係などないものの、お互い打算のため主従関係を結ぶ二人の姿は、見ていてとてもスリリングです。最近読んだ小説にも、決して仲良しこよしとは言えない名(迷?)コンビが出てきました。中山七里さん『人面瘡探偵』です。

 

こんな人におすすめ

閉鎖的な田舎での連続殺人ミステリーが読みたい人

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「死にゆく者の祈り」 中山七里

新年明けましておめでとうございます。令和初のお正月、いかがお過ごしでしょうか。二〇一六年に始まったこのブログは、今年で四年目を迎えます。今後も変わらず独断と偏見に満ちた内容になることが予想されますが、呆れずお付き合いいただければ幸いです。

毎年、新年一作目となる本を何にしようかと悩むのですが、今年は楽しみにしていた図書館の予約本がタイミング良く回ってきたので、悩む必要ありませんでした。二〇二〇年初投稿は、中山七里さん『死にゆく者の祈り』。ミステリーとしてだけでなく、仏教の在り方についても考えることができ、仏教校出身の私には興味深かったです。

 

こんな人におすすめ

冤罪が絡んだミステリーが読みたい人

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「笑え、シャイロック」 中山七里

私は基本的にどんなジャンルの小説も読む人間です。切なくも甘酸っぱい青春ラブコメだろうと、血飛沫が飛び内臓はみ出るスプラッターホラーだろうと、面白ければ何でもOK。そんな私が唯一、「なんとなくとっつきにくいかな」と思うジャンル、それが金融・経済小説です。根っからの文系人間のせいか、用語や世界観がなかなか頭に入ってこないんです。

ですが、面白いと感じた金融小説が一冊もないわけではありません。特に、池井戸潤さんの『半沢直樹シリーズ』と真山仁さんの『ハゲタカシリーズ』は、映像化されたこともあって世間一般の知名度も高いですね。今回ご紹介するのは、中山七里さん『笑え、シャイロック』。もしかしたら上記の作品と並ぶ人気シリーズになるかもしれません。

 

こんな人におすすめ

銀行員が主役のミステリーが読みたい人

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「ふたたび嗤う淑女」 中山七里

面白い作品を読んだ時、こう思うことはないでしょうか。「これ、シリーズ化されないかな」特に、内容だけでなくキャラクターが気に入った場合、彼ないし彼女の活躍をもっと見たくなるのが人情というもの。私自身、このブログ内で「続編希望します」と書いた作品がいくつもあります。

とはいえ、実際にシリーズ化された場合、前作と同じかそれ以上のクオリティかどうかは分かりません。悲しいかな、一作目はすごく面白かったのに二作目はメタメタ・・・という例も存在します。でも、この方に関してはそんな心配無用でした。中山七里さん『嗤う淑女』の待望の続編『ふたたび嗤う淑女』です。

 

こんな人におすすめ

・悪女が出てくるミステリー小説が好きな人

・蒲生美智留の活躍(?)が読みたい人

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「TAS 特別師弟捜査員」 中山七里

子どもの頃から推理小説好きだった私には、憧れのシチュエーションがあります。それは<警察の信頼を得て捜査協力を求められる少年少女>というもの。現実にはおよそあり得ないんでしょうが、「もし自分がこんな風に事件に関わることができたなら・・・」とワクワクドキドキしたものです。

この手の設定で一番有名なのは赤川次郎さんの作品でしょう。『三姉妹探偵団シリーズ』『悪魔シリーズ』『杉原爽香シリーズ』などには、刑事顔負けの推理力・行動力を発揮するティーンエイジャーがたくさん登場します。人気を集めやすい状況だからか、長期シリーズ化することも多いようですね。だったら、この作品も今後シリーズ化されるのかな。中山七里さん『TAS 特別師弟捜査員』です。

 

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高校生探偵が登場する学園ミステリーが読みたい人

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「能面検事」 中山七里

別の記事でも書きましたが、フィクションの世界において、被告人のために戦う弁護士はやや特殊なポジションであり、強烈な個性付けがなされることが多いです。一方、これと対照的なのは、弁護士と法廷で争う検事。良くも悪くも生真面目な法の番人として描かれがちな気がします。

とはいえ、小説の中の検事全員が杓子定規な堅物ばかりというわけではありません。高木彬光さんの『検事霧島三郎シリーズ』や和久峻三さんの『赤かぶ検事シリーズ』には個性豊かな検事が登場しますし、柚月裕子さんの『佐方貞人シリーズ』でも主人公・佐方の検事時代を描いた作品があります。私が最近読んだ検事小説は中山七里さん『能面検事』。この検事もなかなかインパクトありました。

 

こんな人におすすめ

検事が主人公の小説が読みたい人

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「護られなかった者たちへ」 中山七里

貧富の差。日常生活の中でも頻繁に耳にする言葉です。この言葉を見聞きする時、どんな映像が思い浮かぶでしょうか。アフリカや中東などの開発途上国?江戸や明治といった昔の時代?それも間違いではありませんが、今この瞬間、平和なはずの日本国内にも貧富の差は存在します。

格差を解消するための制度は色々ありますが、その筆頭は生活保護でしょう。とはいえ、それは決して完璧とは言えない制度であり、様々なトラブルが起きています。先日、そんな生活保護にまつわる哀しい問題を扱った小説を読みました。中山七里さん『護られなかった者たちへ』です。

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「静おばあちゃんにおまかせ」 中山七里

最近は元気なお年寄りが多いです。ただ体力的に元気なだけでなく、積み重ねてきた経験と知恵をもとに若者顔負けの活躍をするお年寄りには憧れちゃいますね。当ブログでもお年寄りが奮闘する本をいくつか紹介しましたが、それらはすべておじいちゃんが主役でした。

もちろん、おばあちゃんが活躍する小説もたくさんあります。世界的に有名なアガサ・クリスティの『ミス・マープル』シリーズを筆頭に、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』、天藤真さんの『大誘拐』、松尾由美さんの『ハートブレイク・レストラン』エトセトラエトセトラ。どの作品にも個性豊かで魅力的なおばあちゃんが登場しますが、これに出てくるおばあちゃんも負けていません。中山七里さん『静おばあちゃんにおまかせ』です。

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「ネメシスの使者」 中山七里

復讐。なんとも強烈で攻撃的ながら、不思議と人を惹きつける力のある言葉です。復讐がテーマの創作物の場合、しばしばギリシア神話の女神<ネメシス>が登場します。私、てっきりネメシスは<復讐>を司る女神と思い込んでいましたが、それは誤訳であり、本来は<義憤>を意味するそうですね。

酷い仕打ちを受けた者が加害者に対して行う仕返しが<復讐>であり、道理の通らない行いに対する怒りが<義憤>。後者の場合、怒っているのは必ずしも被害者本人とは限りません。先日、この二つの言葉の違いについて考えさせられる小説を読みました。中山七里さんの『ネメシスの使者』です。

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