今、人類は一丸となってコロナウィルスと戦っています。世界各国ではロックダウンの措置が講じられ、オリンピックは延期となり、日本でも非常事態宣言の発令や衛生用品の買い占めなど、平時では考えられなかった事態が次々起こっています。毎日ニュースを見るたび、ウィルスの恐ろしさを実感するとともに、不眠不休で働いてくれている医療従事者や物流業界の方々に頭が下がる思いです。
ですが、嬉しい知らせを聞くこともあります。国内の感染者数は今のところ減少傾向にありますし、非常事態宣言は解除され、以前の日常が戻りつつあると感じる機会も増えました。もちろん、まだまだ油断は禁物ですが、一時の酷い状況を思えば、いい傾向と見ていいでしょう。本好きの私としては、ずっと休館中だった図書館でまた本が借りられるようになったことが嬉しいです。特にこの本は発売前からチェックしていたこともあり、受け取った時は思わずガッツポーズしてしまいました。真梨幸子さんの『坂の上の赤い屋根』です。
こんな人におすすめ
猟奇殺人事件をめぐるイヤミスが読みたい人
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桃太郎、かぐや姫、シンデレラ、眠れる森の美女・・・・・世界各国には様々な童話が存在します。一見、非現実的なフィクションと思われがちですが、童話には現実世界でも通用する教訓が込められているもの。だからこそ、何百年、何千年にも渡って各地で伝わり続けてきたのでしょう。
そんな童話の初版を調べてみると、子どものトラウマになりかねないほど残酷なものが多いです。『白雪姫』の初版で、悪いお妃が焼けた鉄靴を履かされ死ぬまで踊らされるという展開など、そのいい例と言えるでしょう。上記の特性から、童話を現代風にアレンジした小説はたくさんあります。『ヘンゼルとグレーテル』『赤ずきん』『ラプンツェル』などはモチーフになりやすいので、今回は目新しい作品を取り上げたいと思います。真梨幸子さんの『三匹の子豚』です。
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母と娘にまつわる愛憎劇が読みたい人
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ミステリーには、<主役にしやすい職業>というものがあります。高い調査能力や行動力を持ち、事件と関わる確率の高い職業の方が、物語を始めやすいですからね。たとえば刑事や弁護士、検事、ジャーナリストなどなど。探偵もその一つです。
日本の名探偵といえば金田一耕助や明智小五郎などが有名ですが、現代日本において探偵が堂々と大事件に関わる機会はそうそうありません。現代では<探偵事務所>や<興信所>の職員が、人探しや素行調査を行う過程で事件と関わるというパターンが多いです。加納朋子さんの『アリスシリーズ』、柴田よしきさんの『花咲慎一郎シリーズ』などがそうですね。今回ご紹介する小説もその一つ。真梨幸子さんの『初恋さがし』です。
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テンポの良いイヤミスが読みたい人
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映画『羊たちの沈黙』を初めて見た時の衝撃は、今でもよく覚えています。ヒロイン役のジョディ・フォスターの演技やスリリングなストーリー展開、手に汗握るクライマックスなど見所はたくさんありますが、何と言っても一番インパクトがあるのはアンソニー・ホプキンス演じるレクター博士の存在感でしょう。残虐な猟奇殺人を犯しておきながら人並み外れた知能を持ち、収監されているにも関わらず警察から捜査協力を求められるほどの天才犯罪者。その紳士的でありながら凶悪なキャラクターは、現在に至るまで多くの観客を魅了し続けています。
現実でこんなことがあるのかどうかは分かりませんが、「犯罪者が獄中から捜査協力する」というシチュエーションはなかなか面白いです。視覚的に映えるからか映画やドラマではよくあるんですが、小説ではあまりないな・・・と思っていたら、最近読んだ小説がまさにそういう設定でした。真梨幸子さんの『ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係』です。
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ストーカー犯罪を扱ったイヤミスが読みたい人
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SF作品の中では、しばしば「パラレルワールド」という言葉が登場します。この世界と並行して存在する別の世界のことで、A世界で死んだ人間がB世界では生存していたり、C世界では敵同士だった人間がD世界では恋人同士だったりと、無限のパターンがあります。現実離れした考えと思われがちですが、実は物理学の世界でも存在が議論されるテーマだそうですね。
「もしあの時、違う選択肢を選んでいたら」・・・そんなifの世界を描くことができる特性上、パラレルワールドを扱った作品はSF分野に偏りがちです。ちなみに私が見た最初のパラレルワールド作品は、アニメ映画『ドラえもん のび太の魔界大冒険』。子ども向けアニメとは思えないくらい練られた世界観と緻密な伏線の張り方が印象的な名作でした。SF方面のパラレルワールド作品は山のようにあるので、今回はちょっと毛色の違う「もう一つの世界」を描いた小説をご紹介します。真梨幸子さんの『向こう側の、ヨーコ』です。
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中年女性の愛憎ミステリーに興味がある人
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昔、友達と「もし大金持ちだったら言ってみたい台詞」を考える遊びをしたことがあります。私が考えたのは、(1)「端から端まで全部頂くわ」(2)「映画監督のAさん?いい方よ。レマン湖畔の乗馬倶楽部でよくご一緒するの」(3)「〇〇って最近流行っているみたいね。うちの外商さんに取り寄せてもらおうかしら」でした。三つのうち、(1)は店を選べば(駄菓子屋とか)実現可能、(2)は今生では恐らく無理なので来世に期待、(3)はかなり難しいけど(2)に比べればまだ可能性あるかも・・・というところでしょうか。友達の間では、この外商ネタが一番共感してもらえました。
先日読んだ小説によると、そもそも外商とは呉服屋の御用聞き制度が元になっており、顧客の生活すべてをサポート、必要とあらば悩み相談にも応じるコンパニオン的存在だったんだとか。確かに百貨店ならば衣食住すべてに関わる商品を扱っていますし、その商品を顧客のため用意する外商は、「暮らしのトータルコーディネーター」と呼べるのかもしれません。もしも、対価と引き換えにあらゆる相談事に応じてくれる外商がいれば、生活がどれほど楽になるでしょうか。真梨幸子さんの『ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで』には、そんな凄腕外商が登場するんです。
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殺人鬼。これほど禍々しい響きを与える言葉ってそうそうないんじゃないでしょうか。「殺人」だけでも十分恐ろしいのに、その後に「鬼」が付くなんて。何より恐ろしいのは、そんな殺人鬼が現実にもしっかり存在することでしょう。
一方、フィクションの世界に登場する殺人鬼は、決して恐ろしいだけの存在ではありません。貴志祐介さん『悪の教典』の蓮見聖司然り、トマス・ハリス『羊たちの沈黙』のレクター博士然り、殺人鬼たちはその残酷さを以て読者を惹きつけます。そんな小説界の殺人鬼名鑑には、彼女の名前も載せるべきでしょう。真梨幸子さんの『殺人鬼フジコの衝動』に登場するフジコです。
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ある日突然、病気で余命宣告されたら。そんな状況に直面した時、人はどういう行動を取るのでしょうか。愛する人とたくさん思い出を作る?やり残した大仕事を片付ける?百人に聞けば百通りの答えが返ってくると思います。
悔いなく最期の瞬間を迎えるための活動「終活」は、今や社会現象となりつつあります。終活を通じて心の整理を行い、限りある人生を豊かに送る人もいるでしょう。反面、終活を行うことで、忘れたい過去を掘り返すことになったりして・・・そんな「黒い終活」を描いた作品がこれ。真梨幸子さんの『カウントダウン』です。
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成功譚って面白いですよね。困難に負けず、逆境を跳ね除け、幸福への階段を上り詰めていくサクセスストーリーは、いつの世も人の心を惹きつけます。「サウンド・オブ・ミュージック」や「プリティ・ウーマン」が不朽の名作とされるのも、その辺りに理由があるのではないでしょうか。
では、失敗にまつわる物語はどうでしょう。登場人物はいかにして道を誤り、不幸になっていったのか。それだって、なかなか興味深いテーマだと思いませんか?というわけで、今日はこれです。イヤミス界の代表的作家として名高い真梨幸子さんの「私が失敗した理由は」です。
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