本好きとしては大変ありがたいことに、私が住む自治体は複数の図書館を運営してくれています。とはいえ、しょっちゅう行くのは徒歩圏内にある近所の図書館がメイン。行き来に時間がかからない分、本選びに時間をかけられるし、思い付きでふらっと行くことができてとても便利です。
その一方、時には普段利用する所とは違う図書館に行くのも楽しいものです。図書館によって蔵書が違うため、「あ、これずいぶん前に読んだ本だ!」「そう言えば、これってこの作家さんの著作だったんだな」等々、新鮮な面白さがあります。先日、所用で出かけた場所で普段利用しない図書館に立ち寄ったところ、昔読んで大好きだった本と再会しました。小池真理子さんの『あなたに捧げる犯罪』です。
こんな人におすすめ
日常系イヤミスが好きな人
暴君に振り回される女達の意外な関係、浮気相手の急死により暗転していく男の運命、上品な母娘にまつわる黒い噂、妻をこき使う女友達に辟易した夫の企み、愛人を殺害した女を待つ皮肉な顛末、自由を得るため凶行に走った役者の誤算・・・罪は、闇は、いつでも私達のすぐ側にある。身近で起きる犯罪と恐怖を描いたサスペンス短編集
一九九五年に『妻の女友達』という題名でも刊行されています。この当時はまだ<イヤミス>という言葉はなかったはずですが、収録作品はどれもイヤミス、それも名作揃いです。イヤミスとはいえ、ラストは爽快だったり自業自得だったりするものが多く、後味は悪くないので、安心して読めますよ。
「菩薩のような女」・・・事故で足が不自由になり、日に日に性根を歪ませていく男。男の妻、娘達、妹は、男に嫌悪感を募らせつつも手を取り合って暮らしていた。そんなある日、男が火事に巻き込まれて死亡するのだが・・・・・
序盤から繰り返し描写される男の暴君ぶりがものすごく不快で、こいつが場面に登場するだけでイライラしっぱなしでした。ただ、嫌われ者が一人いると、周囲が結託するというのはよくあること。男の妹、前妻の娘、後妻という複雑な関係の女達が、仲良く和気藹々と付き合う流れにも納得させられてしまいます。最後の展開を見るに、これはハッピーエンドと言っていいのでしょうね。
「転落」・・・安定した地位と有力者一族の妻に支えられ、大学教授・柿沼の人生は順風満帆だった。そこに飛び込んできた、愛人・美也子の死の知らせ。まさか、自殺?実は柿沼と美也子は、過去に二人でとある犯罪に関わっていた。美也子が遺書にあの一件を書き遺していたらどうしよう。不安に駆られた柿沼は、美也子の姉に連絡してみるが・・・・・
ラストが分かってみれば、愛人の死にてんやわんやする柿沼があまりに愚かで滑稽です。最初の一歩から、彼は何もかも間違っていたわけですね。ここまでのことになっちゃったけど、これからこの夫婦はどうするのかな。小心さから出たこととはいえ、柿沼は相当なことをやらかしてしまったわけだし、しっかり報いを受けてほしいものです。
「男喰いの女」・・・幸福な結婚生活を送る美佐子は、ある時、弟嫁である留美子に関する妙な噂を聞く。留美子は二度、その母・初江には三度、夫と死別した過去がある。すべて病死や事故死であり、不審な点はないものの、「あの親子は男喰いだ。関わった男はどんどん死ぬ」と囁く近隣住民。美佐子はなんとなく引っかかりを覚えるも、ただの噂と思っていた。だが、元気だったオスの飼い犬が急死し、続けざまにさらなる悲劇が起こり・・・・・
疑心暗鬼に駆られた美佐子を愚かと断じるのは簡単です。でも、配偶者が何人も死んだ人間が身内にいたら・・・その人間の親も繰り返し死別を経験していたら・・・「この人達、何かあるんじゃないの?」と思っても責められない気がします。留美子も初江も文句なしの善人な分、疑いを口にできず、追い詰められちゃったかな。ラストの美佐子の姿が哀れでした。
「妻の女友達」・・・優しい妻、可愛い娘、堅実な仕事。過不足ない毎日を送る主人公だが、妻の旧友だという女性・美雪が現れてから、彼の幸福がひび割れ始める。美雪は妻を小間使い扱いし、何かというと呼びつけてこき使う。我慢の限界に達した主人公は、ついに行動に出ることにして・・・・・
平凡だからこそ視野が狭く、狭量な主人公の行動にリアリティがありました。これは極端なケースにしても、こういうすれ違いって現実にもよくある気がします。なお、この話は大泉洋さんと戸田菜穂さん主演でドラマ化されています。ラストの解釈が小説版と変えてありますが、なかなか秀逸な改変でした。機会があれば、ぜひ見比べてみてください。
「間違った死に場所」・・・有名キャスター・恩田に囲われ、裕福ながら自由が一切ない生活を送る満美子。ある日、恩田のあまりに無情な言動に激高した満美子は、発作的に彼を殺してしまう。我に返り、恩田の妻に詫びてから自首しようとする満美子だが、妻は意外なことを言い出して・・・・・
第一話同様、犯罪が行われているにも関わらず、やけに後味スッキリという皮肉な話でした。まあ、本妻もその娘夫婦も、なかなかいい性格していましたしね。序盤、傲慢な愛人に抑圧されっぱなしだった満美子が、ラストで浮かべた笑みが印象的です。こういう逆転劇は結構好きだったりします。
「セ・フィニ-――終幕」・・・メインキャストで出演した舞台が大成功し、夏彦は有頂天。有名俳優の仲間入りを果たした今、堅い家で育った恋人・久美子とも堂々と結婚できる。この結婚の障害はたった一つ。大女優であり、有名演出家の妻でもある麻衣の存在だ。夏彦とは体だけの割り切った関係だったはずだが、夏彦が別れを切り出すと、麻衣は予想外の執着を見せ始め・・・・・
麻衣はかなり粘着質で厄介な性格だし、夏彦にも同情すべき点がないわけではないですが・・・でも、その一線を踏み越えちゃいけないよなぁ。後になって考えてみれば、ここまでのことをしなくても、相談できる相手はちゃんといただろうに。こういう話にしては珍しく、本命の恋人(平凡)への愛情が本物というところが、なんだか皮肉でした。
もう何度繰り返したか分からないことを、しつこいと承知でまた書きますが、私、この時期の小池真理子さんの短編が大好きなんです。毒と皮肉たっぷりで、心理描写が丁寧で、ラストが印象的で・・・最近の情感溢れる長編作品も素晴らしいと思いますが、もう本作のような短編の新作にはお目にかかれないのでしょうか。一日千秋の思いで待ち続けています。
どの話も密度が超濃い!度★★★★★
男も女もどちらも愚か・・・度★★★★☆
湊かなえさんや秋吉理香子さんの前のイヤミスなんですね。
イヤミスという言葉が出る前のドロドロした女性中心の嫌味なミステリーは、今のイヤミスとどう違うのか~興味深いです。
最近、新作ばかり読むのに懸命でシリーズの続編読むのに前作の内容を忘れた時にしか再読しなくなりました。
読む本の量は限りがありますが、昔の本を読み直すのも良いですね。
「灰色の家」「空想の海」予約しました。
当時の時代背景などもちらほら垣間見えて、とても面白かったです。
新刊ももちろん良いけれど、良質な本を時々再読するのも読書の醍醐味の一つですね。
「業火の地」「空想の海」「灰色の家」、読了しました。
「空想の海」は「この本を盗む者は」と関連している作品も収録されているので、読了済みなら楽しさ倍増だと思います。
探しても見つからないと思ったら、図書館の書庫にあったので出して貰いました。
古書の匂いに文庫分が480円とは時代を感じました。
どれも他の作品で似たような展開とオチを読んだ気がしました。
携帯すらない時代、DVDがなくビデオ、の平成のトリックは懐かしさすら感じました。
男の勝手な思い込み、自信過剰な態度に対しての女性の行動に裏をかかれる場面が爽快でしたが、最後の作品でそれは逆もまた然りだと感じました。
「妻の女友達」はその最たるものでドラマが観たいと思いました。
美雪は誰が演じていたのか興味深いです。
イヤミスでガツンと来るオチでも読みやすい~ライトノベルの先駆けでもあるように思いました。
「空想の海」読み終えましたが意味が分からない作品もありイマイチでした。
ドラマ版「妻の女友達」は、主人公である夫の狂気がより強調された展開を迎えます。
美雪を演じるのは高岡早紀さん。
丁寧に作られた良作でしたので、機会があればぜひ視聴してみてください。
「空想の海」、同じくイマイチでした。
「この本を盗む者は」「カミサマはそういない」でも思いましたが、深緑野分さんは抽象的でファンタジー寄りの作品より、オチがびしっと決まる現実的な作品の方が面白いなぁと・・・
「オーブランの少女」「戦場のコックたち」なんて、何度再読しても面白いです。