「雷親父」という言葉は、今や死語になりつつあります。雷のように大声で怒鳴る、何かと口やかましい親父のことですが、今のご時世では迂闊に怒鳴り声を上げると一歩間違えれば警察沙汰。『サザエさん』に登場する波平さんのような雷親父は生きにくい社会なのでしょう。
ですが、私には雷親父が不要な存在だとは思えません。筋を通し、節度を重んじ、若者を教え導く気骨ある老人は、絶対に必要なのだと思います。今回取り上げるのは中山七里さんの『秋山善吉工務店』。このおじいちゃん、かなり素敵ですよ。
家事で家を焼かれ、大黒柱の史親をも失った秋山母子は、亡き夫の実家である「秋山善吉工務店」に身を寄せる。頑固一徹の祖父・秋山善吉との生活に息苦しさを感じる母子だが、彼らが抱える悩みはそれだけではなかった。学校でのいじめ、脱法ハーブ、職場に押し掛けるクレーマー、そして史親の死にまつわる黒い疑惑・・・・・家族を苦しめる困難の数々を、善吉じいちゃんが鮮やかに薙ぎ払う!
本の表紙にどどーんと登場しているのが本作のメインキャラクターである秋山善吉おじいちゃんです。このイラストを見るだけで彼の人となりが分かりますね。曲がったことが大嫌いな堅物で、必要とあらば鉄拳制裁も辞さず、おまけにヤクザや警察とも渡り合えるほどの胆力と腕力の持ち主。最初は善吉を怖がっていた嫁の景子や二人の孫息子たちが、彼の助けを借りてトラブルを解決し、徐々に打ち解けていく様子は読んでいて心地良かったです。
で、そのトラブルですが、これがまたページをめくるのが嫌になるくらい深刻なものばかり。卑劣極まりない残酷ないじめに暴力団の絡んだ脱法ハーブの売買、もはや狂気すら感じるほど悪質なクレーマー。嫁や孫を悩ませるこれらの問題を、善吉がばっさばっさと快刀乱麻を断つがごとく解決していってくれるのです。善吉ほどの大立ち回りはないけれど、妻の春江さんもなかなかいい味出していますよ。
そして後半から出てくるのが、物語冒頭で起きた秋山家の火災と史親の死に関する謎。当初は事故と思われていたそれですが、実は故意によるものではないかという疑惑があり、一人の刑事が捜査に乗り出します。この辺りから前半の痛快日常ミステリとは雰囲気が変わり始め、なんともハラハラさせられますが、我らの善吉おじいちゃんは警察相手だって負けません。善吉の発する一言一句に、そして彼の最後の行動に、胸が一杯になりました。
中山ワールドのお楽しみである「作品を超えたキャラクターの再登場」ですが、本作では『セイレーンの懺悔』からイケメン刑事の宮藤賢次が、台詞や回想シーンのみですが『ヒートアップ』から暴力団の渉外担当・山崎岳海、『スタート!』から宮藤賢次の兄である宮藤映一が登場しています。刑事の宮藤は本作では秋山家を探り、追い詰めるという役回りの関係上、どうしても敵役のように思えてしまって少し残念でした。中山七里さんの著作レビューではよく書くことですが、上記のキャラクターを知らなくても問題はありませんので、安心して読んでくださいね。
こんなおじいちゃんと会ってみたい度★★★★★
まさかラストがこんな風になるとは・・・度★★★★★
こんな人におすすめ
お年寄りが活躍するミステリ小説が読みたい人
中山七里さんの新作ですか?
初めて知りました。
有川浩の「三匹のおっさん」のような雰囲気です。
今どき流行らない雷親父の奮闘振り、ミステリーにヒューマンドラマ、これは是非とも読みたい作品です。
図書館で予約してきます。
そうそう、私も「三匹のおっさん」を連想しました!
時代遅れのようでいて、現代にこそ必要な愛すべき頑固親父の奮闘記でしたよ。
中山さんは業界小説を書かせても巧いですが、こういう一市民の物語も面白いですね。