寡婦、後家、未亡人。いずれも夫を亡くし、再婚していない女性を指す言葉です。日本ではこれらの女性を支援するため、税金などで優遇措置が設けられています。
その一方、一人身になった女性が直面する問題もたくさんあります。そんなの昔の話?本当にそうでしょうか。夫と死に別れた女性を待ち受ける困難とはどんなものなのか。今日は、その一例を描いた作品を紹介します。垣谷美雨さんの『嫁をやめる日』です。
夫・堅太郎が急死し、突如として未亡人となったヒロイン・夏葉子。夫とは長年距離のある関係であり、死に別れてもいまいち悲しみが湧いてこない。そんな彼女に降りかかるトラブルの数々。亡夫にまつわる不倫疑惑、まるで監視するかのような夫側親族の振る舞い、上手くいかない実家との付き合い・・・悩み、疲れる夏葉子は、果たして「嫁をやめる日」を迎えることができるのか。
舞台となるのは長崎の田舎町。東京からこの町の旧家に嫁いできた夏葉子に子どもはなく、夫を亡くした今、気ままな独身生活が始まる・・・・・はずでした。ところがどっこい、周りが知り合いだらけの田舎で、「旧家の未亡人」である夏葉子は注目され、義両親やその関係者から「見守り」という名の監視を受けることになるのです。
本作の面白い点は、夏葉子を悩ませる義両親らが決して「悪人」ではないというところ。彼らは育ちのいい「善人」で、堅太郎の生前から夏葉子を気遣い、死後は夏葉子のため即座に相続放棄をします。夏葉子も未亡人となるまでは義両親を慕い、憧れていました。
しかし、堅太郎が亡くなると、義両親の態度は次第に常識外れなものになっていきます。合鍵で夏葉子宅に勝手に出入りしてお茶を飲み、友人知人を呼び、仏壇を送りつけ、挙げ句に堅太郎の引きこもりの姉の面倒すら夏葉子が見て当然という言動を取ります。二言目には「夏葉子さんは優しいお嫁さんだ」「こんないい嫁がいて本当に良かった」と繰り返しながら・・・この悪意のまったくない押し付けが本当に怖い!ページをめくるたび、夏葉子の戸惑いや嫌悪感が伝わってきて身震いするほどでした。
このヒロイン・夏葉子は典型的な優等生タイプ。しっかり者で頼りになると言われながら、実家では我の強い母と妹に気圧され、未亡人となってからは義両親に振り回され、なかなか本心を打ち明けることができません。この夏葉子に感情移入してしまう女性は多いんじゃないでしょうか。こういうタイプは現実社会でとかく損をしがちですが、本作では頼れる実父の活躍により、実に爽やかな展開を迎えます。
タイトルが『妻をやめる日』ではなく『嫁をやめる日』である点がミソですね。最近よくメディアで取り上げられる「死後離婚」についても学ぶことができ、とても読み応えのある作品でした。垣谷さんらしい、現実味のある前向きなラストが素敵!夏葉子の未来に幸あれ!
未亡人ってそういう意味だったんだ度★★★★☆
亡夫の真意は果たして・・・度★★★★☆
こんな人におすすめ
・後味の良い家族小説が読みたい人
・「死後離婚」というテーマに興味がある人
垣谷さんらしい設定と展開ですね。
嫁を逃げられないように監視している設定は怖いようで現実にありがちな感じがしました。
何となく結末は分かる気がしますが、そこまでがどういう展開になるか楽しみです。
こういうシチュエーションは、まさに垣谷さんの十八番ですね。
決していびるでなく、「いいお嫁さんだ」と繰り返しながらヒロインを束縛する展開にリアリティがありました。
こんな風にまとわりつかれたら、びしっと拒絶するのは難しいだろうなぁ・・・