こんなブログまで開設しているのですから今さら言うまでもありませんが、私は読書が好きです。一番好きなのはミステリーですが、基本的にホラー、恋愛、SF、ヒューマンドラマと何でもござれですし、エッセイや児童文学にも手を出します。親に聞いてみると、昔から本さえ与えておけば何時間でも大人しくしている子どもだったようですね。
そんな私が大好きな場所、それが本屋です。最近、大型書店はどんどん綺麗になり、店内に立派なテーブルやソファを設置して購入前の本を読めるようにしてあったり、併設のカフェからなら飲食物を持ち込めたりするような店も多いです。そういう店ももちろん好きですが、昔ながらの小さな本屋さん、街角にひっそりあるような古本屋さんも大好きですよ。そんな愛すべき本屋を扱った作品といえばこれ。ありとあらゆるジャンルの小説を手がけ、無類のゲーム好きとしても知られる宮部みゆきさんの『淋しい狩人』です。
結婚式の引き出物の本に書かれていた不気味な文字、亡父が遺したまったく同じ三〇二冊もの本、家の建て替え工事中に見つかった防空壕と遺体、古本屋で万引きを行う訳ありの少年・・・・・東京の下町で古本屋を切り盛りする老人・岩永(通称イワさん)と孫の稔が見た様々な事件の行方は如何に?本にまつわる様々な人間模様と、その裏に隠された謎を描く連作短編小説集。
頑固ながら人情味溢れる祖父・イワさんと、そんな祖父を時々おちょくりつつ慕う孫・稔の関係がすごく良い!もともと「お年寄りとティーンエイジャー」という組み合わせが大好きな私のツボにハマるコンビでした。腕力も権力も持たない老人と少年が、経験と機転とフットワークの軽さで事件を解決する・・・その設定だけでワクワクします。宮部みゆきさんは、少年少女キャラを魅力的に描くことに定評がありますが、本作はおじいちゃんキャラも負けず劣らず素敵です。
収録されている話は全部で六つ。導入部分自体は身近なものの、明らかになる真実は殺人・児童虐待・横領など、深刻なものが多いです。中には関係者がすでに死んでいたり、数十年前の出来事が絡んでいたりと、「謎が解けて完全解決!」とはいかない話もあります。普通なら後味が悪いばかりで終わりそうなところを、宮部みゆきさんらしい優しい語り口と、心温まる祖父と孫のやり取りによって救われます。
作中で起こる事件そのものは一話完結型ですが、それとは別に、稔の恋愛騒動も描かれます。高校生の稔の恋のお相手は、水商売で生計を立てる年上の女性。当然、イワさんをはじめ稔の家族は仰天し、円満だったジジマゴの中もぎくしゃくし始めます。ここで単純に「理解ある祖父が若者の恋を応援する」などという展開にしないところが、この作者の侮れない点ですね。恋の顛末については触れないでおきますが、イワさんが稔の恋人の女性に向けて語る言葉がとても良かったことだけは記載しておきます。
宮部みゆきさんの短編集といえば、『ステップファザー・ステップ』『心とろかすような マサの事件簿』『本所深川ふしぎ草紙』などが有名ですが、この作品も間違いなく良作の一つだと思います。こんなチャーミングなおじいさんと孫がいる古本屋が近所にあれば、毎日通うんだけどなぁ。
本を大事にする人って良いよね度★★★★☆
お年寄りと少年って侮れない度★★★☆☆
こんな人におすすめ
本をテーマにしたミステリーが読みたい人
宮部みゆきさんの短編ミステリーですね。短編でも登場人物たちの深い人生背景や事件の複雑な事情がありそうですが楽しめそうです。
本好きの心をくすぐる一冊でした。
どの話でも「本」がキーワードになっていて、本筋への絡め方がこれまた巧いんです。
昔、町の古本屋巡りが楽しくて仕方なかったことを思い出しました。
こんにちは、ライオンまるさん。
私自身が本好きのせいか、古本屋が舞台となる物語は、やはりとても楽しいですね。
登場するのが稀覯本や古書マニアではなく、ごく普通の本とごく普通の人々というのがまた嬉しいところです。
少々重い物語も多いのですが、それでもイワさんと孫の稔の軽快なやり取りや、イワさんの含蓄のある言葉、稔の素直な反応によって、冷えそうになった心が温まる物語ばかりです。
「六月は名ばかりの月」—-わざわざバリンジャーの作品を出す意味があるのかどうか? それとも、この作品を使って書きたいというのが先だったのでしょうか。
あまり好きなタイプの話ではないのですが、それでもやはり、宮部みゆんは上手いですね。そして、この題名もすごく良いですね。
「黙って逝った」—-その時のお父さんの顔を想像すると、かなり楽しくなってしまいます。
「詫びない年月」—-いいですね。どこがどうだというわけではないのですが、とても好きな物語です。
「うそつき喇叭」—-本当にありそうなところが怖いです。デモシカ、ですか。
「歪んだ鏡」—-こういう思考回路は淋しすぎます。このやり方は決して肯定できませんが、それでも、こういう本との出会いは、本当に素敵なことですね。
「淋しい狩人」—-稔の恋が切ないです。こうしてまた一歩、大人になってしまうのでしょう。
「詫びない年月」に出てくる、駆け出しのミステリ作家というのは、もしかして宮部みゆきさんご本人のことなのでしょうか。
小さなエピソードまでとても楽しめました。恐らく、宮部みゆきさんは、おじいちゃん子だったのでしょうね。
おじいちゃんの元に嬉々として通う稔の姿は、最近ではあまり見られない光景となってしまいましたが、とても素敵ですね。
稔が大人になるに従い、自然と距離が出来てしまうのは避けられないことだと思いますし、周囲の大人にとっては、淋しいものだろうと思います。
しかし、一度確固とした信頼関係を築き上げていれば、おそらくまた改めていい関係が築けるでしょうね。
こういう時は、何もしないで見守ってあげるのが一番かも知れません。
稔は素敵な男性になりそうですし、その姿もまたいつか見たいものです。
こんにちは、オーウェンさん。
宮部みゆきさんの作品には、お年寄りと若者のバディ物がいくつかありますが、本作の二人が一番好きです。
いつまでもベッタリ仲良しこよしではなく、孫の成長につれて新たな関係を構築していくという流れが印象的でした。
どの話も面白かったですが、「うそつき喇叭」の醜悪さは強烈・・・
イワさん達の作戦が功を奏して本当に良かった!!
ところで、私は気づいていなかったのですが、本作は北大路欣也さん主演でドラマ化されていました。
好きな俳優さんだし、見逃したことが悔やまれます。