最初に受験をしたのは何歳の時ですか?私は私立中学を受験したので、十二歳の時です。残念ながら不合格だったものの、わざわざ家庭教師まで付けて応援してくれた両親には今でも感謝しています。
今や「お受験」という言葉はごく一般的なものとなり、早い子は幼稚園入園の段階から受験戦争に参戦します。そこで競われるのは、子どもの能力だけでなく親の熱意。今日は、お受験を機にもつれ、絡み合っていく人間模様を描いた作品をご紹介します。小説だけでなく、エッセイや翻訳など幅広い分野で活躍する、角田光代さんの「森に眠る魚」です。
素直であっけらかんとした性格の繭子、繊細で大人しい容子、美人で社交的な千花、ボランティア活動を行う慎重派の瞳、都心のマンション最上階で裕福な生活を送るかおり・・・・・性格も家庭環境もばらばらながら、子育てを通じて仲良くなった五人の女性。円満だったはずの彼女たちの仲は、子どもの受験をきっかけに軋み、捩れ始めていく。深い森に迷い込むかのごとく疑心暗鬼に陥る五人が、最後に見つけたものとは。
あらすじを読んで気付いた方もいるかもしれませんが、本作は一九九九年に起きた文京区幼女殺人事件をモチーフにしています。子どもをきっかけに親しくなったはずの母親同士の関係が、子どもをきっかけに不協和音を奏でるようになる。そのあまりの生々しさに、ページをめくるのが辛くなるほどでした。
何より驚かされるのは、中心となる五人の女性たちの心理描写。最初は互いの個性の違いを面白がり、円満に付き合っていた女性たちの友情が、些細なズレを機に崩壊していく、その過程がものすごく丁寧に描かれています。同性同士の人間関係で揉めた経験のある女性など、この辺りを読むと息苦しさささえ覚えるのではないでしょうか。
五人は全員ごく普通の女性たちで、全員に長所と短所があり、共感と反感の両方を抱けるような描き方をされています。大らかで裏表がないヤンママはズボラでだらしなく、明るく華やかなリーダーママの息子は叱らない子育ての影響で乱暴者、何不自由なく暮らすはずのセレブママは元上司と不倫中。各自のそんな負の側面が徐々に露わになり、やがて狂気すら感じさせるようになる様子は、下手なホラーよりよほど怖かったです。
本作はミステリーというより心理サスペンスであり、「名探偵が出てきて一気に事件解決」というわけにはいきません。修復できたものもある一方で取り戻せないものもあり、人によっては後味が悪いと感じることでしょう。ですが、私はラストに一筋の光があると思います。人の幸せとは何なのか、希望とは何なのか、真摯に考えさせられる一冊でした。
すれ違いの積み重ねって恐ろしい度★★★★★
子どもの無邪気さが救い度★★★☆☆
こんな人におすすめ
・ママ友同士のどろどろ感を堪能したい人
・お受験をテーマにした小説に興味がある人
受験をテーマにした心理サスペンスですか?
お受験を題材にしたストーリーはかなり読みましたが小説やドラマのような足の引っ張り合いや水面下の駆け引き、なりふり構わない競争が現実にもあると感じました。
角田光代さんは未読ですが、これを機に読んで行きたいですね。
実際の事件をモチーフにしているだけあって、登場人物たちのドロドロした感情にリアリティがありました。
中学でも高校でもなく小学校受験というところが、本作をより重苦しいものにしている気がします。
私自身、角田光代さんを読んだのはこの作品が初めてでしたが、すっかりハマってしまいました。