「さあ、今日は一杯やるぞ!」となった時、まずどんなお酒に手を出すでしょうか。缶チューハイ、カクテル、ワイン、日本酒・・・それこそ無限に出てきそうですが、割合で言うなら、「まずビールで」となる人が多い気がします。家にしろ飲食店にしろ準備するのに時間がかからず、アルコール度数もさほどではないビールは、多くの人に好まれています。
国内外問わずポピュラーなお酒なだけあって、ビールがキーアイテムとして登場する小説はたくさんあります。竹内真さんの『ビールボーイズ』や吉村喜彦さんの『ビア・ボーイ』などは、お酒好きな人が読めばつい一杯やりたくなってしまうかもしれません。そう言えば、「村上春樹さんの小説を読むと、ビールが飲みたくなる」という声もあるのだとか。こんな言葉が出ることからしても、ビールというお酒がどれだけ世間に浸透しているかが分かります。今回ご紹介する作品にも、ビールが重要な小道具として登場しますよ。西澤保彦さんの『麦酒の家の冒険』です。
こんな人におすすめ
・多重解決ミステリーが読みたい人
・ビールがたくさん出てくる小説に興味がある人
心身の疲れを癒すため、某高原に遊びに来たタック、タカチ、ボアン先輩、ウサコの四人組。楽しいひと時を過ごす四人だが、アクシデントの連続により、ドライブ中に迷子になってしまう。助けを求めてどうにか辿り着いた民家は無人で家具もない空き家状態。しかし、なぜかクローゼットの中には大量の缶ビールと凍らせたジョッキが隠してあった。一体この家は何なのか。どうしてこんなにたくさんのビールとジョッキが隠してあるのか。推理を重ねるうち、四人はとんでもない可能性に行き当たり・・・酔えば酔うほど推理が冴える。ビール好きには堪らない、安楽椅子探偵ミステリー
西澤保彦さんの代表作『匠千暁シリーズ』第三弾です。時系列としては二作目『彼女が死んだ夜』のすぐ後。一作目は『解体諸因』という短編集なのですが、これは主要登場人物達が卒業や就職を果たした後の話がメインなので、時間軸で言うと『彼女が死んだ夜』が一作目、本作が二作目と思って間違いないでしょう。一応、序盤で『彼女が死んだ夜』の件に触れる箇所もあるものの、内容にはまったく関係しないので、特に気にする必要はないと思います。
タック、タカチ、ボアン先輩、ウサコの四人組は、リフレッシュのため、夏休みを利用してR高原を訪れます。旅行はとても楽しいものでしたが、不運や事故の積み重ねにより、ドライブ中にガス欠、迷子となってどことも知れぬ山道を彷徨い歩く羽目に陥ります。どうにか無人の山荘を見つけた四人は、緊急避難として無断で中に侵入。探索したところ、屋内には整えられたベッドが一台と、二階のクローゼット内に冷蔵庫が一台置いてあることが分かります。おまけに冷蔵庫内には、なぜか冷えたエビスのロング缶が九十六本と、同じく冷やされたジョッキが十三本・・・・・この山荘は何なのか。なぜクローゼットの中に冷蔵庫が隠してあり、これほど大量のビールとジョッキが冷やされているのか。いや、それよりも何よりも喉が渇いて死にそうだ!遭難で疲れ果てていた四人は、悪いことと知りつつ冷やされていたビールをかっくらい、この事態を推理し始めます。果たして彼らは、この謎めいた<麦酒の家>の真実に辿り着くことができるのでしょうか。
シリーズ中数少ない、リアルタイムでは人死にが出ない話です。そのせいか、人間の悪意にゾッとさせられるシリーズ作品が多い中、本作の雰囲気は終始ライト。というか、何よりまず主人公達が、やむをえない事情があるとはいえ、不法侵入に窃盗という犯罪を犯しているわけですからね。最初は躊躇いがちに、やがてリミッター外れたかのごとく飲んで飲んで飲みまくるタック達の姿に苦笑してしまいました。
それにしても、<謎のビールが大量に隠してある>という状況で、これだけの仮説を作り上げられる西澤保彦さんの発想力・構成力に脱帽!西澤ワールドには、複数の登場人物がああでもないこうでもないと推理をぶつけ合いながら謎解きする、いわゆる<多重解決ミステリー>が数多く存在しますが、その代表格がまさに本作と言えるでしょう。酒が進み、完全に酔っ払い状態となった四人の口から飛び出すのは、男女の三角関係説、子どものしつけ説、AVの撮影説、誘拐説etcetc・・・ただの戯言になりそうなものですが、作中に登場する伏線をうまく絡めることで「え、まさか本当に?」と思わされてしまうんですよ。単なる机上の空論が、最後に現実の犯罪に関わってくるラストもお見事でした。
西澤保彦さん曰く、本作はハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』を意識して書いたとのこと。魅力的な小説なのでオマージュされることが多いですが、個人的には本作が一番好きだったりします。いつもの悪意どろどろの西澤作品に慣れてしまうと、こういう軽妙な雰囲気も清涼剤のようでいいですね。
推理・推理・推理のオンパレード!度★★★★★
とにかくビールが美味しそう度★★★★★
西澤保彦さんのシリーズですか。
一作目から読んでみたくなりました。
ビールは今でも美味しいと思ったことはないです。
ビール工場は何度も見学に行きましたが・・・。
ビールを美味しそうに飲む姿を見ても美味しいとは思えないですがこれは読んでみたいですね。
この「タック&タカチシリーズ」は、SF設定が一切絡まないミステリーなので、西澤保彦さんの著作の中でも一番取っつきやすいと思います。
ビールをはじめアルコール一切ダメな私ですが、この作品の飲酒シーンはめちゃくちゃ美味しそうに感じられました。
一応、登場人物達が少しずつ年を取っていく形式のシリーズなので、機会があればぜひ一作目「彼女が死んだ夜」から読まれてみてください。