はいくる

「祝祭のハングマン」 中山七里

『必殺シリーズ』『怨み屋本舗』『善悪の屑』・・・ドラマや漫画として人気を博したこれらの作品には、一つの共通項があります。それは、何らかの事情で法の裁きを逃れた、あるいは裁かれたものの罪に不釣り合いな軽い刑罰だった標的を密かに裁く存在が出てくるということ。悲しいかな、罪を犯しておきながらのうのうとのさばる人間は、いつの世にも存在します。「誰かがあいつらに罰を与えてくれたらいいのに・・・」。法的な是非はともかく、そういう感情は誰しもあるでしょう。だからこそ、例に挙げたような作品が人気を集めるのかもしれません。

ただ、仕置き人稼業を扱った作品を探してみると、漫画か、もしくは時代劇が多く、現代を舞台にした小説は少ない気がします。設定上、絵的に映える展開が多かったり、時代劇の方が復讐代行を行いやすかったりするからでしょうか。ですから、この作品を読んだ時は、なんだか新鮮な気分でした。中山七里さん『祝祭のハングマン』です。

 

こんな人におすすめ

復讐代行人が出てくる小説が読みたい人

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法で裁けないというなら、代わりに裁いてやる---――とある中堅ゼネコンで起きた、管理職三人の連続不審死事件。この三人は、会社の裏金作りに関与した可能性はあるという。明らかに怪しいものの、殺人事件とする証拠はなく、不幸な偶然という方向に向かう。そんなはずはない。三人は会社に裏切られて殺されたんだ。この事件で父を亡くした刑事の瑠衣はそう確信するも、証拠がない以上は動けず、そればかりか、被害者遺族であることを理由に捜査から外されてしまう。無力感を噛み締める瑠衣の前に現れたのは、元刑事だという私立探偵・鳥海。彼と関わるうち、瑠衣は司法の手が及ばない罪人を裁く復讐代行人の存在に気付き・・・・・

 

御子柴弁護士や蒲生美智留といった、人間の負の側面を体現したキャラクターが数多く登場する中山ワールドですが、改めて考えてみると、復讐代行というのは本作が初めてな気がします。多作な作家さんなので、ちょっと意外でした。使い勝手が良く、活躍させ甲斐のありそうなキャラがたくさん出てくるので、すでにシリーズ化の構想があるのかもしれませんね。

 

主人公は、捜査一課に所属する女性刑事・瑠衣。彼女は今、某ゼネコンで起きた社員の不審死事件を追っています。一人目は交通事故で、二人目は駅構内での転落死。どちらも不審な点はあるものの、事件だという確証はなく、捜査は膠着状態に。実は犠牲者二人が勤めていた会社は、瑠衣の父の勤務先でもありました。いつも無口な父親が、この事件のこととなると普段以上に頑なになることに、疑念を抱く瑠衣。もっと話を聞くべきだと思っていた矢先、なんと父が職場での事故で急死してしまいます。打ちのめされる瑠衣は、地検特捜部の言葉で、死んだ三人が会社の裏金作りに関わっていた可能性があると知ります。父はきっと、会社に騙された挙句に殺されたんだ。そう確信する瑠衣ですが、三人が殺されたという証拠はない上、被害者遺族であるため捜査に加わることもできません。八方塞がりの彼女の前に、私立探偵の鳥海が現れます。鳥海との接触で、法に代わって罪人への制裁を行う執行人の存在に気付く瑠衣。瑠衣は果たして、亡き父達の無念を晴らすことができるのでしょうか。

 

私は楽しく読めましたが、万人受けしやすい中山作品としては、人を選ぶ内容だと思います。まず、ミステリーというよりサスペンス寄りの内容であり、中山七里さんお得意のどんでん返しがほぼないこと。やっぱり、中山七里さんの作品を読む以上、終盤で世界がひっくり返るような衝撃を期待してしまいますよね。ところが本作の場合、悪人は最初から悪人のままだし、復讐代行人の存在も中盤で明らかになるし、「ええーっ、まさか、そういうことだったの!?」という驚きは少ないです。

 

また、主人公・瑠衣も、本作の時点では好感を集めにくいかもしれません。父親を亡くしたという事情があるから無理ないとはいえ、とにかく感情的に動き回り、なんと関係者相手に暴力を振るう寸前までいく始末。同じ若手の女性枠でも、『犬養隼人シリーズ』の高千穂明日香や、『ヒポクラテスシリーズ』の栂野真琴が、未熟ながら職業人としての心意気を見せてくれたのに対し、ちょっと暴走が過ぎるなという印象です。

 

逆に言えば、これらの引っかかりがあって尚、ぐいぐい読ませるリーダビリティはさすがだと思います。捜査本部でのしがらみや企業内のあれこれ、瑠衣が刑事と被害者遺族という二つの立場で板挟みになる様子などの描写が丁寧で、元凶となった連中に腹が立って仕方ありませんでした。

 

さらに、予想に反して案外あっさり現れる復讐代行人達のキャラクターも魅力的です。見るからに癖のありそうな実働部隊&軽妙な頭脳労働担当の描き方が面白いんですよ。この二人、とにかく動かしやすそうなので、いずれ他の中山作品にも出てきそうですね。実は御子柴弁護士辺りと繋がりがあったりして・・・などと、想像を膨らませてしまいます。

 

たぶん間違いなく続編があるであろう終わり方をするし、いずれ、刑事でありながら復讐代行人と関わってしまった瑠衣のその後を知る日も来るのでしょう。立場上、本作では最初から最後まで追い詰められていた彼女が、心安らかになる日は来るのでしょうか。犬養、葛城、宮藤といったお馴染みキャラクターもちらほら出てきますが、彼らと瑠衣が深く関わることがあるのか、すごく気になります。

 

罪は必ず罰せられるべき度★★★★★

読み終えてみれば、表紙もネタバレ度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    今までの中山七里さんの作品らしいようで新しい展開だと感じました。
    公職にある刑事が、父親の敵を討つ為に自ら入ってはいけない一線に踏み入る場面が印象的でした。
    ぶっきら棒で不器用でも娘への愛情が伝わる父親の様子は微笑ましいものを感じましたが、その父親が殺害されたときの瑠衣の中で何かが弾けた時、刑事が殺し屋の片棒を担ぐどころか殺し屋を巻き込んだ執念が凄かったです。
     暴力団・政治家と繋がっている刑事のストーリーはいくらでもありますが、この斬新なようで聞いたことのあるストーリーは、必殺仕事人や昔のテレビドラマ、佐藤浩市さん、名高達郎さんが出演していたハングマンを彷彿させます。
     続編で御子柴弁護士や岬洋介と共演する場面が楽しみです。
     

    1. ライオンまる より:

      何かと家族関係が複雑な登場人物が多い中山ワールドの中、ヒロインとお父さんの関係はすごく健やかな感じでしたが・・・
      あまりにやるせない死と、その後のヒロインの変貌に胸が痛みました。
      これは絶対に続編ありそうですよね。
      どのキャラクターとの絡みがあるのか、すごく気になります。

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