LGBT問題は、もはや単語を見聞きしない日はないと言っても過言ではないくらい、社会全体で一般的なテーマとなりました。簡単に説明しておくと、LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの四つの単語の頭文字を組み合わせた表現です。日本におけるパートナーシップ制度のように、彼らの権利を保護する制度・法律もできている一方、悲しいかな、理不尽な差別の対象となることも少なくありません。
ただ、人種差別や性差別といった差別問題と、LGBTに対する差別とでは、一つ、大きな違いがあると思います。それは<本人が隠そうと思えば隠すことも不可能ではない>ということ。実際、LGBTの方々が、様々な事情から自身の性的指向・性自認を隠して生活するケースも多いと聞いたことがあります。自分を偽らず、正直に伸び伸びと生きるのが一番。そう分かってはいても、それを実行するのが難しいのが現実というものなのでしょう。この作品を読んで、本当の自分を受け入れることの意味について考えさせられました。秋吉理香子さんの『息子のボーイフレンド』です。
こんな人におすすめ
LGBT問題をユーモラスに描いた家族小説が読みたい人
我が子から同性愛者だと告白されショックを隠し切れない莉緒、初めてできた同性の恋人と親との付き合い方に悩む聖将、友人家族が直面する問題に興味津々な優美、一人息子の性的指向に受け入れられない稲男、年下の恋人の将来のため苦渋の決断をする雄哉・・・・・若者二人の恋愛模様は、周囲の人間を巻き込みながらどこへ向かうのか。温かく、ちょっぴり切ない家族小説
ここ最近、長編では『監禁』『灼熱』『眠れる美女』等、シリアスな作風が続いていた秋吉理香子さんですが、本作は全体的にコミカルな雰囲気です。洒脱な語り口のおかげで、ともすれば陰鬱になりがちなLGBTに対する偏見・差別描写も、さほど後を引かずに読むことができますよ。かといって、決して軽くはせず、常識的な善人が持つLGBTへの拒否感をリアリティたっぷりに描いていました。
主要登場人物となるのは五人です。高校生の息子・聖将から同性愛者だと打ち明けられ、衝撃を受ける莉緒。同性の恋人との恋に浮かれつつ、親の理解をどう得ようか悩む聖将。そんな二人のいざこざを、明るく楽しみつつ仲裁する優美(莉緒の幼馴染)。一人息子の聖将が同性愛者だと知り、どうにか<普通>になってほしいと悪戦苦闘する稲男(莉緒の夫)。聖将を心から愛しつつ、先が見えない恋愛に終止符を打とうとする雄哉。彼ら五人が章ごとに主役となり、それぞれの価値観に基づいて同性同士の恋愛と関わっていきます。
前述した通り、本作の作風はどちらかというとユーモラス。一人息子が同性愛者だと知って動揺し、途中では激しい拒絶を示す莉緒が、女友達の優美から、かつて腐女子(男性同性愛を描いた創作物を好む女性のこと)だった過去を指摘される下りなんて、もう最高におかしいです。聖将&雄哉の心強い味方となり、かつて莉緒が描いたボーイズラブ漫画を見せてやる優美・・・鬼か(笑)こんな物を見られた日には、莉緒も聖将達に強く出られないでしょう。
こうしたコミカルな部分の中に、LGBT問題の根深さをきっちり織り込んでくるのが、秋吉理香子さんの上手いところです。昔はさんざんボーイズラブ作品を楽しんだ莉緒は、息子が同性愛と知るとショックを受け、「二度と会うな」と口走る。良識も思いやりも十分あるはずの稲男は、こっそり雄哉に会い、「今なら聖将は普通に戻れる。別れてやってくれ」と頭を下げる。作中、一番進歩的に見える優美でさえ、稲男から「君の息子が、年の離れた離婚歴のある子持ち女性と結婚すると言い出したらショックだろう。同性愛も同じ。相手の人間性がどうだろうと、拒否感を感じるものはどうにもならない」と言われ、咄嗟に反論できません。化物でも犯罪者でもない、平凡ながら心優しい一般人が持つ差別感情が、ぐさぐさ心に突き刺さってきました。
一番印象的だったのは、聖将達の恋愛に抵抗を感じる者達が、決して利己的な感情ばかりで動いているわけではないという所です。莉緒にしろ稲男にしろ、真っ先に考えるのは聖将の将来と幸せのこと。「男同士の付き合いなんて学ばなければ、日の当たる場所を生きていける」「差別されることなく、堂々と結婚したり子どもを持ったりできる」。当事者である雄哉ですら、彼らの言葉を否定しきれず、将来のために聖将との別離を考え始めます。
ここで、前書きにも書いた、<LGBTは本人がその気になれば隠せる>という要素が生きてきます。「女でいても差別されてばかりだから男のふりをしよう」というのは相当困難でしょうが、LGBTは黙っていれば誰にもばれません。実際、作中には、自身の性的指向を隠し、異性愛者として結婚し、妊活に励むゲイの男性も登場します。この男性は、不自由そうではあるけれど、不幸だとまでは思いませんでした。現実社会において、彼の選択の方が遥かに生きやすいであろうことは確か。特に、莉緒や稲男のような親の立場からすれば、子どもにできるだけ苦労してほしくないものなのでしょう。莉緒が腐女子、稲男が職場でLGBT問題に誠実に取り組んでいるという設定は、「他人事と身内は違うよね」という、世の真理の一端を衝いていると思います。
聖将と雄哉がどんな決断をするのか、周囲の大人がどんな受け止め方をするのか。ネタバレになるのでここでは伏せますが、後味はとても良いとだけ書いておきます。秋吉理香子さんのイヤミス大好きだけど、こういうハートフルな物語も素敵ですね。最後の場面は、ものすごく絵的に美しいので、いつか画面で見てみたいものです。
みんな必ず受け入れてくれる度☆☆☆☆☆
こんな<今日>を重ねていきたい度★★★★★
秋吉理香子さんの新作でしょうか。
LGBTをテーマにしているとなると強烈なイヤミスがありそうですが、コミカルな雰囲気とはより興味深いです。
少数派の定めか昭和の名残かLGBTが認知されてもなかなか受け入れられていない現状にも少しは希望が見つけられそうです。
降田天さんの「事件は終わった」読み終わりました。
流石に降田天だと思わされる内容でした。
中山七里さんの新作も楽しみです。
「終活中毒」より前に刊行されていたようですが、私が見逃がしていました。
ここ最近のブラック寄りの作風とは違う、ユーモラスな雰囲気でしたよ。
私は中山七里さんの「特殊清掃人」を読み終えました。
「祝祭のハングマン」はまだ図書館入荷されていないので、早く入ってほしいです。
秋吉理香子さんにしてはユーモラスで読みやすい作品でしたが笑うに笑えないといった感想です。
最近、政治家がLGBTに関する問題発言が話題になってます。
政治家として公共の場での発言としては言語道断ですが、実際身近な人がLGBTが発覚するとこのような反応になるかも知れない。若い頃、多少ヤンチャだった莉緒や稲男だけでなくLGBTに理解を示すように諭す優美でさえ息子がLBGTだと発覚したら同じような行動・発言をすると感じました。
LGBTに好意的な評論家も自分の子供がLGBTならどういう反応をするのか?とふと思いました。
コミカルな雰囲気ながら、逃れようのない現実をしっかり描いていたと思います。
差別はいけない。LGBTは尊重されるべき。
それは分かっていても、いざ自分の近親者がカミングアウトしたとしたら・・・
「そんないばらの道を選ばなくても」と思ってしまう気持ち、分かるんですよね。
前途多難でしょうが、ラストの美しさに救われました。