皆さんは公共交通機関で移動中、何をして時間を潰しますか?スマホで動画鑑賞やゲームをする人、クロスワードパズルをする人、睡眠不足解消のため眠る人・・・過ごし方は人それぞれです。私の場合、ほぼ迷わず読書一択。昔、新幹線での出張が多い仕事をしていた時は、どの本を持って行くかを考えるのが最優先の検討事案でした(笑)
とはいえ、休日に自宅でゆっくり読むのと違い、交通機関内での読書は時間の制限があります。周囲の雑音等もありますし、集中力が続かないことだってあるかもしれません。そうなると、読破するのに時間がかかり、何十ページも前の伏線を覚えておく必要がある長編小説は読みにくいもの。そんな時には、一話一話の区切りがつけやすい短編集、特にショートショートがお勧めです。この作品は、移動中にぱぱっと読むのにぴったりですよ。アイザック・アシモフ他編『ミニ・ミステリ100』です。
こんな人におすすめ
ブラックな味わいのショートショートが読みたい人
ハロウィン前日に訪れた子どもの静かな狂気、ひったくりに遭った老女の思わぬ策略、死刑を恐れる囚人に差し伸べられた救いの手、同窓会で再会した男達の罪と罰、冴えない毎日に倦んだ人妻の禁じられた一手、裏切った妻を探し続ける男の旅路、子どもを失った夫婦のすれ違いの行方・・・・・短い中にたっぷり詰まった恐怖と驚きと裏切りの数々。心ゆくまでご賞味あれ!!
ショートショートのアンソロジーは数多くあれど、一冊に一〇〇話ものエピソードが収められた作品はそうないのではないでしょうか。どれもイヤミス好きの心をくすぐるブラックな話ばかりだし、翻訳も上手くて言うことなし。前書きで編者のアシモフが述べている通り、フルコースばかりでなく、時にはちょっとしたおつまみを楽しみたいものですからね。一〇〇話すべてをご紹介するのはさすが無理があるので、印象的だったものを取り上げます。
「いたずらか、ごちそうか ジュディス・ガーナー」・・・ハロウィン前日、主人公宅にゴム人形を持った少女が現れる。「いたずらか、ごちそうか」。そう尋ね、ごちそうを要求する少女をあしらい、追い返す主人公。翌日、その少女が持っていた人形がバラバラにされ、アパート中に釘付けされるという事件が起き・・・
ぶ、不気味すぎる・・・!!状況からして、ごちそうをもらえなかった女の子がアパート住民への仕返しに人形を釘付けして回ったんでしょうが、本当に怖いのはその後。ハロウィン当日、改めてアパートを訪れた女の子と、彼女の側にあるものの姿にゾッとさせられました。
「しっぺ返し アル・ナスバウム」・・・か弱い老女が二人組の強盗に襲われたひったくり事件。老女の証言によると、奪われた鞄には三万ドルを超す全財産が入っていたという。だが、その後の捜査で、老女にはそもそもそんな財産はなかったことが分かり・・・
これは痛快!!老女の嘘はいけないけど、相手は年寄りを狙った犯罪者なわけですからね。一矢(というか百矢くらい?)報いられても文句は言えないでしょう。個人的に、こういう胆力と知力を持ったお年寄りの話って大好きです。
「最後の微笑 ヘンリイ・スレッサー」・・・死刑判決を受け、執行日が間近に迫り、恐怖におののく死刑囚。そんな彼の前に、ある日、刑務所付きの牧師が訪れる。牧師が差し出したメモには、逃亡計画を示唆する言葉が書かれてあって・・・
「しっぺ返し」とは違ったベクトルで読後感すっきりな話です。死の恐怖でパニック状態の死刑囚が、牧師の言葉やメモで逃亡計画を知って安心する→また不安になったところで牧師が来る、の流れが臨場感たっぷり。これが一般人なら気の毒だけど、そもそも死刑判決を受けたのは自業自得ですからね。牧師さん、GJです。
「同窓会 チャールズ・バークマン」・・・かつての悪童四人組が、二十年ぶりに同窓会で再会する。会の終了後、四人は集まって過去の悪戯について語り合った。高校の卒業式の後、四人は卒業記念としてトレーラーに放火し、中にいた老人を死なせたことがあったのだ。その罪悪感から、寂しく荒んだ生活を送る四人だが・・・・・
この主人公の悪辣さは、収録作品の登場人物の中でもトップクラスではないでしょうか。他の三人は、少なくとも自身の行いを心底悔い、幸福とは程遠い状況にいますが、主人公は現状に満足しきっているわけですから。一人だけしれっと長生きしそうなところが余計に後味悪いです。
「車輪はまわる ジェーン・スピード」・・・芸術家の夫との知的な生活を夢見て結婚した主人公。だが、予想に反し、夫は退屈な凡人で、車椅子の姑の介護は苦労が多い。お金さえあれば、新天地でやり直せるのではないか。姑の遺産さえあれば。そんな考えに取りつかれた主人公は、ついに行動を起こし・・・
暗転劇のお手本にしたくなるようなエピソードです。主人公はうんざりしているけど、夫は凡人というだけで悪人ではないし、姑は介護してくれる嫁への感謝を欠かさない礼儀正しい人柄。もう少し我慢すれば幸せになれたかもしれないのになぁ。
「父性本能 アル・ナスバウム」・・・刑務所に収監中の主人公は、ある時、囚人仲間のビッグ・ベンがこっそり小鳥の世話をしていることを知る。普段の暴れっぷりはどこへやら、我が子のように小鳥を可愛がるビッグ・ベンを見て、意外な気持ちになる主人公。やがて小鳥は育ち、一人で飛んで行く日がやって来て・・・
生き物の世話を通じて愛を知り、更生する囚人の話・・・かと思ったら、最後の数行でとんでもない結末が待ってました。前半、主人公の目を通して描写されるビッグ・ベンと小鳥の様子が本当に微笑ましい分、ラストの地獄展開には鳥肌が立ちそうです。作中で記載されていないけど、ビッグ・ベンの犯した犯罪もそういう感じだったのかしら。
「果てしなき探索 トマシーナ・ウィーバー」・・・トニーの目的は、妻のミリーを探すこと。トニーの従軍中、寂しさからよその男に走ったミリー。やがてトニーはとある町にたどり着き、身なりの良い男と新生活を送るミリーを見つけるが・・・・・
グロテスクな描写はほぼないにも関わらず、恐怖と怖気が匂い立つようです。オチまで読んでみると、タイトルの意味に心底納得。トニーがいわゆるならず者タイプではなく、終始静かで淡々としているところが、エピソードの恐ろしさを盛り上げていました。
「医者の指示 ジョン・F・スーター」・・・お腹の中の子を失ったばかりの妻、そんな妻を優しく労わる夫、妻のいない場で夫と今後のことを話す医者。三人の思惑は、予想外の方向に転がり始め・・・・・
この話のポイントは、妻・夫・医者が一堂に会した場所で進むわけではないというところ。治療から目覚めたばかりの妻は一人離れた病室、夫と医者は診察室、それぞれ離れた場所にいます。お互いが何を思い、何を喋っているか、知る術はないわけで・・・悲劇が待ち受けていそうなラストにうすら寒い気分にさせられました。
これだけ収録話数が多いと、中にはイマイチ好みに合わない話があるのは避けられません。しかし本作の場合、何しろ一話の分量が数ページしかないので、斜め読みするのも読み飛ばすのも容易です。移動中のみならず、待ち時間の合間とか、会社や学校の休み時間にちょっとずつ読み進めることができて便利ですよ。
最後の数行でひっくり返される度★★★★☆
ショートショートって奥が深い!度★★★★★
車通勤で公共交通機関を利用することは少ないですがいつも本を持参してます。
到着を待っているだけという気持ちで読んでいるので意外に読めている気がします。
海外のホラー短編集とは面白そうです。
トムソーヤの冒険や映画スタンドバイミーのようなストーリーもあり面白そうです。
三津田信二さんの「どこの家にも怖いものはない」序章読み得終えましたがオチがないのが口惜しいというか物足りない気がします。
日本のそれとはまた違う、カラリと皮肉の効いた短編集でした。
三津田信三さんの実話風怪談シリーズ(と、私が勝手に命名)は、よりリアリティを出すためか、はっきりしたオチがないものが多いです。
それを現実味があると取るか、もやもやして物足りないと取るか、評価が分かれるんですよね。
文章自体が苦手ではないなら、「刀城言耶シリーズ」「作家三部作」等の方がしっかりした謎解きがあってお勧めです。