SF作品の中には、<タイムリープ>という言葉が登場するものがあります。直訳すると<時間跳躍>で、文字通り時間を飛び越えて移動することを意味します。よく似た言葉に<タイムトラベル>があり、正確な差異は定義されていないようですが、<タイムトラベル=移動先を自分で決められる><タイムリープ=勝手に別の時間に移動してしまう>と使い分けられているパターンが多いような気がします。
実はタイムリープという言葉は日本製の造語であり、初出は筒井康隆さんの『時をかける少女』だそうです。何度も映像化・アニメ化され、海外でも人気の高い名作なので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。これは有名すぎるほど有名なので、今回は別のタイムリープ小説を取り上げたいと思います。西澤保彦さんの『七回死んだ男』です。
こんな人におすすめ
ユーモラスなSFミステリーが読みたい人
どうすれば祖父が死ぬ未来を回避できるのだろうか---――定期的に同じ一日を九回繰り返してしまうという特異体質<反復落とし穴>の持ち主・久太郎。ある日、年始の挨拶のため母方の実家に親戚一同が集まるが、なんとその場で祖父・渕上零治郎が殺害されてしまう!たまたまその日に<反復落とし穴>が始まったことを利用し、久太郎はどうにか祖父が死ぬ未来を変えようと奮闘する。だが、何度やり直しても零治郎はシチュエーションを変えつつ殺されてしまい・・・・・果たして久太郎は祖父を救うことができるのか。抱腹絶倒、SFと本格ミステリーの融合小説、ここに誕生
私が初めて読んだ西澤作品であり、恐らく西澤さんの著作の中でもトップクラスの知名度を誇る小説だと思います。<超能力><未知の科学技術><地球外生命体>などのSF要素に本格ミステリー要素を絡めるのが西澤ワールドのお約束ですが、その特徴が如実に表れた本作。個性豊かすぎる登場人物達の描写も強烈で、読みながら噴き出すのを堪えるのが大変でした。
主人公の久太郎は、タイムリープの特殊体質を持つ高校生。これは特定の一日を九回繰り返してしまうというものですが、どの日を繰り返すことになるかは久太郎自身にもまったく分からず、本人は<反復落とし穴>現象と名付けています。ある年、久太郎一家を含む親戚一同は、母方の実家である渕上家に年始の挨拶に訪れます。久太郎の祖父であり、渕上家家長である渕上零治郎は、とあるグループ企業の最高権力者であり、後継者を誰にするのか、遺産の配分はどうなるのか、皆が気になって仕方ありません。そして、そんな集まりの最中に零治郎が殺害されるという事件が発生。久太郎は、偶然にも殺害日に<反復落とし穴>が始まったことを利用し、どうにか祖父を救おうと悪戦苦闘します。ところが、どれだけ行動パターンを変えようと零治郎は殺される上、久太郎は知りたくなかった祖父の暗部まで知る羽目になってしまうのです。
<時間移動能力を持つ主人公が、力を活かして過去を変えようとする>という作品はたくさんあるものの、<同じ日を九回繰り返すので(九回目の出来事が決定稿となる)、その間に被害者が殺されずに済む方法を探す>というパターンは前代未聞ではないでしょうか。この設定、私の感想文を読んだだけでは分かりにくいかもしれませんが、作中では久太郎が一人称で分かりやすく説明してくれるのでご安心を。SF作品があまり得意ではなかった私も、本作にはすんなり入り込むことができました。
設定がとびきりユニークなのは言うまでもありませんが、それを上回るほど面白いのは主人公を含む登場人物達の人物描写です。これまで<反復落とし穴>に何度もはまり続けてきたせいで妙にジジ臭くなってしまった(同じ日を九回繰り返すので、精神的な時間は実年齢よりも重ねているから)久太郎、欲丸出しで渕上家後継者の座を狙う母や叔母、研究者タイプの長兄にちゃらんぽらんな次兄、一見普通ながらそれぞれ思惑がある従姉妹達、そして過去に子ども達から受けた仕打ちを決して忘れていない祖父・零治郎・・・と書くと横溝正史並の泥沼の人間模様が展開されそうですし、実際彼らはものすごく浅ましいのですが、久太郎の語り口が軽妙なので不思議とドロドロ感はありません。中盤、堪忍袋の緒が切れた親戚達が、互いに座布団投げつけ合いながら大喧嘩を繰り広げる場面など、笑ってしまうこと必至です。
これだけのシチュエーションを用意し、<同じ日を九回繰り返す>という特殊極まりない設定まで用いながら、そこをきちんと活かした上で論理的な謎解きに結び付ける手腕はさすがだと思います。なぜ久太郎が何度やり直しても祖父は殺されてしまうのか、犯人は一体誰なのか、終盤で久太郎が感じた違和感の正体は何なのか。終章でそれらの謎が一気に解かれた時は、思わず「おお~」と唸ってしまいました。オチまで知ると、タイトルにもちゃんと意味があったんだなとしみじみ納得。久太郎はすごく好きなので、できれば再登場してほしいんですが・・・・・このキャラクター造形は『匠千暁シリーズ』のタックや『エミール&ユッキーシリーズ』のユッキーに受け継がれている気がするので、難しいかなぁ。
SFとミステリーの面白さ、二重取り!度★★★★★
何回死んだかが実は重要・・・度★★★★☆
読んだことのある作品ですが大変ややこしいですが、何故か分かりやすく読めたイメージです。殆ど覚えていないですがタイムリープして運命を変えようとして思いがけない事実を知ってしまう~再読したくなりました。
あまりに突飛な設定で、最初は「???」となってしまいますよね。
タイムリープを繰り返すにつれ、明らかになっていく家族の暗部がひたすらコミカルに描かれていました。
定期的に読み返すほどお気に入りの一冊です。