はいくる

「びっくり館の殺人」 綾辻行人

ミステリーでおなじみのシチュエーションを挙げよと言われたら、一体どんな答えが出て来るでしょうか。私なら、<恐ろしい伝説が伝わる屋敷><とても日本とは思えないような洋館><迷路のように広い古城>辺りを思い浮かべます。俗に<館もの>と呼ばれるミステリーによく登場するシチュエーションですね。

脱出困難な館に集められ、次第に疑心暗鬼に囚われて行く登場人物たち・・・アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』を筆頭に、今邑彩さん『金雀枝荘の殺人』、近藤史恵さん『演じられた白い夜』、東野圭吾さん『仮面山荘殺人事件』など、多くのミステリー小説でこの設定が使われてきました。そして、国内の<館もの>を語る上で忘れちゃいけないのが綾辻行人さんの『館シリーズ』。新本格ブームの火付け役となったシリーズで、一九八七年に第一作『十角館の殺人』が刊行されて以降、今なお根強く支持され続けています。この『十角館の殺人』は超有名作品なので、今回はシリーズの中でも毛色の違う作品を紹介したいと思います。講談社ミステリーランドの一冊、『びっくり館の殺人』です。

 

こんな人におすすめ

子ども目線のホラーミステリーが読みたい人

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それは本当に悪魔の子なのか---――辛い過去を経て父親と二人で暮らす主人公・三知也。ある時、彼は町で<びっくり館>と呼ばれる洋館に住む少年・俊生と出会う。俊生の家庭教師の新名や従姉妹のあおいと共に交流を深めていく三知也だが、俊生には不気味な祖父がいた。もしや俊生は祖父から虐待されているのではないか。そんな疑いを抱きつつも証拠がなく、不安を覚える三知也ら。そしてクリスマスの夜、<びっくり館>で開かれたパーティーで惨劇が・・・・・読者を悪夢に誘う『館シリーズ』第八弾

 

基本的に一冊一冊が独立した『館シリーズ』ですが、本作は少年少女向けの講談社ミステリーランドから出ているだけあって、他のシリーズ作品とはかなり趣が異なります。小学六年生の少年視点というせいもあり文章が平易、グロテスクな連続殺人描写などもない上、他のシリーズ作品との絡みもほとんどありません。もちろん、綾辻行人らしいダークな雰囲気、人間の狂気描写の恐ろしさはしっかり織り込まれているので、ファンもシリーズ未読の方もどちらも楽しめると思います。

 

主人公・三知也は両親の離婚後、父親と共にとある町で暮らしています。町には通称<びっくり館>と呼ばれる洋館があり、不気味な噂が流れていました。そこで暮らす少年・俊生と親しくなり、楽しい時間を過ごす三知也。俊生の家庭教師の新名や従姉妹のあおいとも言葉を交わすようになりますが、唯一、俊生と二人で暮らす祖父・龍平の得体の知れなさが気がかりでした。そんな中、<びっくり館>で開かれることになったクリスマスパーティー。新名やあおいと共にパーティーに招かれた三知也ですが、そこでは想像を絶する悲劇が待ち受けていたのです。

 

こ、こわい・・・というのが本作を読んだ最初の感想でした。版元が版元だからか、ガチガチの物理的トリックはほとんど使われていないのですが、その代わりなのか何なのか、シリーズの中でも一番オカルト色が前面に押し出されている気がします。謎めいた洋館、そこで暮らす賢い少年と偏屈な祖父、館で繰り広げられる不気味な腹話術芝居、祖父が口走る<悪魔>の謎、過去に館で起こった殺人事件、そしてクリスマスの血の惨劇・・・きちんと論理的な解答がもたらされた後、最後の最後でやってくるホラー展開は鳥肌ものでした。

 

ちなみに、『館シリーズ』ファンがこの作品を読んだ場合、ほぼ全員がこう突っ込むと思います。「島田潔、出番少なっ!」通常、何らかの形で該当の館と関わり、探偵役として謎解きを行う島田ですが、本作では三知也に助言する存在として一瞬登場するだけ。事件の謎解きを行うのも彼ではありません。この点が引っかかる読者もいるでしょうが、逆に、本作の謎めいた空気を盛り上げるのに一役買っていた気もします。わずかな登場場面で、ほんの少しだけシリーズ第七弾『暗黒館の殺人』を匂わせる描写があるところもニクイですね(未読でも問題なし)。

 

繰り返しますが、本作はミステリーよりもホラー寄りなので、合わない人にはとことん合わないと思います。反面、ツボにハマる人にとっては、シリーズ屈指のお気に入り作品になるのではないでしょうか。全体的に、特に館で繰り広げられる腹話術の場面は本当に怖いので、気になる方は昼に読むことをお勧めします。

 

すべては<悪魔>の計略だったのか・・・度★★★★☆

イラストにも要注目!度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    館シリーズは2冊読んでいますが、オカルトとホラー要素は少なかったように思います。極めて物理的で心理の裏をついたトリックに、人間同士の嫉妬や背景が深かったような気がしますが、オカルト要素が加わるとまら見方も変わってきそうです。

    1. ライオンまる より:

      基本的に館シリーズはロジカルなミステリーなんですが、本作は出版元が違うせいか、怪奇要素が強いです。
      子どもの幼く未熟な視点が、その恐怖感をより盛り上げているんですよ。
      ただ、島田潔の活躍を楽しみたい読者には物足りないかもしれません。

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