明るくポップな雰囲気の小説と暗く重厚な雰囲気の小説、世間ではどちらの方が人気なのでしょうか。私はどちらも好きですが、その時の気分によって作風を選ぶことは当然あります。仕事で大失敗した時に道尾秀介さんの『向日葵の咲かない夏』は読みたくないし、ダイエットしたい時は山口恵以子さんの『食堂のおばちゃん』は避けますね。
そして、作家さんの中には、明るい小説と暗い小説の差が凄まじく、同一人物が書いたのかと疑いたくなるようなレベルの作品を書くがいらっしゃいます。作家なのだから当たり前、と言えばそれまでですが、やはりプロというのは凄いものなのだと感嘆せざるをえません。貫井徳郎さんの『慟哭』と『悪党たちは千里を走る』、重松清さんの『疾走』と『とんび』等々、その陰と陽の差に驚いたものです。そう言えばこの方も、明るい作品と暗い作品のギャップが大きいですよね。今回はそんな作家さん、宮木あや子さんの『憧憬☆カトマンズ』を取り上げたいと思います。
こんな人におすすめ
気分すっきりなお仕事小説が読みたい人
IT企業のサポートセンターで派遣社員として働く後藤と人材派遣会社の営業職を務める中尾。同じ大学を出た友人同士である二人は、立場は違えどこの生き辛い世の中を渡っていこうと日々頑張っている。仕事はキツい、恋はままならない、でも大丈夫。転んだって、また立ち上がればいいんだから!愉快痛快な「女の本音」が炸裂した、すべての女性たちに送る応援歌小説。
私が最初に読んだ宮木作品は、遊女たちの哀しい愛と運命を描いた『花宵道中』でした。儚く切ない世界観に魂揺さぶられた私は、続いて『校閲ガール』を読み、そのスピード感とパワフルさに驚いたものです。本作は後者と同じ、明・宮木節が炸裂!ユーモアたっぷりの文章に、噴き出すのを堪えるのが大変なほどでした。
「憧憬☆カトマンズ」・・・外資系企業で働く後藤は、二十九歳の派遣社員。先の見えない不倫関係をずるずる続け、大学時代の女友達・中尾とつるんでストレス発散する毎日だ。そんなある日、職場に年下の男性派遣社員がやって来て・・・・・
主人公・後藤のキャラが男前すぎる!仕事では超有能な上に料理上手で、エスニック料理も得意な後藤ちゃん。その理由が「煮物なんて実は簡単な料理。そんな料理を男のために作る女になりたくない」というのが面白いです。あと、就職難で派遣社員になったのに、訳知り顔で「正社員になれ」と説教されると腹立つという気持ち、分かるなぁ。
「脳膜☆サラマンダー」・・・派遣会社の営業担当・中尾は、最近失恋したばかり。ある時、派遣社員の一人が急に辞めたいと言い出した。この企業、なぜか次々派遣社員が辞めるのだ。中尾は後輩男子とともに調査を開始するが・・・・・
後藤ちゃん同様、ダブルヒロインである中尾ちゃんも男前です。派遣先の問題を見つけ、苦しんだ派遣社員に謝罪。しかし必殺仕事人でも何でもない中尾に企業を変えることはできないため、「長いものに巻かれるのではなく、私が長いものになる」と決意するところがカッコいいんですよ。ラスト、後輩男子とのやり取りもすごく良かったです。
「豪雪☆オシャマンベ」・・・後藤と中尾はそれぞれの彼氏を連れ、四人でスノボ旅行に行くことにする。最初こそぎこちなかったものの、間もなく打ち解ける四人。だが、不慮の事故により中尾が意識不明になり・・・・・
第一話、第二話で登場した男性とそれぞれくっついた後藤と中尾。その関係上、このエピソードは恋愛要素が高く、読んでいてキュンキュンしてしまいました。また、彼女たちが本当にいい友人同士なんだなと実感することもできて良かったです。この四人がこれからもこんな感じで付き合い続けていくことを願ってやみません。
「南国☆ポリネシアン」・・・後藤の後輩、松田リカは可愛くて女子力抜群、甘党でパティシエ志望の女の子・・・と思われているが、実は甘い物が苦手な下町娘。ひょんなことからサイパン出身力士・南国(みなみくに)と知り合い、親しくなるが・・・
今まで脇役だった松田リカこと通称パティ(パティシエ志望だと思われているから)が主人公です。外見をいい意味で裏切るパティの本性がなんとも愉快。家業を告げと迫る父親を「娘に甘ったれてんじゃねえ!」と一喝する場面なんて膝を叩いて笑いそうでした。パティのため、上司にびしっと意見する後藤ちゃんも素敵です。
作者自身が「ウルトラハッピーエンドな話を目指した」と言うだけあって、嫌な気分が少しもしない、気分爽快な佳作です。ちなみに本作は、宮木さんの著作である『野良女』『セレモニー黒真珠』とリンクしている部分があるんですよ。本筋とは無関係なので未読でも問題ありませんが、興味がある方はぜひチェックしてみてください。
私たちに明日はある!度★★★★★
笑っちゃうから、公共の場で読むのは危険かも・・・度★★★★☆
校閲ガールのような痛快なお仕事小説の雰囲気を感じる作品ですね。
4人の関係がどうストーリーに関わっているのか興味深いです。
雰囲気は「校閲ガール」に近いです。
男性陣も魅力的ですし、万人受けする良作だと思いますよ。