農業。日本人にとっては、昔からなじみ深いテーマです。美味しいお米や野菜、果物を作ってくれる農家は、まさに足を向けては寝られないような存在。反面、若者の都市部への流出や農業従事者の高齢化等により、深刻な後継者不足に陥っていることもまた事実です。
農業に勤しむ人々は、一体何を思って作物を作り続けているのか。心身共に負担のかかる重労働を経て、得られるものは何なのか。興味のある人は、この本を読んでみてはいかがでしょうか。荻原浩さんの直木賞受賞後初の長編小説、「ストロベリーライフ」です。
グラフィックデザイナーとして独立したものの、先の見えない現状に不安を抱く主人公・恵介。ある日、父親が倒れたという連絡を受けて帰省した彼は、野菜農家だったはずの実家が苺農家になっていたことを知る。試しに食べてみた苺のあまりの美味しさに魅了され、闘病中の父親に代わって家業を手伝い始める恵介だが、そこには数多くの困難が待ち受けていた・・・・・何かを生み出すこと・作ることの大切さを描く、ハートウォーミングな農業小説。
まさに荻原浩ワールド全開と言える本作。田舎ならではの閉鎖性や、父親が病に倒れたことで浮上する相続問題、生活環境の変化によりすれ違い始める夫婦関係など、かなり深刻な要素を取り入れつつ、後味の悪さはほとんどありません。ほのぼのした作風を保ちつつ、読者をぐいっと牽引する。この筆力には唸らされるばかりです。
主人公である恵介は、過酷な農業を継ぐことを嫌って就職し、父親とはぎくしゃくした関係です。そんな父が闘病生活に入り、代わりに農業に従事することで父の思いを知る・・・・・などと書くとありきたりと感じてしまうかもしれませんが、そこはご安心あれ。この父親、なかなか不器用かつ難しい性格で、「苦労を知った息子と涙の和解」などという安直な展開にはさせてくれないのです。さらにそこに個性の強い三人の姉が絡んでくることで、物語の面白さがぐっと増していました。
苺栽培の手伝いを始めた恵介は、様々な苦労に直面します。仕事は泥臭い肉体労働、少しでも状況を良くしようと思った試みのせいで古参の農家から嫌われ、東京に残って手タレの仕事を始めた妻との間には隙間風。最初はおろおろするばかりだった恵介ですが、徐々に負けん気の強さを発揮し、少しずつながら前進し始めます。この恵介の「やる時はやる!」ぶりがとても自然で、心からエールを送ることができました。
本作は、同時期に刊行された垣谷美雨さんの「農ガール、農ライフ」と同じく農業をテーマにしています。こうして様々な媒体で農業が扱われ、関心が高まるのはとても良いことですね。いい機会なので、二作を読み比べ、登場人物たちの、ひいては作者の農業への思いを知りたいものです。
都会でしかできないことがある度★☆☆☆☆
読むうちに苺が食べたくなる度★★★★☆
こんな人におすすめ
・農業を扱った作品に興味がある人
・心温まる家族小説が好きな人
荻原さんの新刊でしょうか?
荻原さんの長編、好きなので楽しみです。
荻原浩さんの最新作です。
この方の長編って、どんなにハードな状況を扱っていても、どことなく温かみや優しさを感じさせますよね。
読む時は、苺を手元に置いておいた方がいいかもしれませんよ。
本当にイチゴが食べたくなる作品でした。これを読んでから家族でイチゴ狩りに行って来ました。広告デザイナーとして上手く宣伝したことが利益につながる~新しい農業の形を見た気がします。
主人公の農業に対する想いが丁寧に丁寧に綴られていましたね。
農業以外でも、家族あるあるネタがふんだんに詰まっていて、ファミリー小説としても出色の作品だと思います。
チャラいようで意外といい仕事をする義兄のキャラクターが好きでした。