はいくる

「悪母」 春口裕子

親業って大変ですよね。何しろ子育ては仕事と違い、定時もなければ定休日もなし。必要とあらば二十四時間年中無休で子どもと向き合う、それが親の役目です。そんなハードな毎日を乗り切るため、家族はもちろんのこと、同じような境遇のママ友と支え合い励まし合う人も多いでしょう。

ですが、そのママ友は本当に信頼できる相手でしょうか?自分だけではなく子どもも交えて付き合うママ友と、もしトラブルを起こしてしまったら?今日ご紹介するのは、ママ友付き合いの闇を描いたサスペンス、春口裕子さん「悪母」です。

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不審死を遂げた幼稚園のウサギ、親子を追い詰めていく小学校受験、学校行事での我が子の立ち位置に口出しするステージママ・・・・・夫と娘を持ち、平凡に生きるはずのヒロインに降りかかる陰湿な出来事の数々。その裏に見え隠れする、かつて気まずい別れ方をしたママ友の影。まさか頻発する事件の鍵は彼女が握っているのだろうか。怯えるヒロインが最後に見つけた真実とは。

 

いやー、怖かった。ママ友付き合いの恐怖を描いた作品は数多くありますが、これほど臨場感たっぷりなものはそうないんじゃないでしょうか。嫉妬や見栄やエゴにまみれた人間関係の恐ろしさに、読了後は思わず「ママ友なんていらないかも・・・」と呟いてしまいそうになりました。

著者の春口裕子さんは、女性キャラクターの描写が巧い作家さんですが、その手腕は本作でも健在。大人しく流されやすい主人公をはじめ、義家族のプレッシャーから子どものお受験に血眼になる母親、公道や他人の庭を子どもの遊び場にして平然としている母親など、「こういう人、いるかも」と思わせる登場人物たちの数々にゾッとさせられます。陰湿なキャラが跋扈する中、派手で軽薄ながら裏表なく、ママ友いじめにも加わらないヤンママの存在に救われました。

本作を読んでいて感じるのは、母親以外の存在がとにかく希薄なこと。当たり前の話ですが、家族というものは母親一人でできあがっているわけではありません。ところが物語を読み進むにつれ、父親は言うまでもなく、どうかすると最愛のはずの我が子ですら脇へ追いやられ、母親同士の人間関係がすべてのように思えてくるのです。どの母親も、もともとは子どもを心から愛し、子どものためを思って行動していたはずなのに・・・その噛み合わなさが恐ろしく、また哀れでもありました。

著者本人がエッセイで「イヤミス」と述べているだけあって、本作の後味は悪いです。ママ友同士のドロドロを描くというテーマ上、男性読者にはいまいち感情移入しにくい点もあるでしょう。ですが、女性の闇を扱った作品が好きな方なら、ついつい没頭してしまうこと請け合いです。ここは開き直り、人間の悪意を思い切り楽しむつもりで読んでみてはいかがでしょうか。

 

ママ友付き合いって難しい度★★★★★

いい年なんだから自立しましょう度★★★☆☆

 

こんな人におすすめ

・ドロドロしたママ友関係を垣間見たい人

・読後感の悪い小説が好きな人

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