はいくる

「ブードゥー・チャイルド」 歌野晶午

生まれ変わり、輪廻転生、リインカーネーション。生き物が死後に再び肉体を得てこの世に戻ってくるという考え方は、世界中に存在します。この思想を信じるか否かでは意見が分かれるのでしょうが、私自身はかなり信じている方。実際、偶然や勘違いでは片づけられない事例もたくさんあるようです。

想像の余地が多いにあるテーマだからか、生まれ変わりをテーマにした創作物はたくさんあります。私のお気に入りは恩田陸さんの『ライオンハート』と北村薫さんの『リセット』。生まれ変わって大切な人と巡り合う奇跡に胸が熱くなりました。この二作品は、生まれ変わりの切なさや喜びを描いているので、今回は少し趣の異なる作品を取り上げたいと思います。歌野晶午さん『ブードゥー・チャイルド』です。

 

こんな人におすすめ

・生まれ変わりに興味がある人

・どんでん返しのある本格ミステリが好きな人

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僕は前世で悪魔に殺された---――前世の記憶を持つ十五才の少年・晃士。その前世とは、二歳で悪魔<バロン・サムデイ>に腹を抉られて殺されるという惨いものだった。記憶に悩まされつつもそれなりに平穏に暮らす晃士の人生は、ある日、一本の電話がかかってきたことで激変する。正体不明の外国人女性、沸き起こる父親への疑惑、突然すぎる継母の死、そして<バロン・サムデイ>を示す一枚の絵・・・・・もしや前世で遭遇した悪魔が今生でも現れたのか。姉とともに事件解決を目指す晃士が、やがて辿りついた真相とは

 

まさに歌野晶午節が炸裂した作品です。<主人公の前世を殺した悪魔が今生に舞い戻って来た>という荒唐無稽な設定がどう着地するのか、ハラハラしながら読みました。もちろん、歌野さんらしく、最後には合理的な謎解きが待っているので、<前世>というスピリチュアルな要素に乗りきれない読者でも楽しめると思います。

 

十五才の主人公・晃士には前世の記憶があります。前世の晃士は<チャーリー>という名の黒人であり、二歳の時、<バロン・サムデイ>という悪魔に殺害されていました。記憶を不思議に思いつつ、父親とその再婚相手の継母(実母は早くに死亡)、継母の連れ子である麻衣とともに平凡な毎日を過ごす晃士。ところがある日、謎の女性から父宛にかかってきた「私達の子どものことで話がある」という電話を取ってしまったことで、晃士の平和な日常は終わりを告げます。継母が惨殺され、第一発見者である晃士は容疑者扱い。おまけに殺害現場には、晃士の前世の記憶に登場した<バロン・サムデイ>を示す紋章が残されていました。今回の事件には、前世の記憶が関係している。そう予感した晃士は、姉の麻衣と協力して記憶の謎を解こうと奮闘し始めます。

 

<身近で事件が起き、少年少女が解決に挑む>という小説は色々あります。本作の面白い点は、主人公があくまでワトソン役であるところ。どれほど真剣に真相究明を望んでも、平凡なティーンエイジャーである晃士にできることは限られています。ここで登場するのが、晃士が前世について話し合うHPで知り合った<ジュリアン>。物言いは容赦ないながら頭脳明晰な彼の人物造形がすごくユニークで、シリーズ作品の主人公にしてもいいんじゃないかと思うほどでした。その一方、<頭は良いんだろうけど自分勝手で幼稚>という晃士のキャラクターも、いかにも十五才っぽくてリアリティたっぷり。イライラさせられつつ、ラストで成長の兆しが見える晃士に「これから頑張りなよ」とエールを送りたくなりました。

 

肝心の謎解きについては、どんでん返し作品なので深くは触れないとして・・・とりあえず「歌野さんらしい、緻密に構成された本格ミステリです」とだけ言っておきます。一つだけ強調しておきたいのは、本作が書かれたのが一九九八年だということ。インターネットや海外の文化、何よりも<出産に関するとある知識>の描き方に時代を感じます。というか今回の事件、現代だったらこんなに複雑化することなく、割とあっさり真相が見破られるんだろうな。この謎を取り巻く登場人物たちの態度がいかにも当時の日本人らしく、描写の巧さに感心させられました。

 

そういうわけで、現代人なら中盤でカラクリに気付いてしまいそうな本作ですが、逆に言えば、それでもぐいぐい読ませてしまう牽引力はさすがだと思います。生まれ変わりだけでなく、日本人にはあまり馴染みのないブードゥーに関する薀蓄がしっかり書き込まれているところも、オカルト好きには堪らないのではないでしょうか。個人的にはもっと有名でも構わないと思うのですが、歌野作品の中で知名度は今一つの様子・・・うーん、やっぱりおどろおどろしすぎるタイトルのせいなのかな。

 

ホラーではなくミステリです度★★★★☆

ジュリアン再登場希望!★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    生まれ変わり~輪廻転生については最近読んだ図書館の女王を探して~を読んで妙に納得させられましたが、シンプル過ぎて返って馴染みやすいと感じました。
    こちらはミステリーに加えて複雑で緻密な設定もありかなり面白そうです。
    歌野さんの作品は1冊だけですので久しぶりに読みたくなりました。

    1. ライオンまる より:

      最初は「ホラー?SF?」と思いながら読みましたが、現実的なオチがしっかりついていて一安心でした。
      小生意気ながら最後はそれなりに成長する主人公もなかなか好印象。
      タイトルがおどろおどろしいせいで、ちょっと損をしている気もします。

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