はいくる

「3分で読める!ティータイムに読むおやつの物語」 このミステリーがすごい!編集部

私は下戸ですが、その分(?)、甘いものは大好きです。若い頃と比べると食べる量は落ちましたが、新作スイーツは欠かさず買いますし、飲食店でデザートメニューのチェックは必須。暇な時は、ウィキペディアの<各国のデザート>を読みながら、食べた気になってニマニマ悦に入っています。

そんな私にとって、絶対に必要な毎日の楽しみ、それが<おやつ>です。食事と違い、空腹を満たすよりは満足感目当てで食べることが多いため、各自の趣味嗜好がより強く出る気がするのですが、どうでしょうか?今回は、たくさんのおやつが出てくる作品を取り上げたいと思います。「このミステリーがすごい!」編集部による『3分で読める!ティータイムに読むおやつの物語』です。

 

こんな人におすすめ

甘いものがたくさん登場する短編集に興味がある人

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老舗菓子店にかけられた思わぬ疑惑、アイスクリームワゴンで働く女店員の意外な正体、父が繰り返し作っていたあんこの秘密、失敗したケーキに込められた温かな想い、愛する男の子を宿した女性の胸中、ケーキ生地に落としたピアスを回収しようとする女生徒たちの奮闘、孫を名乗る男と老女との静かな攻防、好きなおやつに隠された過去の謎・・・・・おやつを食べながら読みたくなる、二十五の書下ろし短編集

 

タイトル見た瞬間、これは読まねば!と決意した本です。どの話にも美味しそうなおやつが出てきて、甘党としては嬉しい限り。テーマがテーマだからか、イヤミスというよりはほっこりと終わるものが多く、読後感はとても良いです。以下、お気に入りの話をご紹介します。

 

「おかしなお菓子屋さん  新川帆立」・・・創業三百年以上になる老舗の菓子屋を、刑事が訪れる。昔ながらのカステラを出すこぢんまりとした店に、一体なぜ?どうやら、店主の亡父にとある疑惑がかかっているらしい。この亡父、なかなかヤマっ気のある人物で、生前は株に手を出していたようなのだが・・・

店主の一人語り形式(刑事に語っているという設定)で構成された話です。会話が進むにつれて、菓子屋や亡父の背景が見えてくる流れがなんとも秀逸。この菓子屋さん、真面目に営業してきた名店っぽいので、悲惨なことにならなくて安心しました。それにしても店主のお父さん、慧眼だなぁ。

 

「君に捧げる薔薇の花  佐藤青南」・・・幼い従兄弟のお守りを任された主人公は、ふと、アイスクリーム売りのワゴンと出くわす。昔ながらの長崎名物・チリンチリンアイスを売っているらしい。アイスは美味しいし、売り子の女性もとても感じが良い。と、主人公は、男性客が売り子の女性と親し気に接する様子を見て・・・・・

昔懐かしのチリンチリンアイスの描写が、最高にいい仕事をしていました。売り子の女性、なんとなーく引っかかるなと思っていたけど、なるほど、そういうことだったのか。ひねりがある話ではないので、オチに気づく読者も多そうですが、こういうオーソドックス感はけっこう好きだったりします。

 

「父と土曜日のあんこ  柏てん」・・・亡父の三回忌を終え、鈴は父のことを思い出す。無口な仕事人間だった父との思い出は少ない。唯一、印象に残っているのは、土曜日に仕事が休みの時は、決まってあんこを作っていたことだ。貴重な休日を潰すくらいだから、父はよっぽど甘党だったのだろう。その思い出を叔母に話したところ、「兄さんは甘いものが苦手だったはず」と言われて・・・・・

半日かけてじっくりあんこを煮る細身の男性。その姿と、彼があんこを煮る理由を思うと、胸が温かくなりました。こういう不器用な思いは得てして理解されにくいものだけど、この話の亡父はしっかり家族に慕われていたようで良かったです。洋菓子派の私ですが、あんこもいいなと思わされました。

 

「貴女にささげる、大失敗ガトーショコラ  柳瀬みちる」・・・実家の洋菓子店で事務方として働く茉莉は、どうにもムシャクシャして仕方がない。修行のため渡仏するパティシエ・鴨井が、送別会の席で、茉莉に明らかに失敗作のケーキを提供したのだ。鴨井とは互いに気持ちがあると思っていたのに、よりによって別れ際に失敗作をよこすなんて。茉莉は親友の千晴にこの一件を愚痴るのだが・・・・・

わざわざ失敗作を主人公に供する理由に関しては、なんとなく察する読者も多いでしょう。それを押しつけがましくなく示唆する親友の存在が、実に粋です。そして何より、ドーム型のガトーショコラの描写がめちゃくちゃ美味しそう!!チョコ系スイーツ大好きの私は、このケーキの場面だけ三回くらい読み返してしまいました。ああ、食べてみたい・・・

 

「祝福  友井羊」・・・愛する誠太郎の子がお腹にいる。日に日に膨らんでいくお腹と、幸せそうな誠太郎の姿を見て、主人公も例えようのない愛しさを実感する。そこへ、妹の萌音がやって来た。甘え上手で、可愛い萌音。和やかな会話を交わす三人だが、主人公は、誠太郎と萌音が別室でキスする場面を目撃し・・・・・

おおーっと、これは騙された!てっきり、イヤミスによくある姉妹愛憎ドロドロ小説かと思いきや、そう落着するとはね。確かに、主人公が〇〇だとは一言も書いてないな、うん。この三人、今のところとても良好な関係を築いているようだし、今後子どもも生まれるのだから、今の平和が続くように願ってやみません。

 

「ケーキにピアス  森川楓子」・・・伝統ある女子校・奥薗女学院には、昔から続く行事がある。五月の土曜日、生徒会役員の生徒が校長・教頭に対して手作りケーキを振る舞うのだ。今年も調理室でケーキ作りが行われるが、途中、型破りな女生徒・葵がピアスをケーキ生地の中に落としてしまう。堅物の教頭が見張っているため取り出すこともできず、そのままケーキは完成。切り分けた時、もしもピアスの入った部分が校長か教頭に当たったらどうしよう。女生徒たちはハラハラしつつお茶会に臨むが・・・・・

著者が森川楓子さんなので予想はしていましたが、期待以上に心温まる話でした。反目することもあるものの、いざとなれば一致団結する生徒たちも可愛いし、校長・教頭先生の強い絆も素敵!<伝統ある女子校>というと、イヤミス界隈では生き地獄化することがしばしばですが、最後まで爽やかで良かったです。

 

「おばあちゃんのやきいも  柊サナカ」・・・焼き芋を焼きながら過ごす<わたし>のもとを、孫の隆二が訪れる。隆二はトラブルに巻き込まれ、五十万を用立ててほしいらしい。早く金を受け取りたい隆二に対し、<わたし>はお茶と焼き芋を勧める。世間話を交わそうとするも、どうも<わたし>と隆二の話は噛み合わず・・・

真相発覚から締めまでの流れが鮮やかでした。話の流れから、<わたし>がただのか弱い老人でないことは、なんとなく予測できると思いますが、そこを差し引いて有り余るほどリーダビリティがありました。出てくるおやつが、流行りのスイーツなどではなく、昔からよくある焼き芋というところ、すごく巧いと思います。

 

「祝日菜 林由美子」・・・コンビニで働く亜依には密かな楽しみがある。店員たちから<おやつの人>とあだ名される男性客とのひと時だ。この客、訪れるたびに、亜依にさり気なくおやつを差し入れてくれるのである。ある日、彼から一番好きなおやつを尋ねられた亜依は、輸入物のココナッツクッキーだと答え・・・

収録作品中、一番お気に入りの話です。コンビニ店員と常連客とのほのぼの恋物語・・・と思わせてから一ひねりする構成、いいなぁ!亜依は職場の人間関係にも恵まれているようだし、これから幸せを掴んでほしいです。ところで、店員さんへのこういう差し入れって、現実にもよく行われるものなんでしょうか?

 

先日、ご紹介したこのシリーズ『3分で読める!一日の終わりに読むお酒の物語』も、どちらかといえばヒューマンストーリー寄りの話が多かったです。それはそれで面白いですが、そろそろ胸糞悪くなるようなイヤミス短編集が読みたくなってきました。シリーズ中、まだ読んでいない作品の中にはイヤミスやホラー寄りのものもいくつかあるようなので、色々探してみようと思います。

 

絶対におやつが食べたくなってくる度★★★★★

人気シリーズの登場人物がちらほら顔出ししています度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     25も短編集があるとは面白そうです。
     新川帆立さんが短編集に入っているのは嬉しいです。
     甘い物やスイーツは大好きですが田舎のせいかあまり目新しいものはないですが、スーパーや地方で売っている甘い物は買ってます。
     ホーンテッド・キャンパスの新作予約しました。
     来年、発売予定の夕木春央さんの「審判」は「方舟」シリーズとは無関係でしたが楽しみです。方舟以外の別の作品を読みたくなりました。
     東野圭吾さんの新作、今読んでます。

    1. ライオンまる より:

      甘いものがテーマの小説というだけで、超甘党の私は点数も甘くなってしまうのですが、そこを差し引いても面白い短編集でした。
      「審判」は、タイトルからてっきり「方舟シリーズ」なのかと思っていましたが、違うんですね。
      まだあらすじなども公開されていないようなので、今から待ち遠しいです。
      こちらは櫛木理宇さんの「氷河期のゴミ」を読み終えました。
      あと、三津田信三さんの新作が予約順位一位まで来たので、早く読みたいです。

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