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「静おばあちゃんにおまかせ」 中山七里

最近は元気なお年寄りが多いです。ただ体力的に元気なだけでなく、積み重ねてきた経験と知恵をもとに若者顔負けの活躍をするお年寄りには憧れちゃいますね。当ブログでもお年寄りが奮闘する本をいくつか紹介しましたが、それらはすべておじいちゃんが主役でした。

もちろん、おばあちゃんが活躍する小説もたくさんあります。世界的に有名なアガサ・クリスティの『ミス・マープル』シリーズを筆頭に、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』、天藤真さんの『大誘拐』、松尾由美さんの『ハートブレイク・レストラン』エトセトラエトセトラ。どの作品にも個性豊かで魅力的なおばあちゃんが登場しますが、これに出てくるおばあちゃんも負けていません。中山七里さん『静おばあちゃんにおまかせ』です。

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粘り強さと人当りの良さが武器の警視庁捜査一課刑事・葛城公彦には、秘密の協力者がいる。法学部に通う女子大生・高遠寺円だ。円の祖母・高遠寺静は、二十年以上前に引退した裁判官。円を通じ、葛城が捜査する事件の話を聞いた静は、現場に行かずして真相を見抜いてしまうのである。射殺された黒い噂のある警察官、不審死を遂げた資産家老女を巡る愛憎劇、祈祷所から忽然と消えた宗教団体教祖の遺体、密室状態だったホテル内で殺害された独裁者・・・・・三人は、行く手に渦巻く闇を鮮やかに切り裂く!

 

当初、どことなくユーモラスな表紙とタイトルから、「日常の些細な謎に挑む、祖母と孫のコミカル冒険譚」を想像していました。ところが、読んでみると大違い。出てくる事件は暴力団と警察の癒着、資産家の家族内での愛憎劇、新興宗教に冤罪問題と、生々しく重苦しいものばかりです。とはいえ、文章は柔らかく読みやすいですし、主要登場人物である葛城・円・静のキャラクターがユニークなせいで、さくさく軽快に読破することができました。

 

「静おばあちゃんの知恵」・・・暴力団の麻薬取引所で発見された県警幹部の射殺体。被害者の久世は暴力団との癒着が噂されており、暴力団対策に熱心だった警部が容疑者として逮捕される。かつて容疑者の部下だった葛城は、元上司の無実を信じて奔走するが・・・・・

こういう警察内部でのあれこれは、まさに中山七里さんの十八番。短いページ数ながら、建前や面子が絡み合う警察の内情がよく描けていたと思います。トリックも分かりやすくすっきり!中山ワールドの準レギュラー、宏龍会渉外委員長の山崎岳海がちらっと登場する点も嬉しいです。

 

「静おばあちゃんの童心」・・・資産家婦人の撲殺死体が孫娘によって発見される。被害者は人となりに難があり、身内との確執が絶えない人物だった。遺体の側にあった雑誌からは、なぜか「セレブ流子育て」という記事が切り取られていて・・・・・

資産家の不審死、限られた範囲内の容疑者、関係者を集めての謎解きと、まるでサスペンスドラマのような一作。犯人の予測は割と簡単につくものの、殺害に至るまでの過程が哀れで気分すっきりとはいきませんでした。ちなみに、派手好きだった被害者のあだ名は「町田のレディー・ガガ」・・・どんな人か見てみたいかも。

 

「静おばあちゃんの不信」・・・新興宗教に傾倒する警視庁幹部の娘を脱退させよという密命を受けた葛城。折しも団体内では、教祖の遺体が突如消えるという事態が発生していたが、信者たちは転生の通過儀礼だと信じていた。葛城は調査のため円に協力を求めるが・・・

のっけから胡散臭さ全開の宗教団体が登場。宗教の恐ろしさとか、円の両親の死とか、色々語るべきところがあるのですが、何よりも最後のオチが衝撃的すぎる・・・そ、そういう隠蔽方法もあるのか(汗)後々、関係者のトラウマにならないか心配です。

 

「静おばあちゃんの醜聞」・・・地上四五〇メートルで作業中のクレーン車内から発見された作業員の刺殺体。容疑者として逮捕されたブラジル人作業員は容疑を全面否認する。捜査の応援に向かった葛城は、そこで円と因縁のある相手と出くわし・・・・・

外国人労働者への差別や冤罪といった複雑な社会問題がテーマです。冤罪事件と関わったことのある静の言葉がなんとも深く印象的。この冤罪事件に関しては、中山さんの著作である『テミスの剣』で描かれているようですね。また、円の両親が巻き込まれた死亡事故についても、この話から動き始めます。

 

「静おばあちゃんの秘密」・・・クーデターにより大統領となった小国の独裁者が、日本滞在中に射殺された。完全警護をかいくぐって殺害を実行した犯人は誰なのか。さらに、両親の死の真相が別にあることを知った円は、一つの行動に出る。

円&静の推理力が、ついに国家レベルの殺人事件でまで求められるようになります。こちらの事件は比較的すんなり解決するのですが、注目すべきはもう一つ、円の両親が死んだ事故について。この真相はもとより、静の秘密にはびっくり仰天しました。なるほどなぁ・・・

 

「このオチはアリなの?」「警察が民間人の推理に頼りすぎじゃない?」といった突っ込みが入りそうですが、そういった小難しいことは忘れ、ぜひおばあちゃんの名推理と、葛城・円の恋模様を楽しんでください。続編希望!と言いたいところですが、この展開だと無理そうなのが残念です。

 

厳しくも温かなおばあちゃんがステキ度★★★★★

でもでも、できれば続編が読みたい!度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

安楽椅子探偵ものが読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    中山七里さんの作品ですがまだ未読です。
    「テミスの剣」で登場した高遠寺静と孫の円が主人公になるストーリーですね。
    中山七里さんらしい波乱な展開と静おばあちゃんのキャラクターが面白そうです。

    1. ライオンまる より:

      竹を割ったような性格の静おばあちゃんが素敵です。
      そんなおばあちゃんを、たじたじになりつつも素直に慕う円も素敵。
      「テミスの剣」は未読なので、早く読みたいです。

  2. オーウェン より:

    こんにちは、ライオン丸さん。

    この作品は、警視庁捜査一課の葛城公彦を主人公とする連作短編集ですね。
    でも本当に活躍するのは、女子大生の高遠寺円と静おばあちゃんですね。

    円は中学生の時に、両親を交通事故で亡くした事から、日本で20人目の女性裁判官だった祖母の静と二人暮らしをしています。
    葛城が捜査に行き詰って、以前ある事件が元で知り合った円に相談し、円は祖母の静おばあちゃんの推理を聞いて、事件はめでたく解決。

    このような静おばあちゃんを探偵役とする、いわゆる安楽椅子探偵作品ですね
    この関係は、途中で葛城の上司に話してしまうんですが、これはずっと黙っていた方が良かったような気がします。

    女子大生とおばあちゃんという探偵コンビだと、日常の謎が似合いそうですが、ここで起きるのは、ほとんど殺人事件ですね。
    ちょっとミスマッチにも思えますが、それを自然に読ませるのは、中山七里さんの力量でしょうね。

    謎解き自体も見事です。全編を通じて、葛城と円の恋の進展が描かれるとともに、円の両親の交通事故の真相が明らかにされていきます。

    こうした構成も一つ一つの作品に、彩りを与えていますね。
    そして、何よりも円と静おばあちゃんの会話というか、裁判官としての経験からくる静おばあちゃんの話が素晴らしいですね。

    「正義とは」ということを話しているのですが、全てに納得できるお話です。

    1. ライオンまる より:

      オーウェンさん、こんにちは。
      祖母と孫娘の愛情ある会話と、各事件の愚かさ哀れさのギャップが印象的でした。
      中山七里さんにはあまり恋愛小説のイメージがないのですが、葛城&円の恋愛模様の描写は心がこもっていていて良かったです。
      この作品を読んでから「銀齢探偵社シリーズ」を読むと、後の展開を思って切なくなってしまいます。

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