はいくる

「鍵のない夢を見る」 辻村深月

「犯罪」とは読んで字の如く「罪を犯すこと」です。テレビや新聞に目を向ければ、毎日のように新たな犯罪が起こっていることが分かります。それを見て大抵の人は不快感や恐れを感じ、同時にこう思うのではないでしょうか。「私には、犯罪なんて無関係だ」と。

ですが、犯罪とは決して遠い世界の出来事ではありません。ほんのちょっとしたきっかけで、自らが犯罪の加害者や被害者になることもありうるし、目撃者などの形で関わることもあるでしょう。今回紹介する本には、それぞれの形の犯罪と関わることになった五人の女性が登場します。辻村深月さんの直木三十五章受賞作『鍵のない夢を見る』です。

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かつての友達を見かけたことで蘇る苦い思い出、合コンで知り合った男が犯した放火の真相、不可解な旅を続けるカップルの行く末、大きな夢を持つ恋人との終着点、育児に疲れ果てた女の選択・・・・・最初は、普通の幸せを夢見ていたはずだったのに。日常のふとした瞬間に落とし穴に落ちる女性たちが、その底で見つけたものとは・・・・・

 

以前、このブログでも紹介した『盲目的な恋と友情』と同じく、黒・辻村の代表と言える作品です。女性の抱えるやるせなさや窮屈さの描き方が生々しく、読んでいて胸がざらざらしっぱなしでした。と同時に、「こういうことってあるよなぁ」と、主人公たちの行動に頷いてしまう自分もいたりして・・・・・こういう現実味たっぷりの女性描写は、辻村さんの十八番ですね。

 

「仁志野町の泥棒」・・・ヒロイン・ミチルは母親とのバス旅行の途中、バスガイドが小学校時代の同級生の律子だと気付く。転校生である律子は明るく可愛い女の子で、ミチルとも親しくなるが、彼女の母親は泥棒だという噂があって・・・・・

収録作品中、この話のみ現在進行形の出来事ではなく、ミチルの回想という形で物語が進みます。活発な少女との友情と、彼女の母親にまつわる黒い噂。そして、その母親が泥棒に入った現場に出くわしてしまうミチル。幼いミチルの葛藤が痛々しいと同時に、田舎のねっとりした空気がなんとも嫌な感じです。

 

「石蕗南地区の放火」・・・合コンで知り合った男と仕事先で出くわしたヒロイン・笙子。男とは一度だけ一緒に出かけたことがあるものの、笙子としては二度と会いたくない相手だった。後日、男が放火容疑で逮捕されたと知った笙子は、一つの疑念を抱き・・・・・

「はっきり断って恨まれたら困るから徐々に疎遠にしよう」「たとえ冴えない男でも、まるで男に縁がないと思われるよりいい」という傲慢かつ複雑な女心がなんともリアル。男のイタさ加減や後輩女子の能天気ぶり、自分だけ呼ばれない第二段合コンなど、アラサー女性の息苦しさが臨場感たっぷりに描かれていたと思います。この話が一番好きでした。

 

「美弥谷団地の逃亡者」・・・友達が初体験を済ませたと知り、焦って出会い系サイトに登録したヒロイン・美衣。そこで出会った陽次と付き合い始めるも、彼の束縛は次第に激しくなっていく。ある夏、房総半島と旅する美衣と陽次が行き着いた場所とは。

平凡なカップルのバカンスと見せかけて、次第に明らかになる陽次のクズ男ぶり、そして最後のどんでん返しと、息つく間もない展開でした。最初、海辺を旅する二人の様子がごくごく普通だったこともあり、衝撃度が大きかったです。初体験を焦るあまり出会い系サイトで相手を探す美衣の心理、よく分からないなぁ。

 

「芹葉大学の夢と殺人」・・・ヒロイン・未玖は大学時代の恩師が殺されたと知り、咄嗟に恋人の雄大が犯人ではないかと思う。荒唐無稽な夢を見続ける雄大は教授と上手くいっておらず、教授のせいで留年したと信じていた。やがて未玖に雄大から連絡があるが・・・

雄大にはキング・オブ・ダメ男の称号を送りたいです。第二話の勘違い男、第三話のDV男もかなりのものですが、それらを上回るダメさ加減。それでも容姿が良いこともあり、なかなか見切りをつけられない未玖・・・くだらないと思いつつ、こういう見栄って誰の中にもあるのではないでしょうか。最後の未玖の選択には仰天しました。

 

「君本家の誘拐」・・・結婚数年目にして待望の赤ちゃんを授かったヒロイン・良枝。夢見ていた我が子との生活は、想像以上に過酷なものだった。疲れ果てる良枝だが、ある日、ショッピングモールで娘が消えてしまい・・・・・

乳幼児のいる生活の不自由さ、次第に追い詰められている母親の心理が胸に突き刺さるようでした。良枝も「育休三年取れるから、その途中で二番目の子を妊娠すれば、合計六年休めるわ♪」などと堂々と口走るキャラで、単純に共感できる描き方をされていないところが面白いです。余計な心配ですが、この家族、この先大丈夫なのかしら・・・

 

ちなみのこの作品、私はドラマ→原作の順で見ました。原作が面白いのは言うまでもありませんが、WOWOWで放送された倉科カナさんや成海璃子さん主演によるドラマ版も丁寧に作られた良作でしたよ。すでにDVD化されているので、機会があれば、ぜひ見てみてください。

 

落とし穴はあちこちにある度★★★★☆

このモヤモヤ感がたまらない度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

女性の転落を描いた小説が読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    まさに黒辻村と思うようなホラーミステリー、イヤミスが効いた作品ばかりでしたね。
    DVD化もあるとは楽しみです。
    もう一度読みたくなりました。

    1. ライオンまる より:

      辻村さんの青春ミステリも面白いですが、こういうダークミステリーも大好きです。
      何度も読み返していますが、飽きることがありません。
      ドラマ版も面白いですよ。

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