はいくる

「少女達がいた街」 柴田よしき

「青春」という言葉の成り立ちは案外古く、古代中国の五行思想に登場しているそうです。本来は「春」という季節を意味する単語であり、転じて日本では「人生において、未熟ながら若々しく元気に溢れた時代」という使われ方をするようになったんだとか。何歳が青春なのかというと、これは人それぞれ考え方があるでしょうが、一般的には大体中学生くらいから二十歳前後といったところでしょうか。

「未熟な登場人物が成長する」というストーリーを成立させやすい分、青春時代を扱った小説は数限りなくあります。あまりにありすぎて挙げるのが大変なくらいですが、ぱっと思いつくだけでも恩田陸さんの『夜のピクニック』、金城一紀さんの『GO』、山田詠美さんの『放課後の音符(キイノート)』などなど名作揃い。これらはすべて切なくも瑞々しい青春時代を描いた爽やかな物語ですが、中には青春の苦さ、痛々しさをテーマにした作品もあります。それがこれ、柴田よしきさん『少女達がいた街』です。

 

こんな人におすすめ

ノスタルジックな雰囲気のあるミステリーが読みたい人

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一九七五年、女子高生のノンノは、病気の祖父と二人暮らし。高校では友人を作らず、他校に通うチアキとつるむ毎日を送っている。そんなノンノの前に現れた、驚くほどノンノに似た少女・ナッキー。同い年ながら大人っぽいナッキーに惹かれるノンノだが、彼女を待ち受ける運命は残酷なものだった。不可解な火災により焼失したノンノの家と、そこで発見された二体の焼死体、そして記憶を失った一人の少女。迷宮入りと思われた事件が、二十一年後、一人の刑事によって動き出す・・・光に満ちた青春と、その悲しい行く末を描いた傑作ミステリー。

 

柴田よしきさんは登場人物の造形や描写が巧いなぁと改めて実感。本自体のボリュームも多い上、二つの時代を股にかけることもあって結構な数の登場人物が出てくるんですが、その一人一人がきちんとキャラ立ちしています。小説なのに「ノンノはこんな子」「チアキはこういう子」とかいうのがちゃんと想像できるところが凄いですよね。

 

物語は二部構成になっています。第一部の舞台となるのは一九七五年の渋谷。十六歳のノンノは友人チアキとロック喫茶で過ごすのが日課です。そんなある日、ノンノはナッキーという少女と知り合います。自分とよく似た顔立ちながら大人びたナッキーに夢中になるノンノ。いずれ二人で一緒にお店をやりたいと夢見るノンノですが、彼女の身に恐ろしい出来事が降りかかり・・・ここで二十一年の時が流れ、第二部が始まります。ノンノの家は全焼し、焼け跡から二人分の遺体と一人の記憶喪失の少女が発見されるという惨事になっていました。とっくに時効を迎えたこの事件を、一人の刑事が追い始めます。

 

第一部は語り手が十六歳の少女ということもあり、きらきらした青春グラフティ風の雰囲気で話が進みます。ディープ・パープルやレッド・ツェッペリンといった当時を彩るロックと、そのロックを愛する少女達、ティーンエイジャー同士の友情や恋心。明るく生き生きしたムードの中、十代特有の身勝手さや傲慢さなどもちらほら見え隠れしていて、「ああ、この年頃ってそうだったよなぁ」としみじみしていまいました。

 

第二部は雰囲気がガラリと変わり、休職中の刑事がある目的で過去の事件を掘り返していきます。この第二部は第一部と比べると分量が少ないものの、ページ数を補って余りあるほど密度が濃い濃い!怒涛のごとく伏線が回収され、謎が解かれていく勢いに圧倒されました。明らかになった真相はとても悲しいものなのですが、あまりの急展開とどんでん返しにいっそ爽快感すら感じます。

 

ミステリーとしての構成もとても優れた作品ですが、それよりも印象的なのは、登場人物たちの青春時代の過ごし方とその顛末でしょう。勢いはあるけれど危うく未熟な彼らの行動が何を引き起こしてしまったのか・・・青春という時期が持つ純粋さと残酷さが見事に書き表されていました。ロック喫茶をはじめとする七〇年代の文化も丁寧に描写されているので、同じ時代を体験したことがある人なら、思い切り感情移入してしまうかもしれませんね。もちろん、それ以外の世代の読者でも十分楽しめる小説だと思います。

 

果たして彼女は幸せだったのか度★★★★★

青春時代には引き返せない度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    風のコック~高原のカフェ日誌でファンになりました。
    1970年代の雰囲気は、懐かしさを感じるので是非とも読みたいですね。
    青春にミステリーとかなり楽しめそうです。
    少女がいた街での青春日記~早速図書館で探してきます。

    1. ライオンまる より:

      「風の~」が痛みや切なさもありつつ爽やかな作風だったのに比べると、こちらは若さ故の苦味や後悔が大きい作品です。
      雰囲気がガラリと違うので好みは分かれそうですが、ミステリーとしての構成もしっかりしていて読み応えあると思いますよ。

  2. しんくん より:

    大変、読み応えがある素晴らしい作品でした。
    前半登場したジャズ喫茶のジンさんが後半の刑事とは驚きました。
    ノンノと似ているナツキが双子だった、カズとマリが兄妹だった、チアキが世界的なミュージシャンになっていた~時間を跨いだ見事な展開に大満足しました。

    1. ライオンまる より:

      過去編の登場人物が未来編で思わぬ繋がりを見せたりして、一瞬たりとも飽きさせない作品だと思います。
      柴田さんは、気軽に読める短編も面白いけれど、やっぱりこういうずっしりした長編が好きだなと改めて思いました。

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