はいくる

「死者の学園祭」 赤川次郎

恋愛、ミステリー、ホラー、SF、歴史、コメディ・・・創作物の世界には、たくさんのジャンルがあります。となると、人によって好みのジャンルが分かれるのは自然の摂理。「恋愛小説は大好きだけど、人が死ぬ話は嫌」とか「現代が舞台じゃないと感情移入しにくいから、歴史小説は苦手だな」とか、色々あるでしょう。もちろん悪いことではありませんが、個人的には食わず嫌いをせず、どんなジャンルの作品でも一度くらい試した方が楽しいのでは?と思います。

ただ、苦手だと思っていたジャンルに手を出す場合、いきなり重厚な大長編作品や、解釈が難解な作品を選ぶのはやめた方がいいですよね。どんなジャンルにせよ、ある程度読みやすく、オチが分かりやすく、すんなり物語に入り込める作品をチョイスするのが吉ではないでしょうか。もし「今までミステリーは避けてきたけど、一冊くらい読んでみようかな」という方がいれば、第一作目はこれをお勧めします。赤川次郎さん『死者の学園祭』です。

 

こんな人におすすめ

瑞々しい青春ミステリーが読みたい人

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「真知子――ここよ、ここよ!」---――真知子に向けて朗らかに呼びかけながら、校舎から転落死した少女。彼女はなぜあんな死に方をしたのだろう。真知子は不可解な思いを持て余しながら転校し、東京の私立高校に通うことになる。それは、謎めいた事件の幕開けだった。次々に死を遂げていくクラスメイト達と、その背後に蠢く何者かの影。私が絶対にこの事件を解決してみせる!そう意気込み、事件に臨む真知子だが、魔の手は彼女のすぐ側にまで迫っていた・・・・・学園の謎を追う、青春ミステリーの傑作

 

今や大御所となった赤川次郎さんの長編デビュー作品です。一九七七年の刊行ということで、社会背景や文化等は古めかしい部分もありますが、主要登場人物が高校生だからか、違和感を感じることはありませんでした。それに、多くの赤川作品に言えることですが、全体的なバランスが良くて読みやすいんですよ。ミステリー要素も恋愛要素も混ざっていて、適度にシリアスで適度にコミカル。終盤ではビックリもありますし、希望のあるラストも好感度大。ミステリー小説の入門書にぴったりだと思います。

 

主人公・真知子は、親の仕事の都合で東京に越してきたばかりの女子高生。転校直前、前の学校で、クラスメイトだった少女が校舎から転落死する現場を目撃しており、割り切れない思いを抱えています。幸い新しい学校での生活は楽しいものでしたが、平穏な日々は長くは続きませんでした。真知子と同じクラスの女生徒達が、次々と不可解な死を遂げるようになったのです。これは絶対に何者かの陰謀に違いない。ミステリー好きな真知子は、彼氏の神山と共に事件を解決しようと決意します。果たして真知子は謎を解き明かし、真犯人を見つけることができるのでしょうか。

 

<バイタリティ溢れる女子高生探偵><唐突に出てくるイケメン彼氏><主人公の身辺で頻発する謎めいた事件><高校生の探偵ごっこにやたら協力的な関係者達>等々、学園ミステリーの王道をいくストーリー展開です。一歩間違えれば浅いと捉えられかねませんが、それを上回るスピード感によってどんどんページをめくってしまいます。この読みやすさが、赤川次郎さんの一番の魅力ですよね。

 

トリックを重視するタイプの作品ではないので、肝心のミステリー部分はするすると解決します。代わりに力をこめて描写されているのは、ティーンエイジャーの繊細な心理模様です。大人の裏をかいてやったと得意になる様子、行動力とは裏腹に思慮が浅いところ、女友達に隠し事をされて拗ねる幼稚さ、彼氏とのデートでのはしゃぎ方・・・十代ってこんな感じだよなと、しみじみさせられます。真知子が事件解決を決意する動機が「ミステリー好きだし、身近でこんな事件起きることなかなかないし、私が謎を解きたい!」という軽いものなのも、むしろリアリティがあるように感じました。

 

なお、本作は二〇〇〇年に深田恭子さん主演で映画化されています。私は映画版は見たことがないのですが、あらすじをチェックしたところ、小説版とは内容が少し違う様子。今更ながら興味が湧いてきたので、探してみようと思います。

 

疲れている時でもするする読める度★★★★☆

正当派のザ・青春ミステリー度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    赤川次郎さんの作品は時代を上手く反映していると感じます。
    読んだらすぐに時代の背景が思い浮かぶのが良いですね。
    東野圭吾さんのようにテレビや週刊誌で時代背景を説明するような記述がなくても生活観から感じ取れるところが読みやすいと思います。
    1977年は妻が生まれた年で自分が4歳の頃でまさに昭和の雰囲気がある青春ミステリーは大変に興味深いです。
     「ぼぎわんが来る」かなり濃厚なホラーでした。主人公のヒデキの独りよがりの振る舞いはぼぎわんの影響とは別の意味でのホラーで、ぼぎわんを呼び寄せるきっかけもこれが原因だと思うと何故か納得させられるものがありました。
     東野圭吾さんの新作届きました。
     「ラプラスの魔女」の3作目~楽しみです。

    1. ライオンまる より:

      赤川次郎さんの著作は、光景や登場人物達の姿をイメージしやすいんですよね。
      映像化作品が多いのもそのせいかな?と思います。

      「ぼぎわん~」は、秀樹の、分かりやすいDVとは違う、鈍感さ・無神経さゆえの暴挙が印象的でした。
      野崎の言う通り、彼は彼なりに懸命に家族を守ろうとしていたというところが、ある意味で哀れです。
      こちらは奥田英朗さんの『リバー』が届いたところです。
      かなりの大長編で、読み応えありそうです。

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