私は女子高出身なので、女友達とのいざこざはそれなりに経験しましたし、見聞きもしました。そして、この手の話だと<女同士は奇数グループだとうまくいかない>という定説がしばしば出てきます。<女は二人で盛り上がる傾向にあるから、三人や五人で仲良しグループを作ると、一人あぶれてしまう>というやつですね。
実際に女の園を経験した身から言わせてもらうと、これはあまり信ぴょう性がありません。仲良しグループの中で寂しさや疎外感を味わった経験は私にもありますが、それは二人組や四人組の時も同様でした。楽しい友達付き合いができるか否かに、人数は関係ないと思います。今回ご紹介する小説には、個性豊かで楽しい三人組が登場します。若竹七海さんの『プラスマイナスゼロ』です。
こんな人におすすめ
コミカルな青春ミステリーが読みたい人
絵に描いたようなお嬢様ながら不運続きのテンコ、素行も成績も悪いトラブルメーカーのユーリ、何もかもが全国平均値という平凡娘のミサキ。葉崎山高校に通う凸凹トリオは、今日も様々な事件に直面する。犯人逮捕後も出現し続ける殺人被害者の幽霊、<青ひげ>と噂される男の秘密、学校行事の最中に続発するトラブルの真相、病院でのアルバイト中に起きた大騒ぎ、卒業生を送る会用の出し物を巡る思わぬ騒動、校内で起きた胸像盗難事件の意外な顛末・・・・・葉崎市を舞台に繰り広げられる小さな事件を描いたユーモアミステリー短編集
架空の町・葉崎市を舞台にした『葉崎市シリーズ』の一作です。このシリーズは、過去に紹介した『クール・キャンデー』を筆頭に、悪意に満ちた事件が色々と起きるのですが、本作の雰囲気はライトで軽妙。殺人をはじめとする犯罪も出てくるものの、後味はそう悪くないので、イヤミスが苦手な人でも大丈夫だと思います。
「そして、彼女は言った~葉崎山高校の初夏~」・・・次々と不運に見舞われるお嬢様のテンコ。今日はなんと空き家で女性の死体を発見してしまう。犯人はすぐ逮捕されるのだが、なぜか被害者の幽霊がテンコに付きまとうようになり・・・
本人に非はないのになぜか不運続きのテンコの様子が、気の毒やらおかしいやら。彼女の不運の凄まじさの前には、<幽霊>という非現実的な存在さえ霞んでしまうほどです。<殺人事件の真相を解決する>ではなく<事件解決したのになぜ被害者の霊が出るのか推理する>というテーマもなかなかユニークですね。オチはけっこうブラックなはずなのですが、光景を想像すると笑っちゃいます。
「青ひげのクリームソーダ~葉崎山高校の夏休み~」・・・ユーリの単位取得のための奉仕活動を手伝い、浜辺のゴミ拾いをするテンコとミサキ。浜には廃業した海の家跡地があったが、ここのオーナーは妻が次々と死に、<青ひげ>と囁かれているらしい。オーナーの噂話に興じる三人の前を、不審な女性が通りがかり・・・
オカルト風味だった第一話と違い、ミステリーとしての謎解き要素がぐっと強まったエピソードです。一女子高生に過ぎない三人組が、ニュースや噂話などで得た情報から推理を組み立てる流れにリアリティありますね。実際、某名探偵の孫並の証拠発見能力や推理力を持つ高校生がそうそういるわけないですし。そして、このエピソードの白眉はラスト一行。間違いなく、この後が気になって仕方ない読者が続出しているでしょう。
「悪い予感はよくあたる~葉崎山高校の秋~」・・・葉崎山高校の秋の収穫祭。楽しく賑やかなはずの行事だが、問題行動を起こして停学中の男子生徒が現れたことで不穏な影が差し始める。間もなく、女生徒の怪我や露店の倒壊といった騒ぎが相次ぎ・・・
ミステリーとしてのロジックは第二話の方がしっかりしているのでしょうが、終盤のどんでん返し度合ではこのエピソードの方が上だと思います。改めて読み返してみると、最初からちゃんと伏線張ってあったんだよなぁ。三人組の中で一番目立たず平々凡々と思われているミサキが、実はちゃんと個性豊かな女の子だということが分かることもあり、一番印象的なエピソードです。
「クリスマスの幽霊~葉崎山高校の冬~」・・・三人組が引き受けたアルバイト。それは、入院中の患者の話し相手になったり本を読み聞かせてあげたりする歩合制の仕事だ。入院患者である老婦人とお喋りを楽しむ三人だが、そこで思わぬ騒動が巻き起こり・・・・・
平和そうなアルバイトが意外な事件に繋がるという展開が面白いです。まあ、この三人組が絡んで平和なまま終わるはずないか(笑)でも、終始コミカルに進むものの、ここに出てくる犯罪って相当悪質ですよね。こういうことって、きっと現実世界でも起きているんでしょう。というか、冷静に考えてみると、このアルバイトを考えた人って一体誰なんだろう・・・?
「たぶん、天使は負けない~葉崎山高校の春~」・・・迫りくる卒業生を送る会。ユーリ発案により、顔見知りの芸人の芸を模倣させてもらおうと考える三人だが、その芸とはなんと蛇の丸呑みショーだった!おまけに送る会当日、その芸人の死体が発見され・・・
よりによって卒業生を送る会で蛇の丸呑みショーをやろうと発案するユーリ、面白すぎる(笑)騒動目当ての悪ノリなどではなく、一〇〇%大真面目という辺り、余計に笑えます。これまでのエピソードでもちらほら描写されてきましたが、ユーリって喧嘩早い不良娘ではありますが、すごく正直で素直な心の持ち主でもあるんですよね。彼女の信頼を裏切った芸人の末路と、そこから繋がる事件の真相がこれまたおかしいです。
「なれそめは道の上~葉崎山高校、1年前の春~」・・・高校入学後、自己評価の低さから周囲の使い走り的存在に甘んじるミサキ。そんな彼女はある日、テンコとユーリという女生徒と知り合う。その後、生徒会メンバーと接触した三人は、校内で起きた胸像盗難事件の犯人にされてしまい・・・
最終話にして時間が遡り、三人が知り合った経緯が語られます。ここで出てくるミサキのクラスメイトや生徒会の連中がほんとーーーーーに腹立つ!!!人のことを利用するしか考えていない傲慢さに、正直、収録作品に出てきたどの犯罪者よりもむかっ腹立ちました。その分、まったくブレないユーリやテンコ、そして彼女たちの影響を受けて理不尽をきっぱり跳ねのけるミサキの姿が痛快です。ていうか、生徒会はもうちょっと痛い目見てもいいと思うぞ!!
私が読んだのは単行本ですが、ポプラ文庫ピュアフル版には三人が卒業旅行に行くエピソードが、さらにポプラ文庫版には卒業後数年経ったエピソードが追加されているんだとか。これは絶対読まなきゃダメでしょう。どんな話かは分からないけど、いつでもどこでも変わらずいる三人に会えればなと思います。
三人のキャラ立ち具合が素晴らしい!度★★★★★
学生時代に読みたかったな度★★★★☆
若竹さんはこういう青春ミステリーも書かれるですね。
まさにプラスマイナスゼロとは行かないような内容の短編集で面白そうです。
女の園と言えば柚月麻子さんや湊かなえさんを思い出します。
自分は共学校でしたが男が多い理系、体育会系クラブで数の少ない女子は華やかというイメージでしたが、男が憧れるような華やかさの裏側は社会に出てから嫌というほど思い知らされましたが、まだまだ甘いかな~と感じます。
若竹さんはまだ未読ですがこれこそ初読みに合いそうです。
若竹さんにしては悪意の描写が軽いので、初読み向きだと思います。
中でもテンコの不運っぷりは悲惨なはずなのに笑ってしまうこと間違いなし!
若竹さんが十代を主人公に持ってくることは珍しいけれど、「クール・キャンデー」や「水上音楽堂の冒険」でも
ティーンエイジャーの身勝手さや残酷さを巧みに描いていました。
またこういう青春ミステリーを書いてほしいです。