若竹七海

はいくる

「依頼人は死んだ」 若竹七海

探偵に向いている資質とは、一体どんなものでしょうか。調査対象をどこまでも追跡できる体力?些細な異変を見逃さない観察力?怪しまれずに周囲に溶け込める社交性?どれも必要でしょうが、一番大事なのは、何があっても動じずに調査を続けるしぶとさだと思います。

古今東西、小説の中で探偵役を務める登場人物達は皆、並々ならぬしぶとさを持っていました。有栖川有栖さんの『作家アリスシリーズ』に登場する火村英生は、銃を突きつけられても犯人追及の手を緩めないし、柴田よしきさんの『花咲慎一郎シリーズ』の花咲慎一郎は、暴力団幹部に命を握られながらも問題解決のため奔走します。それから、しぶとい探偵といえばこの人を忘れちゃいけません。若竹七海さんの『葉村晶シリーズ』に登場する葉村晶。今回取り上げるのは、シリーズ第二弾『依頼人は死んだ』です。

 

こんな人におすすめ

・皮肉の効いたミステリー短編集が好きな人

・女性探偵の物語に興味がある人

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「バベル島」 若竹七海

私は短編小説が大好きでよく読みますが、その上で、一つ問題があります。短編小説の場合、アンソロジー等に収録される可能性が高く、短編集発売の情報に期待していたらすでに読んでいた、ということがあり得るのです。優れた短編は何度読んでも面白いものですが、それでも、初めて読んだ瞬間の驚きはもう得られません。

その点、最初に<文庫オリジナル>とか<単行本未収録作品集>とか書いておいてもらえると、がっかりする心配がなくて安心ですね。過去にブログでも紹介した今邑彩さんの『人影花』などがいい例です。それからこの作品も、<単行本未収録作品を集めた>としっかり書いてあるのでがっかりせずに済みました。若竹七海さん『バベル島』です。

 

こんな人におすすめ

ホラーミステリー短編集が読みたい人

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「プラスマイナスゼロ」 若竹七海

私は女子高出身なので、女友達とのいざこざはそれなりに経験しましたし、見聞きもしました。そして、この手の話だと<女同士は奇数グループだとうまくいかない>という定説がしばしば出てきます。<女は二人で盛り上がる傾向にあるから、三人や五人で仲良しグループを作ると、一人あぶれてしまう>というやつですね。

実際に女の園を経験した身から言わせてもらうと、これはあまり信ぴょう性がありません。仲良しグループの中で寂しさや疎外感を味わった経験は私にもありますが、それは二人組や四人組の時も同様でした。楽しい友達付き合いができるか否かに、人数は関係ないと思います。今回ご紹介する小説には、個性豊かで楽しい三人組が登場します。若竹七海さん『プラスマイナスゼロ』です。

 

こんな人におすすめ

コミカルな青春ミステリーが読みたい人

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「暗い越流」 若竹七海

別の記事で、「小説が映像化されると、世間一般の認知度・関心度が一気に上がる」と書きました。<はいくる>の場合、それが一番顕著に表れたのは、山本文緒さんの『あなたには帰る家がある』。ドラマ化が発表されるや否や、記事の閲覧件数が一日で三千件を越し、仰天したものです。

ここ最近は、若竹七海さんの著作を検索してこのブログを見つける方が多いようです。これは恐らく、若竹さんの『葉村晶シリーズ』が、NHKで『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』としてドラマ化されたからでしょう。私も視聴しましたが、シシドカフカさんの乾いた演技が葉村晶のイメージにぴったりで、とても面白かったです。せっかくなので流れに便乗し、若竹七海さんの短編集『暗い越流』を取り上げたいと思います。

 

こんな人におすすめ

ブラックな短編ミステリーが読みたい人

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「殺人鬼がもう一人」 若竹七海

ミステリー系の小説や漫画、ドラマなどを見ていると(特にシリーズもの)、しばしば「この町、凶悪事件が起こりすぎでしょ」という突っ込みが発生します。もちろん、人在る所にトラブル有り。それなりの人口を有する町なら犯罪件数が多くても仕方ないですが、それにしたって、そうそう頻繁に<血塗られた復讐劇>だの<阿鼻叫喚の惨劇>だのが起こっていては、住民は堪ったものじゃありません。

とはいえ、あくまでフィクションなら、複雑な謎や衝撃的な事件がしょっちゅう発生した方が面白いもの。ミステリー漫画界で有名な子ども探偵だって、あの町が事件だらけだからこそ能力を発揮できるのです。事件だらけと言えば、ここも負けていません。若竹七海さん『殺人鬼がもう一人』に登場する辛夷ヶ丘(こぶしがおか)です。

 

こんな人におすすめ

ブラックユーモアの効いたミステリー短編集が読みたい人

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「プレゼント」 若竹七海

「一番怖いものは何?」と聞かれた時、どんな答えが思い浮かぶでしょうか。「ニンニクと十字架」なら吸血鬼、「まんじゅうこわい」なら古典落語。そう言えば、作家アンデルセンは就寝中に死んだと誤解されて埋葬されることを恐れるあまり、枕元に「僕は死んでいません」というメモを置いて寝ていたんだとか。人それぞれ、恐怖の対象は十人十色です。

私にも怖いものは色々ありますが、何か一つだけ挙げろと言われたら、「人間の悪意」と答えるかもしれません。だって、ホッケーマスクかぶった怪人やテレビから這い出してくる女幽霊と違い、悪意をまったく受けずに生きていくなんてほぼ不可能ですから・・・今回は、どす黒い人間の悪意を扱った作品を紹介します。若竹七海さん『プレゼント』です。

 

こんな人におすすめ

毒と悪意に満ちたミステリー小説が読みたい人

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「名探偵は密航中」 若竹七海

飛行機、新幹線、電車、自家用車・・・どれも旅行で利用したことのある私ですが、船旅は未だ経験したことがありません。乗ったことがあるものといえば、乗船時間十分程度のフェリーくらい。船酔いしやすい体質ということもあり、数時間の移動はもちろん、数週間、数カ月をかける長期クルーズなど夢のまた夢です。

一度出向したら最後、四方を大海原に囲まれ、ちょっとやそっとのことでは逃げ出すことのできない船の旅。そんな特殊な状況下なわけですから、船の上ではきっと様々なドラマが繰り広げられることでしょう。ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』などは世界各国で読まれていますし、北杜生さんの『どくとるマンボウ航海記』、福井春敏さんの『亡国のイージス』なども有名ですね。この船の上でも、驚くべき人間模様が展開されます。若竹七海さん『名探偵は密航中』です。

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「死んでも治らない~大道寺圭の事件簿~」 若竹七海

「元警察官」というのは、創作物の世界では重要なファクターとなることが多いです。警察官時代のスキルやコネ、確執を持ち、捜査権はない一方、公僕としての制約もない。善玉なら頼もしいけれど、悪玉ならこれほど厄介な存在もそういませんね。

元警察官が登場する作品と言われて、ぱっと頭に浮かぶのは横山秀夫さんの『半落ち』、当ブログでも紹介した柚月裕子さんの『慈雨』といったところでしょうか。あの二作に出てくる元警察官は、いずれも彼らなりの信念を持ち、周囲からの人望も厚い人物でした。では、こちらの作品に出てくる元警察官はどうでしょうか。若竹七海さん『死んでも治らない~大道寺圭の事件簿~』です。

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「クール・キャンデー」 若竹七海

「イヤミス」というジャンルが流行り始めて、もうずいぶん経ちます。文字通り、「読むと嫌な気分になるミステリー」の略で、最初にこの用語を使ったのは批評家の霜月蒼氏とのこと。代表的な作家としては、湊かなえ、真梨幸子、沼田まほかるなどが挙げられます。

かくいう私自身、イヤミスが大好きで、有名作品は一通り読んでいると思います。そこで今日は、個人的に「イヤミスの女王」と思っている作家、若竹七海さん「クール・キャンデー」を紹介します。

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