「OL」という言葉が生まれたのは、一九六四年のこと。週刊誌『女性自身』が公募を行って生まれた造語だそうです。五十年以上の歴史があり、今では台湾や香港でも使用されているようですね。それはすなわち、会社で働く女性がどんどん増え、社会に貢献してきたことの証でしょう。
私自身OL経験者であり、OLが登場する小説も大好きです。才色兼備のOLがイケメン相手に恋の駆け引きを繰り広げる話も、正義感溢れるOLが企業の不正と戦う話も面白い。でも、一番好きなのは、どこにでもいる平凡なOLが、幸せになるため一生懸命前進していく話です。今日は、そんなOLたちの奮闘記をご紹介しましょう。恋愛、ホラー、SFと、幅広いジャンルで活躍する篠田節子さんの『女たちのジハード』です。
堅実に働きながらマンション購入を目指す康子、美貌を活かして玉の輿を目指すリサ、要領の悪さのせいで結婚生活を破綻させた紀子、英語力を武器にアメリカで活躍することを夢見る紗織・・・・・保険会社で働くOLたちは、ままならない人生に悩み、傷つきながらも、明日に向かって一歩一歩進み続ける。しぶとくタフな女たちの傑作奮闘記。
本作が執筆されたのは一九九七年。そのため、会社や社会人たちの描写は、時代の違いを感じさせるものが多いです。「三十歳を過ぎたOLが嫁き遅れ扱いされる」「結婚したOLは寿退社するもの」「二十五歳までの結婚を目指す」「デートに誘う電話が会社にかかってくる」etcetc・・・とはいえ、女性たちが抱える迷いや葛藤はいつの世も同じ。人間の本質なんて、そうそう簡単に変わるものではないのでしょうね。
物語の中心となるOLたちのキャラクター像もなかなかユニーク。地道に働く内に婚期を逃した康子は、控えめなようでいて出会ったばかりの男たちとあっさり関係を持ち、最後には意外な転身を遂げます。また、好条件の結婚しか頭になかったリサは、夢見た通りの男性と出会いますが、思わぬきっかけで当初の理想とはかけ離れた未来を選ぶことになります。海外での成功を目指す紗織は憧れだったアメリカで予想外の挫折を味わうもののへこたれず、依存心の強い紀子は周囲を振り回しつつもちゃっかり居場所を手に入れる。賢いようでちょっとおバカ、打たれ弱いようで逞しい。女性って、まさにこんな生き物です。
九十年代後半という時代設定も、物語を面白くするのに一役買っています。バブルが崩壊し、景気の悪化により様々な被害が出ていた時代。それは、「アッシー」や「ミツグ君」たちと楽しく遊んだ末にいい結婚をして寿退社するという、女性の一つの幸福像が変化した時代でもありました。もしかしたら、現代日本を舞台にしたのでは、本作のような話は成立しないのかもしれません。
それなりにボリュームのある作品なものの、一話一話は短編形式で読みやすいですし、読後感も良いです。家の本棚に置いておいて、時々読み返しては元気をもらいたくなる小説ですね。調べてみると、一九九八年に賀来千香子さんや千堂あきほさんでドラマ化されていますが、DVD化はされていない様子・・・見てみたかったので残念です。
前向きさにパワーをもらえるよ度★★★★☆
女性の働き方はけっこう変わったよね度★★★☆☆
こんな人におすすめ
働く女性の奮闘記が好きな人
未読の作家さんですが興味深い内容ですね。
自分たちより少し上の世代の女性の社会で奮闘する様子~垣谷美雨さんや原田ひ香さんのようなストーリー、特にバブル時代の女性目線の社会の様子がうかがえそうで楽しみです。
この時代の人間模様って、小説のテーマとしてすごく面白いですよね。
篠田さんの小説は、垣谷さんなどと比べると大きな動きは少ないですが、その分、共感しやすいです。
お薦めですよ。