はいくる

「怖い女の話」 柴田哲孝

今までこのブログでは、<怖い女>が登場する小説をたくさん取り上げてきました。別に狙ったわけではありませんが、それらの小説の大半は、作者が女性だった気がします。女性作家の手で綴られる女の狂気や愛憎の恐ろしさはやはり格別。読んでいて鳥肌が立ちそうになることすらあるほどです。

その一方、男性作家が描く<怖い女>の中にも、強烈な猛者がうようよいます。男性作家の場合、悪女に翻弄される男性被害者の描写にも力が入るんですよね。この辺りは、中山七里さんの『嗤う淑女』や、五十嵐貴久さんの『リカ』などを読めば実感できると思います。例に挙げた二作品は、どちらも一人の<怖い女>が活躍(?)する話なので、今回は多種多様な<怖い女>が登場する作品をご紹介します。作家だけでなく冒険家としての顔も持つ、柴田哲孝さん『怖い女の話』です。

 

こんな人におすすめ

女性の狂気をテーマにしたサイコサスペンスが読みたい人

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あなたを絶対逃がさない---――冴えない男に急接近する女性の正体、新妻を苦しめる手紙の真相、二面性を持つ女に囚われた男の末路、ゴミ漁りを続ける女性が求めるもの、婚活で知り合った女性の真の目的、恨みを抱える女の密やかな復讐劇・・・・・彼女たちは止まらない。男に逃げる術などない。女の狂気に触れた男たちの転落を描くサイコサスペンス短編集

 

柴田さんと言えば、『私立探偵・神山健介シリーズ』のようなハードボイルド作品、それもずっしり読み応えのある長編というイメージを持っていましたが、本作は新津きよみさんや真梨幸子さんを彷彿とさせる<女性の怖さ>をテーマにした短編集。ノンフィクション作品で鍛えたシンプルかつ緻密な筆力で描かれる女性の狂気が強烈です。どれもこれもホラー寄りのイヤミスですが、一話一話の分量が少ないため、さくっと気軽に読める点も魅力です。

 

「あなたがほしい」・・・垢抜けない容姿と性格のせいで孤独な日々を送る主人公は、ある時、ふとしたきっかけで魅力的な女性と知り合う。とんとん拍子で付き合うようになるものの、主人公には、彼女がなぜ自分を好いてくれるのか分からない。やがて主人公はプロポーズを決意するが・・・・・

女性が単純に主人公に愛情を抱いているわけではないんだろうな~とは何となく予測できるものの、真の目的が分かった時はやっぱりゾッとしてしまいました。本作の大半の男性キャラクターに言えることですが、この主人公、冴えないというだけで全然悪人ではないので、末路の哀れさが際立ちます。

 

「長い手紙」・・・年の離れた夫と平穏な結婚生活を送る主人公のもとに、ある日、一通の手紙が届く。それは、夫が恐るべき犯罪者だと告発する手紙だった。最初は半信半疑だった主人公だが、手紙の内容は徐々に真実味を帯びていき・・・・・

収録作品中唯一、女性が主人公を務めるエピソードです。謎の手紙に恐れおののく主人公に狂気の色は見えないし、一体にどこに<怖い女>がいるのかなと思いきや・・・うーん、そうきたか。さらりと読んだ部分にしっかり伏線が張ってありました。怪しい手紙を段々と信じていく主人公の心理描写もスリリングです。

 

「最後の恋人」・・・仕事を通じて知り合った女性を交際することになった主人公。恋人は普段は淑やかな女性だが、ふとしたきっかけで激高し、暴れ回る。あまりの変わり様に別れを決意する主人公だが・・・・

<怒りのスイッチが入ると手が付けられなくなる恋人>というDVの典型のようなエピソードですが、この話で豹変するのは女性。その分、男の面子のため周りに相談できない主人公の焦り方がリアルでした。終盤、主人公のもとを訪れる恋人の様子はさながら貞子・・・ラストのモノローグも怖すぎます。

 

「さがしもの」・・・新妻と幸せな新婚生活を送る主人公。そんな彼を見つめる不気味な視線があった。とある目的を胸に秘め、主人公夫妻が出したゴミをひたすら漁り続ける女。彼女の正体は果たして・・・・・

怖い怖い怖い怖い怖い!!!主人公への愛、妻への憎しみを吐露しながらゴミ漁りを続ける描写も怖いけど、ラスト一行で女の正体が判明する瞬間はまさに鳥肌ものです。思わせぶりに名前が出てきたあの人が犯人かと思ったら、まさかそっちだったとはね。主人公の八方塞がりっぷりは、本作中随一ではないでしょうか。怖いけど、一番好きな話です。

 

「婚活の行方」・・・女っけのない人生を歩んできた主人公は、婚活を通じ、一人の女性と知り合う。容姿に難はあれど、料理上手で気配りのできる女性で、主人公は段々と惹かれて行く。彼女に押される形で結婚を決める主人公だが・・・・・

実際にあった事件をもとにしたであろうエピソードです。三十半ばを過ぎ、容姿も体形も難ありだが家庭的な女性に「このくらいなら競争相手も少ないだろう」と交際申し込みを行う主人公に現実味がありました。途中途中で挟まれる、女性の結婚に対する価値観が恐ろしいったら・・・世の独身男性が読んだら、結婚を躊躇うようになるかもしれません。

 

「壊れたおもちゃ」・・・管理職にある主人公は、妊娠中の女性部下に辛く当たったことを何者かに密告され、報復を誓う。当の女性部下をはじめ、密告犯の候補は数名。一体誰が犯人なのか。推理を巡らせる主人公だが・・・・・

基本的に無害な男性キャラばかりな本作品中、唯一と言っていいくらい性悪な男性主人公が出てきます。こいつの態度が酷過ぎるため、陥れられ、転落していく様子はなかなか痛快。そのせいか、<怖い女>の正体が判明しても、恐怖はあまり感じませんでした。いや、やっていることは十分すぎるくらい怖いんですけどね。

 

登場する<怖い女>全員、超人的な能力を持つわけでもなく、現実にいそうなところが恐怖を倍増させていました。映像でも映えそうだし、そのうちドラマ化されるかもしれませんね。柴田さん、こういう作風もイケるなら、今後もどんどん書き続けてほしいです。

 

<怖い女>はすぐそこにいる度★★★★☆

標的にされたら逃げられない度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    未読の作家さんです。
    男性が描く怖い女は、東野圭吾さんの「白夜」「幻夜」中山七里さんの「嗤う女」など思い出しますが怖いというより卑劣、策士の女性のイメージで女性のストーカーのような怖さを感じます。
    最近読んだ秋吉理香子さんの「灼熱」に近いような短編もあり読んでみたくなりました。ハードボイルドの作品も好きですのでこの作品をきっかけに他のシリーズも読破しるかも~と思います。

    1. ライオンまる より:

      普段の柴田ワールドとはちょっと趣が違いますが、これはこれですごく面白かったです。
      かなりドロドロした話もありますが、短編集なのでさくっと読めるところもいいですね。
      ハードボイルド作品がお好きなら、他の柴田作品も気に入るかもしれません。

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