作家名

はいくる

「遅刻して来た幽霊」 赤川次郎

何年、下手をすると何十年も前に読んだ作品のことが、急に気になり出す。再読したくてたまらなくなる。私にはこういうことが結構あります。何かきっかけがあったわけではなく、それこそ雷に打たれたかのように、「あ、あれがまた読みたい!」となるのですけど、あれってどういう思考回路なのでしょう?

こういう場合、一番困るのは、あまりに昔に読んだ作品だと作者名やタイトルが分からないケースがままあることです。あらすじをひたすらインターネットで検索しまくり、それらしい作品を見つけては、あれでもないこれでもないと悩むこともしばしば・・・今回取り上げる作品も、該当作を見つけるまでしばらくかかりました。赤川次郎さん『遅刻して来た幽霊』です。

 

こんな人におすすめ

現実味あるサスペンス短編集が読みたい人

続きを読む

はいくる

「その手をにぎりたい」 柚木麻子

私は昔から魚介類が大好きです。海が近い地方で育ったせいか、肉より魚の方になじみ深さを感じます。子どもの頃はそれなりに好き嫌いがあったものの、魚に関しては、骨たっぷりの焼き魚だろうと、独特な匂いの青魚だろうと、ぱくぱく食べていたものです。

日本にはたくさんの魚介料理がありますが、その中でも代表的なのは寿司ではないでしょうか。新鮮な海産物と清潔な調理環境があって初めて成立する寿司は、今や世界に誇る日本のソウルフードです。今日は、寿司がキーアイテムとして使われる作品を取り上げたいと思います。柚木麻子さんの『その手をにぎりたい』です。

 

こんな人におすすめ

バブル期前後の女性の成長物語に興味がある人

続きを読む

はいくる

「この会社は実在しません」 ヨシモトミネ

小説家になろう、カクヨム、アルファポリスetc。現在、国内には複数の創作物投稿サイトがあります。厳密に言えば、各サイトごとに違いがあり、メリット・デメリットも存在するようですが、私はあまり気にしないタイプ。時間がある時、目についたサイトで面白い作品が読めれば満足です。

こうした投稿サイトは、一般人が誰でも気軽に作品を投稿できるという特徴上、どうしても玉石混交になりがちです。だからといって、「素人の趣味じゃん」と侮ることはできません。気軽に投稿できるからこそ参加者が増え、素晴らしい筆力の持ち主が育つことだって決して珍しくないのです。この作品も、その一つだと思います。今回取り上げるのは、カクヨムからデビューした作家、ヨシモトミネさん『この会社は実在しません』です。

 

こんな人におすすめ

モキュメンタリーホラーが好きな人

続きを読む

はいくる

「アルテーミスの采配」 真梨幸子

一説によると、日本はAV大国だそうです。海外と比べ、作品のバリエーションが豊富で設定・俳優陣の演技にも凝っていること、今は亡き飯島愛さんを筆頭に、AV業界を経てマルチタレントとして活躍するケースも多いことが理由なのだとか。専用検索サイトにおける人気キーワードランキング上位に<Japanese>が入っていることからも、人気の程がうかがい知れます。

<風俗に沈める>という言い方があるように、一昔前、性産業はどこか後ろ暗く、日が当たらないイメージがありました。しかし、ここで忘れてはいけないのは、AV自体は違法でもなんでもない、れっきとしたビジネスだという点です。どんな分野であれ、商売として成立させようとするならば、そこにはきちんとしたシステムや采配が必要となります。この作品を読んで、そんな当たり前のことに今更ながら気づかされました。真梨幸子さん『アルテーミスの采配』です。

 

こんな人におすすめ

AV業界を舞台としたイヤミスに興味がある人

続きを読む

はいくる

「ふたり腐れ」 櫛木理宇

以前、読んだ小説にこんな台詞がありました。「突発的な犯罪の場合、一番予想外の方向に向かいやすいのは二人組。一人だとなかなか踏ん切りがつかないし、三人以上だと足並みを揃えるのが難しい」。ただの台詞であり、犯罪学的にどのくらい信ぴょう性があるのかは分かりませんが、一理あると思ったものです。

現実においても、二人組の犯罪者って「勢いでこうなったけど、本人達も最初はここまで大騒動になるとは思ってなかったんじゃ・・・」というケースが結構多い気がします。<アメリカの狂犬>と呼ばれ、最後は警官隊によって蜂の巣にされたボニー・ポーカーとクライド・バロウのカップルなんて、いい例ではないでしょうか。今回取り上げる作品にも、あれよあれよという間に大事件を起こす二人組が出てきます。櫛木理宇さん『ふたり腐れ』です。

 

こんな人におすすめ

どんでん返しがあるサイコサスペンスに興味がある人

続きを読む

はいくる

「骨肉」 明野照葉

昔読んだ小説に、こんな台詞がありました。「この世の争いのほとんどは、イロかカネが原因で起こる」。イロ(色)とは性欲や恋愛絡み、カネ(金)とは金銭問題のことで、確かにトラブルのほとんどはそのどちらかが原因だよなと、しみじみ納得したものです。

どちらも当事者にとっては深刻なのでしょうが、<巻き込まれる関係者の多さ>という観点で見れば、金銭問題の方に軍配が上がると思います。特に遺産相続問題となると、相続人のみならず、その配偶者や子供の生活に関わる可能性があるわけですから、関係者が目の色を変えるのも一概には責められません。それでも、今日ご紹介する作品のような遺産問題は、なかなか珍しいのではないでしょうか。明野照葉さん『骨肉』です。

 

こんな人におすすめ

皮肉が効いた家族小説に興味がある人

続きを読む

はいくる

「入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください」 寝舟はやせ

現代は個人主義の時代だと言われています。個人の意思や多様性というものが重視され、公より私を充実させることの方が大事。求人案内でも、<アットホームな社風><休日に社員同士でレジャーに出かけます>などといった文言は喜ばれない傾向にあるようです。

しかし、どれだけ個人主義が広がろうと、人間は社会生活を営む生き物であり、他者との関わりをゼロにすることは相当難しいです。そして、どうせ人と関わらなくてはならないのなら、できれば円満に付き合っていきたいのが人情というもの。特に身近にいる相手とは、いい関係を築くに越したことはないでしょう。でも、隣りにいるのがこんな存在だったら・・・?今回ご紹介するのは、寝舟はやせさん『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』です。

 

こんな人におすすめ

日常侵食系ホラーが浮きな人

続きを読む

はいくる

「闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿」 深木章子

世間には様々な働き方が存在しますが、その中に<フリーランス>というものがあります。これは、組織に属さず、個人で仕事を請け負う働き方のこと。収入や社会的立場が不安定になりがちな一方、自由度が高く、組織のしがらみ・規則に縛られず働けるというメリットもあります。

この<フリー>という立場、フィクション世界においては、すごく使い勝手がいい存在です。何しろ組織内のあれこれの設定を考えずに動かせるわけですから、どんな面倒な事件にも絡ませ放題。内田康夫さんによる『浅見光彦シリーズ』主人公の浅見光彦をはじめ、フリーランスで働く人間が出てくる小説もたくさんあります。今回取り上げる作品でも、フリーライターがいい働きをしてくれていました。深木章子さん『闇に消えた男 フリーライター・新城誠の事件簿』です。

 

こんな人におすすめ

正統派の本格推理小説が読みたい人

続きを読む

はいくる

「二人一組になってください」 木爾チレン

私は子どもの頃から不器用な上に運動が苦手。当然、図工も体育も惨憺たる有様でした。大人になってしまえば「別にそれくらい苦手でも・・・」と思いますが、当時は結構真剣にコンプレックスを抱いていたものです。子どもの頃って、器用で運動神経の良い子が人気者になりがちせいもあるでしょう。

そんな私には、嫌でたまらない時間がいくつかありました。例えば創作ダンスの発表会や、連帯責任を問われる大縄跳び。それから、先生による「はい、〇人組を作ってー」の一言。特に最後の場合、自分の努力ではどうにもならない、同級生の顔ぶれ等に依るところも大きいため、余計に憂鬱だった気がします。でも、こんな「〇人組を作って」が起こったら、憂鬱じゃ済まされませんよね。今回取り上げるのは木爾チレンさん『二人一組になってください』です。

 

こんな人におすすめ

女子高生達のデスゲーム小説に興味がある人

続きを読む

はいくる

「お梅は次こそ呪いたい」 藤崎翔

長く続く物語には、時に<転機>というものが訪れます。中には、いわゆる<サザエさん形式>でまったく変わることのない作品もありますが、これは割合としては少数派ではないでしょうか。視聴者や読者を飽きさせないため、何らかの変化が生じることの方が多いと思います。

この<転機>の形は様々ですが、代表的なものの一つとして挙げられるのが<パワーアップ>。登場人物が修行を積んだり新キャラクターに出会ったりした結果、新たな力を手に入れるというパターンです。漫画『NARUTO』や『ONE PIECE』等でも、主人公チームが修行期間を経てパワーアップするという展開が描かれました。それからこの作品でも、主人公(?)がパワーアップするんですよ。藤崎翔さん『お梅は次こそ呪いたい』です。

 

こんな人におすすめ

伏線たっぷりのホラーコメディが読みたい人

続きを読む