はいくる

「夢の迷い路」 西澤保彦

小説界において、人気のあるシリーズ作品の中には、長編と短編集が入り混じっているケースがが結構多いです。例を挙げると、赤川次郎さん『三毛猫ホームズシリーズ』、有栖川有栖さん『学生アリスシリーズ』『作家アリスシリーズ』、若竹七海さん『葉村晶シリーズ』などそうですね。短編集は、長編と比べると読了までの時間が短く、一話一話の区切りがつけやすいので、忙しい時でも躊躇わずに読み始めることができます。

そして、短編集の場合、収録作品の時系列がバラバラというパターンが一定数存在します。第一話では大学生だった主要登場人物が、第二話では社会人となって結婚していたり、第三話では幼少期の出来事が語られたりと、様々な時間軸が描かれるパターンですね。澤村伊智さんの『比嘉姉妹シリーズ』短編集がこの形式です。混乱することもないではありませんが、登場人物たちの意外な背景が分かったり、さらりと流された描写が伏線だったと気づいたりして、なかなか面白いんですよ。今回取り上げるのも、時系列バラバラのシリーズ短編集、西澤保彦さん『夢の迷い路』です。

 

こんな人におすすめ

日常の謎を扱ったミステリー短編集が読みたい人

スポンサーリンク

読書好きの健啖家・エミールと、マニアック映画大好きなユッキー。<ブック・ステアリング>に出入りする高校生コンビのもとには、今日も奇妙な事件の話が持ち込まれる。次々に殺人事件と関わる男が書き残した謎のメッセージ、身近で人死にが出る日に必ず同じ店でワインを飲む女の秘密、友人宅で急死した男がついた奇妙な嘘、ある夢をきっかけに老婦人が思い出した記憶の一ページ・・・・・記憶と心が交差する青春ミステリーシリーズ第二弾

 

『エミール&ユッキーシリーズ』第二弾です。第一弾同様、過去の事件をああでもないこうでもないと登場人物達が推理し合う(机上の空論なので、本当に解決できるわけではない)構成がユニークだし、主要登場人物の家庭環境が少しずつ見えてくる描写も楽しいですね。前述の通り、収録作品の時系列はバラバラなので、気になる方は、本作のあとがきないしレビューサイトの時系列順一覧をチェックすることをお勧めします。

 

「ライフ・コズメティック」・・・ひょんなことから、雑貨店経営者であるヨーミンさん(愛称)と知り合った渓。成り行きで、永美とともに、ヨーミンさんが長年解きたがっていた謎を推理することになる。それは、四十三年前から始まる、一人の男の周囲で起こり続けた四件の事件についてだった。この事件には、どうやらダイイングメッセージが絡んでいるようで・・・・・

渓・永美・ヨーミンさんのユーモアたっぷりで親し気な雰囲気と、事件の生臭さの対比が印象的でした。西澤保彦さん特有の、歪んだ性欲や妄執の描写が本当に強烈です。起こったことは変えられないけれど、これでヨーミンさんの肩の荷が少しは下りるといいな。相変わらずB級映画大好きな渓のはしゃぎっぷりが清涼剤でした。

 

「アリバイのワイン」・・・<ブック・ステアリング>経営者の梶本さんが語る過去の出来事。かつて、梶本さんは常連客の女性・有江が殺人事件の容疑者となった際、アリバイを証言してやったことがある。実はこの有江、生涯において合計四件もの殺人事件と関わった形跡があるのだが・・・・・

収録作品中で一番、著者らしさを感じた話でした。序盤で語られる、歪んだ成功体験によってねじ曲がった人間心理のエピソードと、本題である事件の絡め方が巧みです。こういう設定を破綻なく仕上げられるのが、西澤保彦さんの凄さなんですよね。それにしても<ブック・ステアリング>の料理、相変わらず美味しそうでイイ感じ!

 

「埋没のシナリオ」・・・せがまれるまま、姉二人と叔父を<ブック・ステアリング>に連れていく羽目になった渓。その場の流れで、叔父がかつて経験した奇妙な事件の話を聞くことになる。大学時代、叔父は一人暮らしをしていたアパートに男ばかり四人を集め、飲み会を催した。その最中、一人が急死してしまう。事件性のない病死だったのだが、飲み会のメンバーの一人が「俺はここにいなかったことにしてくれ」と言い出して・・・・・

第三話とは違うベクトルで、西澤保彦さんらしさが表れた話だと思います。事件そのものよりも、そこに隠された悪意のどす黒さにゾワリ・・・黒幕がなぜそこまで叔父を恨んでいるのか、当の叔父が全然思い出せないというところに嫌なリアリティを感じました。そして、渓の姉二人が初めて永美を見て、「あんたに口をきく相手がいたんだ!!」と驚く場面に笑ってしまいました。「あんたにも彼女がいたんだ!」ではなく「口をきく相手」って、一体どんな性格だと思われているんだよ、渓。

 

「夢の迷い路」・・・ある日、渓と永美は永美の祖母・道子の家を訪れた。渓がずっと探していた本が道子宅の書庫にあると分かったため、貸してあげる約束なのだ。二人の用が済んだ後、道子は亡夫が生きていた頃の話を語り始めた。どうやら道子と渓との間には不思議な縁があるようで・・・・・

収録作品中唯一、事件が起きない話です。ここで語られるのは、永美の祖父母(祖父はすでに他界)と渓との間には奇しくも繋がりがあったというエピソード。道子が見た夢からするすると記憶が蘇っていく描写がなんともほのぼのしていて、読みながら温かな気持ちにさせられました。ところで、この話の中に、小洒落たレストランで供される豪華なハンバーが出てきます。実は、西澤作品って、豪華なハンバーガーが小道具として出てくる話がちらほらあるんですよ。西澤保彦さん、もしかしてハンバーガーがお好きだったのかしら?

 

本作のあとがきを読むと、西澤保彦さんが飲みすぎにより体調を崩したという記述があります。この時の体調不良とは直接関係ないのかもしれませんが、本作刊行の五年後に西澤保彦さんがご逝去されたことを思うと、なんだか切ないです。このシリーズの続き、もっと読みたかったなぁ。

 

主人公コンビの丁々発止のやり取りが面白い度★★★★★

ただし事件の謎は結構ドロドロです度★★★★☆

スポンサーリンク

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください