<青い鳥文庫>というレーベルがあります。講談社による児童向け小説叢書のことで、サイズは文庫としてはやや大きめ。かなりの高確率で本屋、図書館、学校の図書室などに並んでおり、青地に白い鳥のロゴが入った背表紙を一度は見たことがあるという方も多いでしょう。
このレーベル、基本は小学生向けと銘打たれてはいるものの、取り扱いジャンルが非常に幅広く、単純なハッピーエンドとは言えなかったり、考察が必要だったりする作品も少なくありません。なんとなくですが、青い鳥文庫を境に児童書から大人向け小説にシフトチェンジしていったという層も一定数いそうな気がします。今回は、そんな青い鳥文庫の中でも一番お気に入りの作品を取り上げたいと思います。はやみねかおるさんの『そして五人がいなくなる』です。
こんな人におすすめ
・大人も子どもも楽しめるミステリーに興味がある人
・個性的な名探偵キャラが好きな人
四月一日、お隣りに名探偵がやって来たーーーーー岩崎家の三姉妹の前に現れた、元大学の論理学教授だったという大男・夢水清志郎。大食らいで、だらしなく、社会常識は皆無なこの男、実は卓越した推理力の持ち主だった。彼と親しくなった三姉妹は、たまたま訪れた遊園地内で、<伯爵>を名乗る男が一人の少女を消失させる瞬間を目撃する。「私のマジックで、あと四人がこの遊園地から消えるだろう」。そんな犯行声明を受けて、黙って見ているわけにはいかない!岩崎三姉妹は早速調査を開始するが・・・・・心躍るジュブナイル・ミステリー
小学生の時にクラスメイトから貸してもらってハマり、以来、今に至るまで定期的に読み返すほど好きな作品です。漫画化・ドラマ化もされた有名シリーズですので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。児童書なだけあって文章は平易、ノリも軽いものの、ストーリーやキャラ造形がしっかり作り込まれていて、大人が読んでも十分楽しめると思います。
中学一年生の岩崎亜衣・真衣・美衣の三姉妹(三つ子)の隣家に、四月一日、元大学教授だという男が引っ越してきます。この男・夢水清志郎は、社会適応能力は壊滅的ながら、過去に数々の難事件を解決した名探偵でもありました。あまりの変人ぶりに驚きつつ、徐々に交流を深めていく三姉妹と夢水。そんなある日、彼らはオムラ・アミューズメント・パークという遊園地を訪れます。そのマジックショーで、<伯爵>を名乗る怪人が、観客の少女を本当に消失させてしまうという大事件が起きました。「今後、遊園地内であと四人が消えるだろう」。そう宣言する<伯爵>。宣言通り、ジェットコースターから、ミラーハウスから、蠟人形館から、次々と消えゆく少年少女たち。いなくなった子ども達は、各分野で天才児扱いされる有名人だそうなのですが・・・・・夢水清志郎は、この事件の謎を解くことができるのでしょうか。
先に言っておくと、本作は児童書なだけあって、骨太さや重厚さとは無縁です。事件の真相は非常に分かりやすいもので、トリックもごくごくスタンダード。作者のはやみねかおるさん自身が<物語はハッピーエンドで終わらせたい>と述べていることもあり、児童誘拐という大事件が起こっているにも関わらず、誰も嫌な気分にならない大団円を迎えます。ミステリーにリアリティを求めるタイプの読者は、物足りなさを感じるかもしれません。
ただし、物語のドキドキワクワク感は、それを補って余りあるほどです。夢水と三姉妹が親しくなるきっかけや、オムラ・アミューズメント・パークの様子、ジェットコースターや気球の場面、失踪する子ども達の背景など、どれも生き生きと書き込まれていて、初読みから三十年以上経った今なお鮮明に記憶しています。中でも一番印象に残っているのは、三姉妹の母親が作る、夢水が大好物のカレーの描写なんですけどね。ご飯にしゃぶしゃぶのタレがまぶされている感じのカレーって、どんなのか気になる!!
また、登場人物達のキャラクター設定も、とても彩り豊かです。観察眼が鋭い亜衣、運動神経抜群の真衣、甘えん坊で要領のいい美衣という岩崎三姉妹はもちろんですが、やっぱり一番個性的なのは<教授>こと夢水清志郎でしょう。ガサツで意地汚く破天荒、でも推理を始めれば名探偵・・・と、ここまではミステリーあるあるキャラ。夢水が魅力的なのは、良識ある<大人>としての側面もちゃんと持ち合わせている点です。大人になって本作を再読してみると、子どもの頃はなんとも思わなかった場面で、実は夢水がきちんと大人として振る舞っていることが分かってジーンときてしまいました。夢水が言う「子どもはいつの時代も幸せでなきゃいけない」という言葉、夢水が児童誘拐事件の謎解きをなかなか行わなかった理由・・・染み入るなぁ。
ちなみに、本作は講談社文庫からも刊行されていて、そこではイラストレーターさんが変わっています。そちらも素敵な絵なのですが、私は青い鳥文庫版の絵の方が馴染みがあるな・・・と思って調べてみたら、なんと青い鳥文庫版のイラストレーター・村田四郎さんは亡くなられていたと知ってショックでした。初出版が一九九四年なんだから、当然、そういうこともあり得るんでしょうが・・・やっぱり切ないです。これを機に、このシリーズを再読していこうと思います。
実はしっかり本格ミステリーです度★★★★★
大人たちの立ち居振る舞いがいい!度★★★★★







