一説によると、日本はAV大国だそうです。海外と比べ、作品のバリエーションが豊富で設定・俳優陣の演技にも凝っていること、今は亡き飯島愛さんを筆頭に、AV業界を経てマルチタレントとして活躍するケースも多いことが理由なのだとか。専用検索サイトにおける人気キーワードランキング上位に<Japanese>が入っていることからも、人気の程がうかがい知れます。
<風俗に沈める>という言い方があるように、一昔前、性産業はどこか後ろ暗く、日が当たらないイメージがありました。しかし、ここで忘れてはいけないのは、AV自体は違法でもなんでもない、れっきとしたビジネスだという点です。どんな分野であれ、商売として成立させようとするならば、そこにはきちんとしたシステムや采配が必要となります。この作品を読んで、そんな当たり前のことに今更ながら気づかされました。真梨幸子さんの『アルテーミスの采配』です。
こんな人におすすめ
AV業界を舞台としたイヤミスに興味がある人
もしも、もしも、あの時あちら側を選んでいたら、今頃は---――連続殺人の容疑者が、失踪直前に執筆していたルポルタージュ『アルテーミスの采配』。そこには、五人のAV女優達の赤裸々な告白が記されていた。ルポ内で交錯する嘘と真実、次々と殺されていく女優達、そして著者の失踪。果たして、このルポには何が隠されているのか。原稿を手にした渚は事件について調べ始めるが、その先には戦慄の真相が待ち受けていた。芸能界で渦巻く欲望劇の行方を描く、衝撃のイヤミス長編
真梨幸子さんといえば、どの作品でも、ものすごく濃厚で生々しい性的シーンが出てくるイメージがあります。ですが、その割に、AV業界や女優が物語の中心となることは、これまでありませんでした。そんな中、本作でテーマとなるのは、欲望渦巻くAV業界。予想に違わぬどぎつい描写の数々に圧倒されっぱなしでした。
五人のAV女優にインタビューを行い、その内面に迫ったルポルタージュ『アルテーミスの采配』。ルポに登場した女優達が次々と殺害され、著者である名賀尻龍彦が容疑者と目されます。間もなく名賀尻は行方をくらませるも、とある出版社相手に『アルテーミスの采配』の原稿を送りつけていました。たまたま原稿を見た派遣社員・渚は、興味を惹かれ、同僚と共に事件を調べ始めます。徐々に明らかになる、恐るべき事実の数々。殺されたAV女優のブログが語る、戦慄の計画。貞節と復讐、二つの顔を持つ女神アルテーミスの正体は、一体何なのでしょうか。
最近、読みやすい真梨作品の再読が続いていましたが、これは久々に入り組んだ複雑な作品でした。名賀尻がAV女優達にインタビューする前半と、渚が事件を調べる後半に分かれているのですが、とにかく登場人物が多い!そして時系列が飛びまくる!前半も後半も、名賀尻や渚の現状、原稿の内容、彼らが関わる関係者達の話と、次々に視点・時間が移り変わります。誰の視点なのか、あえて明確にしていない場面もあるので、「あれ、結局これって何の話だっけ?」となってしまうこともしばしば。何かの片手間に読むのには不向きだと思います。
にもかかわらず、ぐいぐい読ませてしまう辺り、さすがは真梨幸子さん。特に後半のスピード感がものすごく、AさんとBさんが同一人物だということが分かったり、あの場面は実はあの人の過去だということが判明したりと、怒涛の勢いで伏線回収されていきます。明らかになった真相も、これまたインパクトあるドロドロっぷりなんですよ。真梨ワールドの場合、最終的に<主要登場人物全員死亡>で事件が終結するケースも結構ありますが、本作の場合は、ある意味で死より惨い生き地獄・・・諸悪の根源ではなく、その周囲の人間が奈落の底に落ちる羽目になったというところも、実に胸糞悪いです(褒めてます)。
そしてもう一つ、本作を語る上で忘れちゃいけないのが、作中に出てくるAV業界の描写です。女優のランク分けや、これぞという女優のスカウトの仕方、撮影の裏事情、旬を過ぎた女優達の行く末等、これでもかというほど丁寧に描かれていて、前半など、AV業界を取材したノンフィクションとしてそのまま刊行できるのではと思うほどでした。当然、性的な記述もかなり多いものの、消費者側ではなく製作者側、あるいは取材者側の視点のせいか、あまりエロティックな印象は受けません。むしろ、ひたすら無機質でシステマティック。その分、彼女達の生活環境の厳しさが生々しく迫ってきます。生活苦から、あるいは軽度知的障害で自身の現状を理解できていない等の理由で、AV業界にのめり込んでいく女性達の描写は、やっぱりしんどかったなぁ・・・鈴木大介さんの『最貧困女子』が参考資料として挙げられていましたが、それも納得の過酷さです。
好き嫌いは分かれそうなものの、間違いなく力作・・・なのですが、疑問点が一つ。本作には解決されていない謎が残っているらしく、登場人物の一人が「それはね・・・」語り出す場面で終わります。私はその謎の答えどころか、そもそも未解決の謎が残っていることさえ気づいていませんでした。ネットで色々調べると、同じように疑問に思っている人はいても、明確な答えは出ていない様子。何か閃いた方は、ぜひ教えてほしいです。
AV業界の内情に目を白黒させっぱなし度★★★★★
因果は巡るよ、どこまでも度★★★★★
初めて読んだ真梨幸子さんの作品です。
なかなか強烈というかインパクトのある作品でした。
プロローグからかなりインパクトがありAV業界のドロドロの内部事情をこれでもか!というほど深く語っていました。
東大中退したある主婦の転落劇がハマっていく様子が今でも覚えています。
つまらない男に引っかかったのが始まりか自分の性格故か~謎のまま終わるのもこの作品ならではと思います。