単に私の読書傾向の問題なのかもしれませんが、ここ最近読んだ作品の中で物語の鍵を握るのは、母娘ないし姉妹でした。女性同士の場合、掴み合い殴り合いの大乱闘になる可能性が低い(かもしれない)分、水面下でのドロドロを描きやすく、イヤミスやホラーにハマるからかな?と考えています。
とはいえ、当たり前の話ですが、男性同士だって確執が生まれることは多々あります。真保裕一さんの『お前の罪を自白しろ』では父と息子が、東野圭吾さんの『手紙』では兄と弟が、切っても切れない縁の上で苦悩する人間ドラマを繰り広げました。どちらも映像化された有名作品なので、ご存知の方も多いと思います。それから、知名度という点ではこの二つより低いかもしれませんが、これもお気に入りの作品です。瀬尾まいこさんの『戸村飯店 青春100連発』です。
こんな人におすすめ
兄弟が織りなす青春小説に興味がある人
なんでもソツなくこなすモテ男の兄、単純一途でお調子者の弟。近くにいながらもイマイチ理解し合えない二人の人生は、兄の上京を機に思わぬ形で交錯し始める。小説家になるための専門学校を退学し、飲食店でアルバイトを始めた兄は今後どうするのか。残りわずかな学生生活を満喫し、ついでに恋愛成就も目指す弟は本懐を遂げられるのか。見えない将来を模索する二人が、ついに踏み出した一歩とは・・・・・大阪・東京を舞台に展開する、ユーモアたっぷりの青春小説
この作品を読んだ後で知りましたが、作者の瀬尾まいこさんは大阪出身なんですね。道理で、作中に何度も登場する大阪描写に臨場感があると思った!フィクションにありがちな<やりすぎ大阪>ではなく、現実に存在するであろう大阪の描き方が秀逸です。登場人物に悪人が一人もいないこともあり、どの場面でも安心して笑うことができますよ。
大阪の片隅で営業中の中華料理屋<戸村飯店>。店主には、息子が二人います。要領良くイケメンの兄ヘイスケと、やんちゃなムードメーカーの弟コウスケ。見た目も性格も正反対の二人は決して仲良し兄弟といえず、同じ屋根の下にいながら距離のある間柄でした。そんな日々の中、高校を卒業したヘイスケは専門学校進学のため上京し、高校三年生になったコウスケは学校行事や恋愛に燃えます。ばらばらの生活を送っているようで、二人の胸には同じ思いがありました。「俺、これからどうしよう」・・・・・果たして二人は、それぞれの道を見つけることができるのでしょうか。
この手の兄弟成長物語って、醜くしようと思えばいくらでも醜くできますし、実際、作中で二人が抱える葛藤はなかなか根深いものがあります。ですが、そこはさすがの瀬尾まいこさん。ユーモラスな筆致で、兄弟双方のコンプレックスを爽やかに描いてくれていました。一見シュッとして器用なヘイスケは、自分が下町のざっくばらんな空気の中で浮いていることを感じ、ノリが良くて<戸村飯店>の客達から可愛がられるコウスケに引け目を感じています。対して、コウスケはコウスケで、文武両道でルックスも良い上、いつもヘラヘラと世渡りしていくヘイスケが癇に障って仕方ありません。互いに意識し合い、それでも認めるべきところを認め合う兄弟の関係が眩しかったです。傍にいる時は相容れないと感じていたのに、離れると互いの別の一面に気づくところ、リアリティがありますね。
そんな二人の日々に彩りを添えるのが、大阪と東京、二つの街の描写です。本作はヘイスケの章とコウスケの章が交互に語られ、舞台となる土地も変わります。上京したヘイスケが出会う友人の古嶋君や恋人のアリさん、バイト先の店長。故郷とは違い、話にオチを求められない東京での日々。一方、コウスケが片思いする岡野さんや、合唱祭を経て仲良くなった北島君。コウスケが岡野さんに片思いしていることを学校中が知っているという、人間関係が濃い大阪の暮らし。対照的なようでいて、根っこで繋がるところもある表現の数々が魅力たっぷりでした。ちなみに、私のイチオシは兄弟のお父さん。頑固な昭和親父と見せかけて、二人の息子の長所短所をしっかり理解している良きパパなんです。彼が、一人暮らしを始めるヘイスケに向けた手紙は超名文!たった数行に、これだけ子どもへの愛情と理解を詰め込めるなんて、小説界のベストファーザー賞をあげたいです。
最近、残酷ないじめが出てくる『温室デイズ』や、主人公がDV被害に遭う『僕の明日を照らして』等、重いテーマの瀬尾作品を再読が続いていたため、本作の温かさがより一層胸に染み入りました。思えば、特にアクシデントは何も起こらないにもかかわらずこれだけ物語に引き込まれる経験って久しぶりかもしれません。本作はNHKでオーディオドラマ化されているらしいので、どこかで聞く手段がないか、調べてみようと思います。
二人が決めた進路に幸多からんことを!度★★★★★
アリさんと北島君のスピンオフが超見たい度★★★★☆
爽やかで読みやすい青春ストーリーでした。
兄弟が距離を置いて自分の人生を探していく様子に昔の自分を見たような気がしました。
要領の良い兄の意外な背景、劣等感を持つ弟の未来への模索~まさに青春100連発でした。
若い頃、悩んで苦しんでもがいたからこそ今がある~大人からウンザリするほど言われたことがこの歳になってやっと理解出来た気がします。
再読したくなりました。
対照的なようでいて、根底では繋がった兄弟の様子が清々しかったです。
いったん距離を置いた方がうまくいくケースって、とても多いですよね。
どっしり構えて頼りになるお父さんの存在も素敵でした。
櫛木理宇さんの「逃亡犯と~」と、中山七里さんのカエル男シリーズ完結編が届きました。
どちらも後に予約者が控えているから、さくさく読まないと!