物語を創る上で、テーマ設定はとても重要です。中には、特にテーマを決めず自由気ままに創作するケースもあるでしょうが、これは恐らく少数派。「身分違いの恋を書こう」とか「サラリーマンの下剋上物語にしよう」とか、最初に設定しておくことの方が多いと思います。
古今東西、大勢のクリエイターが様々なテーマを基に創作活動を行ってきたわけですから、その数はまさに天井知らず。となると、当然のごとく、ウケがいいテーマと、そうでもないテーマが出てきます。前者の代表格と言えば、やはり<時事ネタ>ではないでしょうか。今この時、世間を騒がせている問題をテーマにすることで、より多くの注目を集めることができます。今回取り上げる作品も、今という時代を象徴するようなテーマ選びがなされていました。結城真一郎さんの『#真相をお話しします』です。
こんな人におすすめ
世相を反映したどんでん返しミステリーに興味がある人
営業活動のため訪れた客宅で過ごす恐怖のひと時、マッチングアプリにのめり込む男女のどす黒い思惑、時を経て明かされる不妊治療の意外な真相、リモート飲み会で繰り広げられる愛憎劇の行方、離島で暮らす少年が知った戦慄の秘密・・・・・この小説の中には<今>がある。二〇二三年本屋大賞にノミネートされた、驚きのミステリー短編集
図書館での予約レースに出遅れてしまい、手元に届くまでかかった時間は約一年。こんなに待った挙句、いまいち好みじゃなかったら嫌だなぁと思いましたが、いざ届いてみれば杞憂でした。平易で読みやすい筆致といい、キレのあるどんでん返しの仕掛け方といい、話題になるのも納得の面白さでしたよ。
「惨者面談」・・・家庭教師仲介業者で営業のアルバイトをする大学生・片桐。ある日、申し込みを受け、とある家庭に営業活動に訪れるも、間もなくその家の異様さに気付く。荒れた室内、ヒステリックな母親、立ち居振る舞いがぎこちない息子。やがて片桐は、恐ろしい可能性に気付き・・・・・
テーマはお受験。訪問先の家庭の様子がとにかく異様で、終始ハラハラドキドキしっぱなしでした。この話を読んだ時、ミステリーやサスペンスに慣れた読者なら、恐らく「ははーん、さてはこの家は〇〇なんだな」と予想するでしょう。私もそうでしたが、終盤でさらにもう一度どんでん返しが仕掛けられているとは予想外!こんな修羅場を経験しておきながら、凹むどころか営業マンとして一皮むけたっぽい主人公のキャラは結構好きです。
「ヤリモク」・・・平凡なサラリーマンである主人公は、妻子持ちながらマッチングアプリで女の子を漁ることに夢中。その一方、一人娘の美雪がパパ活をしているらしいことも気がかりだ。この日、主人公がマッチングアプリで出会ったのは、どことなく美雪と似たマナという女性。いい雰囲気となり、そのままマナの部屋になだれ込む二人だが・・・
テーマはマッチングアプリ。娘を案じつつもマッチングアプリをやめない主人公に「痛い目に遭っちまえ」と思いましたが・・・・・タイトルはそういう意味だったんかい!!イヤミスの王道をいく真相と、主人公を凍り付かせるであろうラスト数行がショッキングでした。こういう事件、現実にはあり得ないと言い切れないところが余計に怖いです。
「パンドラ」・・・家族とともに穏やかに暮らす主人公のもとに届いた、ある知らせ。かつて主人公は、不妊に悩む人たちの助けになればと、精子提供に協力したことがある。その結果生まれた翔子という女性が、主人公に会いたいというのだ。面会を承諾した主人公に対し、現れた翔子は、自身の出生の秘密について語り始め・・・・・
テーマは不妊治療。開けたら災いが飛び出してくるという<パンドラの箱>の逸話と、主人公達が経験した不妊治療の絡め方が秀逸でした。「こんなこと、普通しないでしょ」「いや、でも、追い詰められたらするかも」と読者を迷わせる心理描写もとても巧妙。ミステリーとしてはやや消化不良な面があるものの、主人公の優しさが垣間見えるラストで良かったです。
「三角奸計」・・・大学時代、楽しい日々を過ごした桐山、茂木、宇治原の三人組。大人になった彼らは、リモート飲み会を計画する。画面越しに和やかな時間を過ごす三人だが、ある出来事をきっかけに、宇治原は茂木に対する殺意を抱き・・・・・
テーマはリモート飲み会。かなり力技なトリックが使用されているので、これを受け入れられるか否かでこの話の評価が変わりそうです。個人的には、終盤、とある人物が見せるサイコパスっぷりがショッキングでした。いや、腹立つ気持ちは分かるけど、その一歩は踏み出しちゃいかんだろう・・・
「#拡散希望」・・・両親の方針により、離島で暮らす十歳の<僕>。スマホもゲームも禁止の日々は少し不自由ながら、同い年の友達三人と程々に楽しい毎日を送っている。そんな中、島に突如現れた田所というYouTuber。嫌な雰囲気を感じた<僕>達は田所への撮影協力を拒否するものの、後日、彼は何者かに殺害されてしまい・・・・・
テーマはYouTuber。この話、恐らく五年前に読んでいたら「こんなことあるはずないじゃん」と失笑していたでしょう。それを思うと、もはや笑い飛ばすことができない昨今のYouTuber事情がちょっと怖くなりました。そんなことまで配信して見世物にするなんて・・・最悪の形で出生の秘密を知り、一線を越えてしまった<僕>の今後が心配でなりません。
どの話も<真相発覚→さらにどんでん返し>という流れで、絵的にも派手。漫画やドラマにしても映えそうだなと思っていたら、すでにコミカライズされていました。漫画版のみのオリジナルストーリーも収録されているようですし、ぜひとも読んでみたいです。
現実感ある恐怖のてんこ盛り!度★★★★☆
時代が変わるごとに新作が作れそう度★★★★★
ノンフィクション?とすら思えるリアルな内容とオチが印象的でした。
三角関係ならぬ三角奸計がかなりショッキングでした。
人間同士の駆け引きをキツネとタヌキに例えるには失礼?!
そんなことを言いたくなりました。
それでも読後感が悪くないのが良かったです。
東野圭吾さんの「クスノキの女神」読んでます。
新川帆立さんお「女の国会」読み終えました。
ドギツイ展開が多いものの、後味は意外にすっきりしていましたね。
YouTuberの話なんて、本当にやる人がいそうでうすら寒い気分になりました。
「クスノキの女神」、本屋では見かけたものの、図書館入庫はまだです。
柚月裕子さんの「月下のサクラ」がやっと予約順位一番目まで来ました。
このシリーズ、映画が公開されたら、ますます人気が高まりそうですね。