この世には、是非が簡単に決められないものがたくさんあります。<復讐>もその一つ。聖書に<復讐するは我にあり>と書いてあるように、個人が勝手に復讐することは許されないという考え方は、社会に根強く浸透しています。現実問題、一人一人が自由気ままに憎い相手に復讐していけば秩序は崩壊してしまうわけですから、それもやむをえないと言えるでしょう。
その一方で、「加害者に相応の罰を与えるのは、被害者の権利ではないのか?」という考え方も、間違っているとは言い切れません。実際、過去には<目には目を>で有名なハンムラビ法典や、江戸時代の仇討ち等、一定のルールの下で復讐を許した例も存在します。果たして復讐は許されるのか否か。この作品を読んで、改めて考えさせられました。櫛木理宇さんの『世界が赫に染まる日に』です。
こんな人におすすめ
少年犯罪にまつわるサスペンスが読みたい人
この世には、やられて当然の奴らがいる---――凄惨ないじめにより昏睡状態となった従兄弟を想い、加害者への憎しみを燃やす中学生・櫂。ある時、櫂は<十五歳で自殺する>と決めているクラスメイト・文稀と交流を持つようになり、ひょんなことから彼と共に復讐を実行しようと決意する。だが、相手は名うての不良少年。暴力に不慣れな自分達では、返り討ちに遭うかもしれない。そこで櫂と文稀は、復讐の練習を積もうと決める。狙うは、罪を犯しながらのうのうとのさばる少年少女達。目的達成のため、次々と標的を血祭りに上げていく櫂と文稀だが、その行く手には思わぬ結末が待ち受けていた・・・・・彷徨う少年達の闇を描く、サスペンス長編
櫛木理宇さんの作品には、<二人の若者が行動を共にしたことで物語が動く>という展開が多々あります。『FEED』の綾希と眞美や『ぬるくゆるやかに流れる黒い川』の香那と小雪、『虜囚の犬』の海斗と未尋。彼らは、普段なら接点がなかったであろう相手と親しくなり、多くの時間を共にし、最終的に己の人生を大きく変えました。その変わり方は、いいものだったり悪いものだったりと千差万別。そして、本作に登場する櫂と文稀も、偶然の出会いにより、それぞれの生き方が激変することになります。
主人公は、中学三年生の少年・櫂。親しかった従兄弟がいじめにより意識不明の重体となり、その妹もまた性的暴行の被害に遭い、加害者への憎しみを持て余しています。そんな櫂が、ふとしたきっかけで交流を持ったのは、十五歳の誕生日に自殺すると決めているクラスメイト・文稀でした。奇妙ななりゆきにより、共にいじめ加害者への復讐計画を実行することにした櫂と文稀。ですが、これまで暴力沙汰になど無縁だった二人では、地元で有名な問題児であるいじめ加害者に太刀打ちできないかもしれません。そこで、二人はまず予行演習として、少年法に守られた未成年犯罪者達を次々襲撃していきます。回数を重ねるたびに感覚が麻痺し、暴力性を増していく二人。そんなある日、櫂の従兄弟が昏睡状態から目覚めるのですが・・・・・
櫛木理宇さんの暴力描写は本当に丁寧かつ陰湿で、毎回目を見張るものがありますが、その手腕は本作でも遺憾なく発揮されています。殴る蹴るは当たり前。裸にされ、全身の毛を剃られ、金づちで骨を砕かれ、爪の間に針を刺され・・・肉体的な暴力だけでなく、未成年犯罪者の情報がネットでダダ洩れだったり、櫂と文稀によってぼろ雑巾のようにされた少年達の画像がSNS上に晒されたりと、ネット文化の恐ろしさを痛感させる描写も多いことが本作の特徴です。
ただ、『残酷依存症』同様、櫂達のターゲットになっているのが全員ろくでもない連中ばかりだからか、上記のリンチシーンもあまり悲惨な印象はないのでご安心を。それどころか、ターゲット達の過去の所業の方が酷過ぎて、「生ぬるい!これくらい当然だ!」と思ってしまうんですよ。特に未成年者のいじめ問題の場合、「ふざけているつもりだった」「加害者の更生の機会を奪うな」という弁明・意見に押され、被害者側の権利が軽視されることが多いのが実情。恐らく一生残るであろう肉体的・精神的ダメージを負わされた元加害者達の様子に、内心、スカッとする気持ちがあったことは否定できません。
また、二人の復讐計画の合間に、文稀の家庭生活を描く場面および彼の日記が挿入されています。これがかなり奇妙で不可解。父親の後妻に冷遇されていることは察せられるものの、後妻の言動はなんとなく違和感あるし、数少ない味方である<おにいちゃん>は普通の状態じゃないっぽい。おまけに、文稀が綴る日記の記述は、現実とほんの少しズレていて・・・等々、イヤミス好きなら引っかかる描写がちらほらあります。後半からクライマックスにかけ、これらの謎解きがされていく過程は、派手さはないものの構成がしっかりしていて、個人的にかなりポイント高かったです。
復讐の是非。その答えは、当たり前の話ですが、本作を読み終えても出ません。ただ、エピローグで語られる櫂や文稀の姿は、健やかさからは程遠いものです。彼らは悪を罰したし、被害者も溜飲が下がったかもしれないけれど、同時に多くのものを失ってしまったのでしょう。ラストシーンは、読者によって解釈が分かれそうなので、できれば多くの方と語り合ってみたいものです。
相応の罰は与えるべき度★★★★★
でも、踏み越えちゃいけない一歩もあるよ度★★★★☆
予約中です。
少し読んだだけでは「FEED」に近いと思いましたが、まさに「残酷依存症」を思い出す内容です。
拷問しないと気が済まないような残酷な事件の主犯者、加害者でも私刑は決して許されない~合法化しようものなら世の中がどうなるか言うまでもないですが、考えさせれそうです。
怖い内容ですが早く読みたくなりました。
迷走するティーンエイジャー二人という構図は、「FEED」に似ていますね。
たが、今回は主人公二人組が能動的に動きまくるので、「FEED」ほど陰鬱な気分にはならなかったです。
個人的に、本作ほどではないにせよ、未成年の犯罪者に対する刑罰はもっと重くていいと思うのですが・・・
読み終えました。
「FEED」より「残酷依存症」に似ていると思いました。
私刑などあり得ないですが、やらないと気が済まないような事件が多過ぎると感じます。
中山七里さんの「祝祭のハングマン」に少年版だと感じました。
櫛木理宇さんらしい作風と終わり方でした。
世間に少年犯罪や刑罰の甘さを厳しく訴えていると思いました。4
苛烈な私的制裁の場面をはじめ、「残酷依存症」と似た部分が多かったですね。
民主主義の精神に反することは重々承知ですが、昨今の酷い事件の数々を思うと、報いを受けさせたくなる気持ちも分かります。
ラスト、彼は結局目を覚ますのでしょうか?