<猟奇的>というのは、本来、<奇怪・異常なものを強く求める様子>を指す言葉です。現代では、もともとの意味から少し離れ、<残酷な><グロテスクな>という意味で使われることが多いですね。特に、遺体が激しく損壊されていたり連続殺人だったりする事件を<猟奇殺人>と表現するケースが多いと思います。
現実では絶対に起きてほしくない猟奇殺人ですが、フィクションなら話は別。とにかくインパクトが強いこともあり、作中で猟奇殺人が登場する創作物は枚挙に暇がありません。ここで重要となるのは、<犯人はなぜ猟奇殺人を犯したのか>という動機付け。遺体に手を加えたり、犠牲者を多く出したりすれば、それだけ証拠を残すリスクが高まるわけですから、「なるほど!こんな理由があったから、犯人は逮捕の可能性を承知で猟奇殺人犯になったのね」という理由が必要なわけです。単に犯人が異常者だったから、という作品も一定数ありますが、やはり猟奇殺人の理由が明確にある作品の方が、謎解きの楽しさが味わえます。この作品の猟奇殺人の動機は、かなり強烈でした。貫井徳郎さんの『妖奇切断譜』です。
こんな人におすすめ
猟奇殺人事件を扱った小説が読みたい人
若い女性が殺害後バラバラにされ、遺体を稲荷神社に打ち捨てられるという凄惨な事件。悲劇は一度では終わらず、二人目の犠牲者が出てしまう。被害者達の共通点は、東京中の美女を描いた<今様美女三十六歌仙>でモデルになったということだった。まさか犯人は、錦絵に登場した女全員を殺すつもりなのか。友人の依頼を受けて調査に乗り出す九条だが、犯人の魔の手は次の犠牲者をとらえようとしていた-----<明詞>の東京を舞台に繰り広げられる、本格推理小説シリーズ第二弾
以前ご紹介した『鬼流殺生祭』に続く、九条&朱芳シリーズの続編です。旧家に渦巻く因縁をテーマにしていた前作に対し、本作で目玉となるのは広い東京で起こる猟奇的な連続殺人事件。テイストが違うので好みが分かれそうですが、私個人としてはこちらの方が好きだったりします。
鈴木春永なる絵師が東京の名だたる美女三十六人を描いた<今様美女三十六歌仙>。そのモデルとなった女性二人が、立て続けに殺害されます。彼女達の死に様は、体をバラバラにされて稲荷神社に捨てられるという惨たらしいものでした。そんな中、公家の三男坊である九条は、旧知の仲である藤下から相談を受けます。藤下の妹・珠子は<今様美女三十六歌仙>のモデルとなっており、いずれ犯人に狙われるのではないかと怯えていました。彼らを安心させるため、自分が事件を調べてみると請け合う九条ですが・・・・・
本作を構成するパートは二つです。一つは、友人兄妹から依頼された九条が、安楽椅子探偵・朱芳の手を借りつつ連続殺人事件について調べるパート。ここは王道をいく素人探偵ミステリーで、行動力と人の好さを武器に事に臨む九条の姿がちょっぴり微笑ましいです。そんな中にも当時の生活文化(といってもパラレルワールドだけど)や、現代人からすると理解不能な公家の美意識もしっかり描写されているところが、構成力に定評のある貫井徳郎さんらしいですね。命より健康より誇りが大事って、ちょっと意味分かんないです。
もう一つは、貧乏御家人・喜八郎のパート。老母と共に貧困にあえいで暮らす喜八郎は、女性の脚に異常に執着する性癖の持ち主でした。そんな彼が、とあるきっかけで出会った理想的な脚の持ち主、それが藤下珠子だったのです。どうにかあの脚を手に入れたい。悶々と妄想を持て余す喜八郎は、とうとう禁断の一歩を踏み出すことになりますが・・・・・
女性のバラバラ死体が登場する九条パートもかなり強烈ですが、この喜八郎パートの気色悪さ、醜悪さは段違いです。まあ、脚を愛でるだけなら個人の趣味の問題と言えなくもないですが、喜八郎はそんなレベルをとうに通り越しています。繰り返し描かれる脚への異常な欲望、血生臭い遺体、そしてついに人肉食まで・・・・・グロテスクなジャンルが苦手な方は、本気で閲覧注意な場面が続きます。喜八郎本人の性格がかなり難ありということもあり、ここが嫌で本作が低評価という読者も一定数いるのではないでしょうか。
ただ、これだけは断言しますが、本作はただのグロ小説ではありません。数々の惨たらしく残酷な描写は、すべて意味があります。猟奇殺人を扱った小説はけっこう読んでいる私ですが、終盤の謎解きでは「だから遺体があんな風だったのか!」と唸ってしまいました。確かに犯人視点で見た場合、こういう理由があるなら、被害者をバラバラにせざるをえませんね。
主役コンビが同じということ以外、前作『鬼流殺生祭』と内容的な繋がりはありませんし、どちらかと言えば本作から読む方が世界観が分かりやすいような気がします。個人的に、何やら意味ありげな朱芳の病状がすごく気になるんですが・・・・・本当に本当に、もう続編は出ないのでしょうか。あんまり人気が出なかったから三作目執筆はされていないそうだけど、待っている読者も多いと思います。
クライマックスで度肝を抜かれる度★★★★★
誇りは何より大事です★☆☆☆☆
猟奇的殺人ミステリー~と言えば中山七里さんの「連続殺人鬼カエル男」、誉田哲也さんの「ストロベリーナイト」を真っ先に思い出します。
二人に勝るとも劣らないグロさにどんでん返し。期待出来そうです。
二つの目線が同時進行で進んでいくというのも面白そうな設定です。
最近読んだ中山七里さんの「棘の家」は物理的ではない猟奇的な作品でした。
本作は時代設定が一昔前なので、よりおどろおどろしい雰囲気です。
貫井徳郎さんはハードな描写をされることが多いですが、それでもここまでグロテスクなのは珍しいかもしれません。
あまりに衝撃的な真相と併せ、印象深い作品です。
「棘の家」はかなり生々しい話のようですね。
私は少し前に「人面島」が図書館に入ったので、回ってくるのを今か今かと待っています。