はいくる

「真夜中の時間割-転校生2-」 森真沙子

病院・廃屋と並ぶホラー作品の定番スポット、それが学校です。一説によると、平日の昼は大勢の子どもが出入りして賑やかなのに対し、夜や休日はほぼ無人状態になるギャップが恐怖心をかき立てるのだとか。確かに、無人島で物音がしなくても何とも思わないでしょうが、日中ワイワイと騒がしい学校がしんと静まり返っていると、不安や恐怖がより増す気がします。

学園ホラーの主役は、専ら生徒が務めることが多いです。大人と違って経験値が足りず、思慮深さに欠ける一方、熱意や行動力があるところが主役に向いているのかもしれません。とはいえ、教師主役のホラーでも、面白い作品がたくさんありますよ。今回ご紹介するのは、教師が中心となって展開する学園ホラー、森真沙子さん『真夜中の時間割-転校生2-』です。

 

こんな人におすすめ

教師が主役の学園ホラー短編集に興味がある人

スポンサーリンク

桜が寄り添う弓道場で起きた血の惨劇、パソコン通信にのめり込む少女の運命、老いた美術教師が背負う悲しい過去、夜中の校舎で見た人影の正体、音楽教師が抱えた悲劇の真相、生徒達が語る怪談大会の意外な顛末・・・・・弓道場で、パソコン教室で、美術室で、若き女教師は何を見るのか。学園を舞台に繰り広げられる怪しく美しい怪談短編集

 

以前ご紹介した『転校生』の続編です。といっても、時系列的には本作の方が前日譚。一話目から六話目までは『転校生』とは何の繋がりもないですし、唯一関係のある最終話も、『転校生』未読でも特に支障ありません。既読の方なら「お、こう来たか」と思う程度なので、どちらから読んでも大丈夫ですよ。

 

「桜の樹の下」・・・新任教師として某高校にやって来た主人公・萩尾圭子。ある時、圭子は三年の男子生徒・杉原貴志が黙々と弓道場で矢を射る場面を目撃する。医者の息子である貴志は、成績優秀な美少年だが妙に露悪的で、自殺未遂の経験まであるという。彼が練習に励む弓道場は、過去に起きた血生臭い事件のせいで使用禁止なのだが・・・・・

初々しい新米教師と、斜に構えた美少年のやり取りがちょっと危険な雰囲気で、ずっとドキドキしていました。たぶん、恋心とまではいかなくても、貴志は圭子に好意を抱いていたんだろうな。立場を超えた恋物語にもできそうですが、残念ながらここは『転校生』の世界。美しくも残酷すぎるラストシーンが印象的です。

 

「午後3時30分」・・・最近、圭子は結城京子という女生徒が異様な痩せ方をしてきたことが気にかかる。京子に友達はおらず、パソコン部でネット通信にのめり込んでいるようだ。京子の通信相手は<野木ちひろ>というらしい。ところが、調べたところ、<野木ちひろ>はすでに故人だと分かり・・・・・

インターネットが今ほど一般的ではなく、パソコンに熱中する人間は「よく分からないことを黙々やってる変な奴」扱いされる時代の話です。そんな時代に、ネットを媒介した怪異譚を作ったわけですから、森真沙子さんは先見の明がありますね。京子は内向的というだけのいい子っぽいので、真っ当に幸せになってほしいんですが・・・ラストの不穏感がなんとも嫌な感じです。

 

「記念写真」・・・心臓発作で倒れ、病院に搬送された老教師・紅野治。まったくやる気がなく、生徒達からなめられっぱなしの紅野だが、若い頃は別人のように気力と才能に溢れていたという。彼がとある悲劇を機に変わってしまったと知り、同情する圭子だが・・・・・

なんの落ち度もないのに悲劇に遭い、多くの教え子を失い、すっかり人が変わってしまった紅野の人生が哀れでした。彼が味わった悲哀と、要所要所で出てくる藤の花の描写がぴったりマッチしています。とはいえ、ラストシーンから想像するに、これでようやく紅野は救われたと思っていいのかもしれません。

 

「閉じ込められて」・・・うっかり校舎内で居眠りをし、誰にも気づかれないまま真夜中を迎えてしまった圭子。早く帰らなければ。焦りながら外を出ようとする圭子だが、そこには予想外の恐怖が待ち受けていた。

収録作品中、最短にして、最も怪談らしい話だと思います。真夜中の学校にたった一人取り残されるなんて、怖がりの私なら失神もの。若い圭子がパニックを起こしてしまうのも分かります。日本の怪談の<一旦解決したと思ったけど、後々考えてみるとあの時のあの現象は・・・>というお約束が見事に踏襲されていました。

 

「家路」・・・圭子は、各校合同で開催される器楽祭の手伝いでてんてこ舞い。今年は圭子の同僚の女性教師・蛎崎万理が指揮者を務める予定だが、準備が進むにつれ、万理の様子に異変が生じる。どうやらその原因は、他校から来たヴァイオリン担当の女子高生・安西留津子にあるらしい。人づてに聞いたところ、留津子の父親と万理は高校時代の同級生だったそうで・・・・・

怪談一辺倒の本作ですが、この話のみ、ちょっぴりサスペンスの香りがします。封印していた過去が甦り、徐々に精神のバランスを崩していく万理の姿が怖いったら。彼女を苛んだのは幽霊でも呪いでもなく、忘れていたはずの罪悪感だったのかな。第三話の紅野とは違う意味で開放されたらしい万理ですが、この後は一体どうなるんでしょう。

 

「百鬼の夜」・・・修学旅行中のある夜、生徒達が始めた百物語。そこになりゆきで参加することになった圭子は、様々な怪談話を耳にする。やがて会が終わりを迎えた時、彼らが目撃した本当の恐怖とは・・・・・

これまでと違い、小さな怪談がいくつも登場する構成が面白いです。生徒の遊び心を抑え込んだりせず、教師も一緒になって楽しむだなんて、ここはなかなかいい高校ですね。怪談一つ一つもコンパクトながらよくまとまっていて、贅沢した気分になりました。でも、最後に圭子達が見たものって・・・・?

 

「最後の授業」・・・授業中、生徒会長である北園明美が卒倒した。その介助の過程で、圭子は有本咲子という女生徒と知り合う。近頃、圭子の身辺では不審火が相次いでいるのだが、なぜかその現場に咲子の姿もあって・・・・・

前作『転校生』の主役である有本咲子が登場します。また、咲子が転校生として怪異と関わっていく理由も、ちらっとだけど判明。少しSF風味?なこともあり、他の収録作品と比べるとやや毛色が違って感じられるかもしれません。最後に圭子がたどり着いた場所は、一体どこなんでしょう。

 

主人公である圭子は、『転校生』の咲子に比べると、教師という立場もあってか生徒や同僚のため積極的に行動し、事態を解決しようとします。にもかかわらず、怪異の本領は圭子の予想を遥か超えたところにあった、という展開がいかにもジャパニーズホラーですね。この後、再び咲子が主役となったシリーズ第三弾『水域(アクエリアス)』という長編ホラーがありますが、個人的には短編集である『転校生』『真夜中の時間割』の方が断然好みです。

 

怪異の描写が優雅で上品度★★★★☆

平然としている主人公はけっこう強い度★★★★★

スポンサーリンク

コメント

  1. しんくん より:

    「時をかける少女」「学校の階段」に辻村深月さんの作品を思い出すいろいろな設定が重なり面白そうです。
     2作目なんですね。
     1作目から読んでみたいので借りてみようと思いますが、最近ペースが落ちているのに新作が次々に届いてます。
     忙しくても読書する余裕を持ちたいと思います。

    1. ライオンまる より:

      古き良き「学校であった怖い話」系の話です。
      主人公がアクティブに呪いや謎を解こうとする昨今のホラーと違い、謎めいた怪異に一方的に翻弄される様子が逆に新鮮でした。
      私の方は、最近、図書館で予約した新刊がなかなか回ってきません。
      来る時は一気に来るから、なかなか都合良くいかないですね。

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください