はいくる

「二歩前を歩く」 石持浅海

「オカルト」と「科学」、この二つは相反するものと考えられがちです。実際、その手の検証番組などでは、超自然学者と科学者が喧々諤々の討論を繰り広げていたりしますよね。漫画やドラマなどでも、上記の二者は犬猿の仲として描写されることが多い気がします。

ですが、この世にオカルトなど絶対存在しないという証明は今のところできていません。それならば、「幽霊」「呪い」といった超常現象も「人類」「進化論」などと同じように科学的に証明できる可能性だってあるわけです。一見、摩訶不思議な超常現象に論理的な解釈ができるとしたら・・・そんな面白い作品を読みました。石持浅海さん『二歩前を歩く』です。

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ひとりでに家の中を移動していくスリッパ、なぜか一定の距離を置いて自分を避ける通行人たち、壁の裏に貼られた愛妻の遺髪、勝手に点いている浴室の電気、知らぬ間に給油されている自動車のガソリン、指一本触れないのに二つに分かれるポニーテール・・・それらは果たして、目に見えぬ者たちの仕業なのか。日常に潜むささやかな謎と、その思いがけない顛末を描いた異色ミステリー短編集。

 

「超常現象を科学で解決する」と言えば、東野圭吾さんの『ガリレオシリーズ』が有名です。似たようなテーマと思われそうですが、本作の面白いところは「超常現象を否定していない」という点。その上で、それらの法則や特性を見つけ、現象の理由を解き明かすという試みがとてもユニークでした。

 

「一歩ずつ進む」・・・研究所で働く主人公は、確かに玄関に置いたはずのスリッパが勝手に動くという現象に悩んでいる。どうやらスリッパは一歩ずつ、どこかに向かっているらしい。主人公は同僚の小泉に相談してみることにするが・・・・・

「スリッパが変な所にある」という、一見どこにでも転がっていそうな出来事がメインテーマです。ほのぼのした日常ミステリー風の始まりを見せながら、まさかあんなオチが待ち受けていたなんて・・・冒頭とラストの落差の激しさに唖然呆然でした。

 

「二歩前を歩く」・・・海外出張帰りの主人公には、最近気になることがあった。なぜか通行人たちが自分を避けて歩くのだ。それも、数メートルの距離を置いて。首を傾げる主人公に対し、元先輩の小泉が示した答えとは。

やって来る通行人が、何メートルも距離を置いた状態でさっと自分を避けていったら、そりゃ誰でも気になるでしょう。そんな「why」に対する小泉の解釈と、その先にあった予想外の真相。この話の主人公の腹の括りっぷりは結構好きです。

 

「四方八方」・・・若くして病死した愛妻の遺髪を家の壁紙に貼り込んだ夫。やがて夫は就寝中に体調不良を感じるようになる。まさか亡妻の霊魂の仕業なのか?同僚らは彼の身を案じるが・・・・・

生きた人間の生臭さを強く感じるエピソードでした。亡き愛妻と離れないで済むよう、遺髪を壁紙に貼り込んだ夫。その狂気めいた行為の裏にある人間模様は切なくもあり怖くもあり・・・でも、この気持ち、分からないでもないなぁ。

 

「五カ月前から」・・・消したはずの浴室の電気が勝手に点いているという現象を訝しむ主人公。毎日起こるわけではないが、やはり気がかりだ。同僚の小泉に話してみたところ、電気が点く曜日に法則があるということが分かり・・・

収録作品中、「現象→仮説→真相」の過程が一番しっかり組み立てられているように感じました。第一話のスリッパと同じく、「あ、電気点いてる。消し忘れ?」という有り触れた疑問から謎が始まるという構成も面白いです。そして主人公、ラストでスッキリしすぎだろ!

 

「ナナカマド」・・・主人公であるOLの車は、なぜか知らぬ間にガソリンが給油されている。それも満タンではなく、決まって七割までだ。後輩の小泉に相談した結果、誰かが触ったら分かるよう、給油口にシールを貼ることにするが・・・・

私が一番好きな話です。勝手に給油されるなんてラッキー♪と思っても良さそうなところ、明かされた真相の惨いことといったら・・・ラストの主人公の姿を想像すると背筋が寒くなります。彼女、これからどうなっちゃうんだろう。

 

「九尾の狐」・・・主人公にはどうしても気になることがある。それは、先輩女性のポニーテールが、ふとした瞬間、勝手に二つに分かれるということだ。もちろん、誰も手を触れていないのに。先輩の小泉曰く、髪が分かれるタイミングが重要ということで・・・

本作の中で唯一ハッピーエンドと言える話でした。美人な上に性格もいい先輩女性のキャラクターが素敵ですし、主人公も最後で根性見せてくれます。この話を最後に持ってきたことで、イヤミスばかりの本作の後味が一気に良くなります。

 

『ガリレオシリーズ』で主人公の湯川がガンガン謎解きを行うのに対し、本作の探偵役・小泉はあくまで「謎解きへの道筋」を示してくれるだけ。その道筋をもとに、各話の主人公たちが自ら真相に気付くというのがこの物語の特徴です。こういう探偵キャラって珍しい気がするので、今後もシリーズ続行してほしいものですね。

 

オカルトにも論理がある度★★★★★

科学者は幽霊を断固否定する!度★☆☆☆☆

 

こんな人におすすめ

・ホワイダニット(なぜそれが起こったか)にこだわったミステリーが読みたい人

・ホラー風味の短編小説が好きな人

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コメント

  1. しんくん より:

    ガリレオシリーズのような科学か?オカルトか?ただの悪戯か?気のせいか?
    複雑な工作か?気になります。

    1. ライオンまる より:

      最初、ガリレオと同じ路線の作品かと思いましたが、「超常現象もあり得る」という前提で進むところが違いました。
      怪異が原因という話もあり、人間の仕業という話もありで、飽きなかったです。
      湯川とは違う探偵役・小泉のキャラがなかなかユニークでした。

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