子どもの頃、商店街に行くのが好きでした。本屋に文房具屋、パン屋に映画館。小さい分、従業員さんたちと会話することができ、ワクワクドキドキしたものです。今はもっと大きなデパートやショッピングセンターがあちこちにあって楽しい反面、慣れ親しんだ商店街が廃れていくのは寂しいです。
今、全国にはシャッター通りと化した商店街がたくさんあります。そこをどう再生し、人々の生活を潤すかは、テレビや新聞でしばしば取り上げられるテーマですね。そんな商店街の奮闘を描いた作品、柴田よしきさんの『ねこ町駅前商店街日々便り』。この町、行ってみたいです。
人が減り、店が減り、鉄道までも廃線の危機に瀕した田舎町・根古万知(ねこまんち)。ある日、そんな町に一匹の猫が現れる。「ノンちゃん」と名付けられた猫は一日駅長として大ブレイク!ネット上で評判となり、町にも久しぶりに観光客が訪れ始める。この人気を利用し、町を復活させることはできないか。喫茶店店員の愛美を中心に、町民たちは故郷再生に向けて動き出すのだが・・・・・
地方再生をテーマにした小説はたくさんあり、描かれ方も様々です。そんな中で本作の印象的なのは、「どんなやり方をしても、根古万知が昔の勢いを取り戻すのは無理だろう」「ノンちゃん人気も永遠には続かないだろう」と登場人物たちが受け入れている点。根古万知が地方の小さな田舎町だということは事実であり、若者が都会に出て行くのを止めることはできない。そんな寂しい現実を認めつつ、「出て行ったきりではなく、折々に帰りたくなる町にするにはどうすればいいか」と試行錯誤する愛美ら町民たちを、心の底から応援したくなりました。
物語の中心となるのは、離婚して根古万知に戻ってきた喫茶店店員・愛美。ひょんなこと飼うことになった迷い猫のノンちゃんが駅長として有名になったことをきっかけに、根古万知再生について考えるようになります。しかし、そこには予想外の出来事が数多く待ち受けていたのです。
町興しは良いもの、誰もが喜ぶものと思いがちですが、必ずしもそういうわけではありません。町民の中には、観光客が大勢訪れることを嫌がる者もいれば、慣れ親しんだ町に手を加えたがらない者、価値が下がった土地を業者が買ってくれるのを待つ者もいます。根古万知再生計画にとって一番の課題は、資金調達や環境整備ではなく、そういう人達をどう説得するかということでした。
こういう問題は、しようと思えばいくらでもどろどろさせられますが、本作の雰囲気はあくまでほのぼのと穏やか。町民同士の意見が対立するシーンさえも、どこか温かな空気が流れているため、読んでいて嫌な気分にはなりません。愛美に協力するカメラマンの慎一、福々軒というラーメン店を営む愛美の父、愛美が働く喫茶店店長など、平凡ながら誠実な登場人物たちもまた、物語の優しさを際立たせるのに一役買っています。
また、町興しと並行して、根古万知で起こる様々な事件の顛末も描かれます。町に飛来するUFOの噂、過去のいじめ事件の被害者との関係、ノンちゃんの本当の飼い主の行方etcetc。中でもいじめに関するエピソードには感情移入する部分が多く、「そうだよそうだよ」と頷きっぱなしでした。「加害者たちが大挙して押しかけて『昔はごめんね』と謝られたら、嫌でも許さざるをえない」・・・うん、本当にその通りだよなぁ。
現実のシャッター通り問題と照らし合わせると、ご都合主義が過ぎると感じるかもしれません。なかなかのボリュームの上、様々なエピソードが詰め込まれているので、「冗長だ」「間延びしている」と感じる向きもあるようです。ですが、登場人物たちの故郷を愛する気持ちや、町興しの苦労と喜び、何より猫の愛らしさなど、読み応えもまた大きいです。特にノンちゃん、脇役でいいので別作品に再登場してくれないでしょうか。
甘くないことは分かってる度★★★★☆
町興しが終わった、その先には・・・度★★★★★
こんな人におすすめ
・猫好きな人
・地方再生というテーマに興味がある人
廃れていく商店街の再生ストーリーが最近増えていますね。
最近読んだ「メガネと放蕩娘」がその最たるものでした。
この作品はそれほど理論的なものとは少し違い猫を通じて人情ストーリーを中心にした温かい雰囲気のようで興味深いです。
自分の住んでいた街も小学生の頃は人通りが多く活気に溢れていましたが、大型ショッピングモールが出来てから人通りが少なくなりました。
妻の実家近くの商店街は京都市内のせいか人通りが多く活気に溢れています。
面白そうなエピソードも多く読み応えがありそうです。
ビジネスライクな地方再生物語ではなく、ほのぼのした雰囲気漂うハートフルストーリーでした。
それを非現実的と捉える向きもあるようですが、私はこういう作品があって良いと思います。
けっこうな大作なので、一気読みというより空き時間にちょこちょこ読むのに向いているかもしれませんね。