はいくる

「25時のイヴたち」 明野照葉

インターネットを通じて友達を作った経験はありますか。私自身はというと、趣味や仕事、生活環境について楽しく話せる友達が何人かいます。中には、遠く離れた場所に住んでいたり、生活サイクルが違いすぎたりするため、現実世界ではなかなか知り合えなかったであろう人もいます。そういう相手とでも友達になれることが、インターネットの利点の一つですよね。

ただ、直接会うとなると、インターネット上でやり取りするほど簡単にはいかない場合もあります。それも、オフ会などの複数名がいる場所ではなく、二人きりで会うとしたら・・・その相手に、誰にも知られたくない秘密を知られているとしたら・・・そんな不穏な状況を描いた作品があります。松本清張賞受賞作家、明野照葉さん『25時のイヴたち』です。

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友人たちと立ち上げた会社でバリバリ働くキャリアウーマンの理沙。優しい夫と可愛い娘に囲まれ穏やかに暮らす真梨枝。何不自由ないように見えながら、実は心に鬱屈したものを抱える二人が、女性限定の隠しサイトで出会う。悩みを打ち明け合った彼女たちは現実世界でも会い、たちまち意気投合。勢いに任せ、二つの計画を実行に移し始めた。一つは、自分たちが知り合った隠しサイトの運営者の正体を暴くこと。そしてもう一つは・・・・・心の闇を暴走させ、依存し合ったまま堕ちていく二人を待ち受けるものとは。

 

 

女同士のドロドロを扱ったサスペンス小説は数多くあれど、本作ほどどす黒いものはなかなかないんじゃないでしょうか。丁寧に丁寧に描写される理沙と真梨枝の悪意がまあ怖いこと怖いこと。二人が社会不適合者などではなく、表面上は立派な大人として抜かりなく振る舞っているところがまた怖いです。

 

順調な仕事と気の置けない仲間を持つ理沙と、愛する家族とともに平和な日々を送る専業主婦の真梨枝。順風満帆なはずの人生に内心で行き詰まりを感じる二人の主人公は、女性限定の裏サイト「FMペンタゴン」で知り合います。そこは女性達が体や心の悩みについて赤裸々に話し合う場でした。意気投合した理沙と真梨枝は現実世界でも友達付き合いを始め、やがて悪意に満ちた企みを始動させます。

 

企みの一つは、謎多き裏サイト「FMペンタゴン」の秘密を暴くこと。そしてもう一つは、二人が「何となく気に入らない」と思った相手に対する嫌がらせです。この嫌がらせが何とも陰湿でいやらしい!同僚が利用するはずだった宿泊施設をこっそりキャンセルし、パソコンの文字変換が上手くいかないよう細工する。弟の婚約者の周りにわざとらしく調査員風の人間をうろつかせ、ママ友の家に大量のダイレクトメールが届くよう仕向ける。何か悪いことをしたわけでもない(むしろ主人公達に好意を持っている)相手に、「私はこんなに鬱々としているのに、幸せそうな顔しちゃって」「人生そう思い通りにいかないことを教えてやる」とネチネチ嫌がらせを仕掛け、その話を肴に楽しく飲み交わす理沙と真梨枝の姿はもはやホラーの域でした。

 

二人の姿にゾッとすると同時に、ほんの少しながら「分かるかも・・・」と思わせてしまうのが、明野さんの筆力の凄いところですね。自分に悩み事がある時、つい他人を鬱陶しく感じてしまう心理って、誰にでもあるんじゃないでしょうか。また、女性同士の「ひとたび意気投合すると私生活の秘密まで打ち明け合う大親友になるが、些細なきっかけで友情にヒビが入る」という描写もなんともリアル。家族より仕事仲間より親密な付き合いをしていたのに、ある出来事を機にすれ違い始める理沙と真梨枝。このすれ違いが、やがて彼女たちを奈落の底に突き落とすのです。

 

理沙と真梨枝のやり取りに重点が置かれているせいか、メインの謎である「隠しサイトの運営者の正体と目的」は案外あっさり判明します。そちらの謎解きを期待していると拍子抜けしてしまうかもしれませんが、女性の狂気や腹黒さはお腹一杯堪能できますよ。何よりこのラスト・・・怖すぎる・・・

 

人の不幸は蜜の味・・・と思っているのは自分だけじゃない度★★★★★

ネットの罠を甘く見てはいけない度★★★★☆

 

こんな人におすすめ

女性の悪意てんこ盛りのイヤミスが読みたい人

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コメント

  1. しんくん より:

    20代の頃、ニフティの主催するSNSで北海道の人と友達となり北海道旅行の時に札幌でオフ会したことを思い出します。札幌時計台で待ち合わせして4人で盛り上がりました。四国の友達にも会いに行き松山を散策したこともあります。SNSも閉鎖されて記録していた携帯の番号も消えてしまいましたが、今から考えたらそれで良かったと思います。また会いたいとも思いましたが深いりしないのが原則では?と感じました。
    新津きよみさんに近いホラーに女性同士のイヤミスが興味深いです。

    1. ライオンまる より:

      SNS仲間と楽しく過ごせて何よりです(^^)
      繋がりが消えるのは寂しいでしょうが、それくらいの温度で付き合う方がいいのかもしれませんね。
      明野照葉さんは女性心理をテーマにしたイヤミスが得意で、新津さんより後味悪い作品が多いです。
      機会があればぜひ!

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