はいくる

「一九六一 東京ハウス」 真梨幸子

バラエティ番組、大好きです。時に悲惨な出来事を映さざるを得ないニュースや、一度見逃すとストーリーが分からなくなる可能性があるドラマと違い、適度に陽気で、適度に気軽。その日の気分次第でチャンネルを合わせれば、難しいことを考えずさらっと楽しめるところが魅力です。

一言でバラエティ番組と言っても色々ありますが、改めて見てみると、リアリティショーの多さに驚かされます。これは、一般人が様々な出来事に直面する様子を撮影した番組のこと。アイドルを目指したり、お金を稼ごうとしたり、特殊な状況下でのサバイバル生活を送ったりとシチュエーションは様々であり、特に友情や恋愛といった出演者達の人間模様にフォーカスした番組が人気な気がします。もちろん、プロの芸能人ではない素人がカメラの前に立つわけですから、万事順調なはずはありません。一歩間違えれば、取返しのつかない事態に陥る危険も・・・・・今回ご紹介するのは、真梨幸子さん『一九六一 東京ハウス』。リアリティショーを巡る生臭い愛憎劇を堪能できました。

 

こんな人におすすめ

リアリティショー内で繰り広げられる泥沼人間模様に興味がある人

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古き良き昭和三十年代。希望と夢に満ちたこの時代にタイムスリップし、その生活を体験してみませんか---――出演者を一般人から募り、団地で一九六一年の生活を体験させるリアリティショー<一九六一 東京ハウス>。審査の結果、二つの家族が選ばれ、早速シミュレーション生活がスタートする。温かみのある人間らしい暮らしが味わえる・・・はずだった。不便な家電製品、すぐには買えない生活物資、近隣住民との埋まらない格差。溜まりに溜まった鬱憤が爆発する時、ついに悲劇が起こり・・・・・イヤミスの名手が贈る、愚かで血生臭い泥沼愛憎ミステリー

 

真梨幸子さんは、これまで作品の中にテレビ局や新聞社、出版社等、いわゆる業界関係者をたくさん登場させてきました。今回メインテーマとなるのはリアリティショー。とはいえ、真梨幸子さんなわけですから単なる番組制作で終わるはずもなく、相変わらずのドロドロ人間模様が描かれます。このブレなさ、好きだなぁ。

 

一般人から公募した出演者を団地に住まわせ、約六十年前の生活を送らせるリアリティショー<一九六一 東京ハウス>。出演する二家族にはヤマダ家、スズキ家という仮名が与えられ、早速、一九六一年の暮らしがスタートします。家電の使い方は分からず、すぐ駆け込めるコンビニもなく、暮らしは苛立つことだらけ。その上、制作側から予想外の指示まで入り、番組は混迷状態に陥ります。果たしてこれは、本当にただの生活シミュレーション番組なのか。何者かの隠された意図があるのではないか。スタッフの間からも疑問の声が上がり始めた時、なんと番組内で死者が出るという事態が発生。とうとう警察が乗り出してきますが、真実は関係者の予想を遥かに超えたところにあり・・・・・

 

物語は、大きく分けて二つのパートがあります。一つは、ヤマダ家、スズキ家が送るシミュレーション生活のパート。コンロも風呂もマッチがないと使えない、トイレットペーパーが欲しくてもスーパーは十時から十八時までしか開かない、クーラーもカラーテレビも贅沢品扱い・・・令和を生きる中流家庭からすれば信じられないような生活が続きます。でも考えてみれば、今のように「トイレットペーパーがない!コンビニ行ってくるね」という暮らしって、ものすごく便利なことなんですよね。当たり前のように思っていた生活の快適さに気付かされました。

 

もう一つは、スタッフの深田隆哉はじめ、制作側目線で番組を語るパートです。ここで、リアリティショーと思われていた番組が、実はスタッフにより色々と手を加えられていたことが分かります。出演者達にこっそりとキャラクター設定を与え、二家族の間にわざと貧富の差を出してトラブルを助長し、色恋沙汰まで指示を出す。出演者が難色を示せば、契約書をちらつかせてねじ伏せる。リアリティショー出演者に制作側がやらせを仕掛け、結果、悲劇が起こった事例は実際に存在します。真梨幸子さん独特の丁寧で粘着質な描写の威力もあり、二家族がどんどん拗れていく様子は本気で憂鬱な気分になりました。ちなみに、このパートで繰り返し語られる<ジンバルドの監獄実験>は、一般的に<スタンフォード監獄実験>の名前で呼ばれ、『es[エス]』というタイトルで映画化もされています。かなりショッキングな作品ですが、間違いなく名作なので、興味のある方はぜひともチェックしてみてください。

 

そして、本当の意味で真梨幸子節が炸裂するのは中盤以降です。出演者の中から死者が出てしまい、撮影現場は大混乱。警察の捜査が行われ、結果、<一九六一 東京ハウス>には、ある人間の企みが絡んでいたことが分かります。ここからは安定の真梨ワールド全開で、残酷な真実がどんどん発覚するわ、登場人物達の本音が明らかになるわ、次から次にどんでん返しがあるわと、さながらジェットコースター状態。とはいえ、ぶっ飛び展開だけではなく、リアリティショーを筆頭に現実の文化や社会問題もきっちり取り入れているところが巧いです。後半は、事情聴取や新聞記事等で多くの人名が乱れ飛びますが、一回だけちらっと出た名前がラストの伏線だったりするので、忘れそうな方はメモしておくことをお勧めします。

 

なお、本作は真梨幸子さんの著作である『クロク、ヌレ!』『インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実』と関連しています。あくまで世界観が繋がっているだけなので、未読でも問題ありませんが、読んでいれば面白さが増すでしょう。私はざっくりしたあらすじは覚えていますが、細部の記憶はかなり怪しくなっているため、近々再読しようと思います。

 

相変わらず読後感はイヤ~な感じ(大絶賛)度★★★★☆

リアリティーショーの内幕がこんなものであってほしくない度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

    興味深い設定でしたがストーリーが進むに連れて、登場人物と共にタイムスリップしたような感覚になりました。古き良き時代、昭和がそんな甘いものでないことはよく分かりましたが、どこからバラエティーでどこが現実なのか?
    「死者は黄泉がえる」以上にややこしいパラレルワールドストーリーでした。
    賞金に目が眩むと碌なことにならない~真梨幸子さんのドロドロのイヤミスに込めたメッセージが伝わってきたような気分でした。
     ホーンテッド・キャンパスの新刊がもうすぐ発売ですね。
     

    1. ライオンまる より:

      わざと格差を付けられた二家族のてんやわんやが面白かったので、そこにもう少しページを割いて欲しかったです。
      あんまり欲の皮を突っ張らせるものじゃないですね。
      「ホーンテッド・キャンパス」の新刊は、久しぶりの長編作品とのこと。
      怪異の謎解きや、主人公カップルの恋愛模様も楽しみですが、ひいきの泉水ちゃん&鈴木君が活躍するかどうかが気になります。

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