はいくる

「四十歳、未婚出産」 垣谷美雨

厚生労働省の発表によると、国内のひとり親家庭の数は二〇一一年度の時点で母子家庭が一二三.八万世帯、父子家庭が二二.三万世帯だそうです。この記事を書いている時(二〇一八年)にはもっと増えていることでしょう。私が注目したのは、一九八八年度の調査の時と比べて、離別や死別ではなく未婚によるひとり親家庭が増えている点です。結婚しないまま子どもをもうけ、育てる生活スタイルは、もはや海外だけのものではありません。

とはいえ、日本において未婚のまま親になるということは、様々な困難に見舞われることも事実。永井するみさんの『俯いていたつもりはない』、柚木麻子さんの『本屋さんのダイアナ』、唯川恵さんの『100万回の言い訳』などでもひとり親家庭が登場し、多くの試練に立ち向かっていました。私が最近読んだこの作品にも、悪戦苦闘する未婚の親が出てきましたよ。垣谷美雨さん『四十歳、未婚出産』です。

 

こんな人におすすめ

シングルマザーの奮闘記が読みたい人

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都会の旅行代理店でバリバリ働く三十九歳のヒロイン・優子。シングルライフをそれなりに満喫していた彼女だが、ひょんなことから年下のイケメン部下・水野の子を妊娠してしまう。年齢的に、これが出産する最後のチャンスかも・・・彼女持ちの水野との結婚など望めるはずもなく、一人で子どもを産み育てることを決意する優子だが、それは茨の道の始まりだった---――パワハラ、偏見、好奇の目に晒されながら出産を目指す優子の未来に光はあるのか!?

 

新作が出るたびに思うことですが、垣谷さんはタイトルの付け方がすごく上手いですね。『結婚相手は抽選で』然り、『七十歳死亡法案、可決』然り、インパクトがありながらテーマの本質を表したタイトルに毎回感心させられます。それは本作も同じこと。シンプルかつ的確なタイトルに、一目で視線と関心を奪われてしまいました。

 

主人公の優子は、旅行代理店で課長代理を務めるキャリアウーマン。ある時、出張でカンボジアを訪れた優子は、現地の雰囲気に飲まれるかのように、年下の部下・水野と関係を持ってしまいます。おまけにそのたった一夜が原因で優子は妊娠!社内に彼女がいる上、性格もちゃらんぽらんな水野に見切りをつけた優子は、父親が誰かは明かさぬまま、一人で出産することを決意します。しかし、そこには予想以上の困難が待ち受けていました。

 

未婚のまま徐々にお腹が大きくなっていく優子に向けられる偏見の目、無遠慮な陰口、田舎の親の見当外れな気遣い、上司からのマタハラなどの描写が辛辣で、読んでいてイライラさせられっぱなしでした。何が嫌って、優子を苦しめる人間のほとんどが悪人ではなく、「これが世間の常識」「分からせてやるのが優子のため」と信じているであろうところが一番嫌。「これだから女はダメなんだ」と吐き捨てる上司も、地元の独身男性に「娘のお腹の子の父親になってくれ」と頼みまくる優子の母も、決して優子を苦しめることが目的ではないのでしょう。垣谷ワールドにしばしば登場する<悪意のない無神経人間>によって優子が疲弊していく様子に、こちらまでゲンナリさせられてしまいました。

 

作中で一番分かりやすく<敵役>として描かれているのは、子持ちの女子社員を露骨にお荷物扱いし、優子にも退職を迫る男性上司なんでしょうが、個人的には不妊治療の末に子どもを諦めた同僚女性とのやり取りもキツかったなぁ。もともと優子と親しかったこの同僚は、「優子が妊娠したらしい」という噂を聞いて、そのデリカシーのなさに怒ってくれます。ところが優子から噂が事実だと告げられるや否や、「そんなのずるい。十五年も不妊治療してきた自分が馬鹿みたい」と激昂するのです。もちろん、同僚の不妊治療と優子の妊娠はまったく無関係なんですが・・・ちょっと、ほんのちょっとだけ、この同僚の気持ちも分かっちゃうんですよね。実際、未婚か否かはともかく、妊娠した際に女友達への報告をどうするかで迷う女性も多いとのこと。垣谷さんの、こういう女性同士の微妙な心理状態の描き方はすごくリアルだと思います。

 

そんなこんなで八方塞がりに思える優子ですが、徐々に味方が現れます。子連れのブラジル人女性との再婚を決めた兄や、その妻となるマリアと息子のリカルド、幼馴染である寺の息子・凡庸、かつての不倫相手である瀬島などです。特に、日本での差別に悩むマリアとリカルド親子の存在が印象的でしたね。母子家庭のためマリアは働きづめで、一人で過ごすことの多いリカルドは日本語や英語はおろか母国語であるポルトガル語さえ流暢には喋れない・・・そんな母子のため必死で打開策を練る兄は素敵だと思いますし、彼らが優子の支えとなってくれる展開は実に爽やか。垣谷作品の場合、主人公の身内男性はけっこうしょうもないタイプが多いので、この兄のようなキャラクターは珍しかったです。

 

と、ここまで褒めてきた本作ですが、難点を挙げるとすれば優子の味方達が有能&善良すぎて、途中から一気に問題が解決していくところでしょうか。どんな深刻な社会問題も、どこかユーモラスにさくさく読ませていくのが垣谷さんの持ち味。本作もその持ち味が遺憾なく発揮されているのですが、逆に言えば、あまりに都合良く物事が解決しすぎな気がしないでもありません。出産・育児という、人一人の何十年と続く人生が懸かった問題な分、余計にそう感じてしまうのかもしれませんね。ですが、後味はとても良いですし、シングルマザーだけでなく外国人への差別や不妊治療、保育園など様々な社会問題にも触れられていて、考えさせられることの多い作品でした。ちょっと気になるのは、エピローグでのとある人物の語りなんですが・・・うーん、その後が知りたい!!

 

女の人生って制限が多いよね度★★★★☆

まさか本当に二人目は・・・度★★★★☆

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コメント

  1. しんくん より:

    今の日本の抱える社会問題と解決策を見事に描いた垣谷さんらしい作品でした。
    特に母子家庭、ワンオペ育児~どうすれば良いのか?
    四面楚歌、いばらの道を歩く優子に、無神経、悪意のない気遣いで余計に追い込んでいく態度には腹が立ちました。
    そんな時、心強い味方が次々に現れて出来過ぎだと思うくらい良い方向に向かっていく終わり方に読んでいてホットしました。
    これはドラマ化してこの後の様子や優子の子供が小学生になった頃までのストーリーがあれば~と思います。
    優子役は稲森いずみさんか鈴木杏樹さん仲間由紀恵さんがどうかな~と思います。

    1. ライオンまる より:

      ちょっと出来すぎと思わないでもないですが、テーマがテーマですので、希望あるラストに繋がり良かったです。
      これはぜひとも今後が見たいですよね。
      稲森いずみさん、イメージぴったり!!

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