はいくる

「予言の島」 澤村伊智

<予言>という単語を聞いて多くの人が思い浮かべるのは、かの有名な<ノストラダムスの大予言>でしょう。<一九九九年七か月、空から恐怖の大王が来るだろう>という一文が<一九九九年に人類は滅びる>と解釈され、一時期、テレビや雑誌もその話題で持ちきりでした。かくいう私も、ハラハラドキドキしながら特集雑誌を買い求めた一人です。

こんな風に何かと世間の注目を集める<予言>ですが、これをテーマにした小説となると、あまりお目にかかったことがありません。関係者の中に預言者を名乗る人間がいるケースはありますが、大抵は詐欺まがいの手を使う小悪党というのがお約束。<未来を見通す>という能力の性質上、あまり大々的に取り上げると何でもありのハチャメチャ小説になってしまうからでしょうか。ですが、この小説に出てくる<予言>は一味違いました。澤村伊智さん『予言の島』です。

 

こんな人におすすめ

クローズド・サークルを扱ったホラーサスペンスが読みたい人

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霊魂六つが冥府へ堕つる-----自らの死の二十年後、六人の人間が死ぬことを予言した霊能力者・宇津木幽子。天宮淳は面白半分で幼馴染たちと共に、予言の地である霧久井島へ向かう。それは、取り返しのつかない悲劇の始まりだった。幼馴染の一人の死を皮切りに続く死の連鎖、島に伝わる<ヒキタの怨霊>の伝承、村中に飾られた魔除け人形<くろむし>、とある目的を持って島を訪れた宇津木幽子の孫娘・・・・・果たして亡き予言者の言葉は妄言か、真実か。相次ぐ死の影に隠された島の秘密とは果たして・・・・・

 

<澤村伊智=比嘉姉妹>と言ってもいいくらい『比嘉姉妹シリーズ』のインパクトが強い澤村ワールドですが、本作は久しぶりのノンシリーズ。他作品との絡みがあるわけでもないので、澤村作品未経験の人でも安心して読むことができます。<本土から遠く離れた島>だの<老人たちの間で囁かれる不気味な伝承>だの、ホラーサスペンス好きの心をくすぐる要素がわんさか出てくるところも嬉しいですね。

 

天宮淳はパワハラで心を病んだ幼馴染・宗作の気分転換を図るため、瀬戸内海にある霧久井島へ向かいます。そこはかつて一世を風靡した予言者・宇津木幽子が<自分の死後二十年経ったら、ここで六人の人間が死ぬ>とも取れる予言を残した地でした。折しも今はその二十年後。面白半分で上陸した一行は、島民が<怨霊>という言葉を口にするのを耳にします。そして翌朝、淳が目にしたのは、この旅の発起人である春夫の死体・・・・・彼の死を皮切りに、島では謎の死が相次ぐようになるのです。

 

話が進めば進むほど、澤村さんお得意の<正体不明の恐怖がじわじわ迫ってくる>描写が目白押し。この辺りの巧さは、他作品の感想でもさんざん書いてきたので今さら触れるまでもありませんが、今回目に付いたのは田舎描写の面白さです。あらすじを読んだ時、私を含め多くの読者が「おっ、澤田さんお得意の土着ホラーね」と予想したと思います。ですが、本作の恐怖は(島民も一枚噛んでいるとはいえ)余所者が外部から持ち込んだもの。中盤、島の土着文化にこだわる都会人を、島民が「あんた横溝好きやろ?京極なんちゃらとか、三津田なんちゃらいう作家好きやろ?」とせせら笑う場面が印象的でした。確かに、意外と住民より余所者の方が、田舎の因習にロマンを持っていたりするのかもしれませんね。

 

そんな物語を、これまた個性的で一癖ありそうな登場人物たちが盛り上げてくれます。淳をはじめ誰も彼もが怪しげな部分があるのですが、一番目立つのは、淳たちのグループと共に島に上陸した沙千花でしょう。彼女は宇津木幽子の孫娘であり、有名予言者の祖母を持ったことで幼少期から苦い思いをし続けてきました。彼女の旅の目的は、この島を訪れた直後に体調を崩し、回復することなく他界した祖母の死の真相を突き止めること。かといって沙千花が祖母の予言を信じているかというとそうではなく、むしろ「予言なんか当たるわけない。宇津木幽子はただのババア」と言い切り、予知能力の非科学性を次々証明していきます。そんな沙千花がこの島で成そうとしたこと、成し遂げたことは一体何なのか・・・真相に触れる部分もあるので深く語れないんですが、ラストが分かってから彼女の言動を読み返してみると、その真摯さが伝わってきて切ないです。

 

ちなみに本作のコピーは<初読はミステリ、二度目はホラー。この謎に、あなたもきっと囚われる>これ、ぱっと見ただけでは、「逆じゃないの?」と思います。ホラーと見せかけて、ちゃんと論理的な謎解きがあるじゃん!と。しかし、よくよく考え、淳らが置かれた状況を想像してみると、これはもう鳥肌もののホラーでしかない・・・化け物無双に定評のある澤村さんがこういう作品を書くとは意外でしたが、一粒で二度も三度も楽しませてもらいました。『比嘉姉妹シリーズ』の続編が楽しみなのは言うまでもないものの、こういうノンシリーズも定期的に出してほしいです。

 

<呪い>は確かに存在する度★★★★☆

読みながら感じた違和感を大事にして度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     パワハラに疲れて自殺寸前だった同級生の為にわざわざ呪いの島に行くという設定自体かた違和感がありました。
     閉鎖的な島と言えば、中山七里さんの人面そう探偵の2作目が印象的でしたがそれを上回る不気味さでした。
     澤村伊智さんにしてはなかなか現実的なミステリーでホラー作家としての種明かしをしているようでした。
     それに目を向けさせて、意外な盲点を付かれてやられた~と思うラストには驚きました。
     

    1. ライオンまる より:

      一般的な孤島モノの場合、「都会気分丸出しで来た余所者がオカルト事件に巻き込まれ~」というパターンになることが多いです。
      でも、本作は「オカルトにこだわるのは余所者の方、住民達は実は・・・」という流れで、すごく印象的でした。
      <澤村伊智さん=バリバリのホラー>というイメージが強いですが、こういう現実的なミステリーもけっこう好きです。

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