<魔女>と聞くと、どういう存在を連想するでしょうか。恐らく、黒い服を着てホウキにまたがった女性を思い浮かべる人が多いと思います。実はこれは日本的な発想であり、発生の地であるヨーロッパではもっと多種多様な意味を持つ存在であるとのこと。男性だっているし、年齢も年寄りから少年少女まで様々です。数多くの学説があるようですが、まとめると<人知を超えた力で災いを為す存在>ということでしょう。
ここ最近はJ・K・ローリングの『ハリー・ポッターシリーズ』をはじめ、勇敢な若者が魔法を使って悪を倒す物語が主流な気がします。もちろん、それはそれで面白いのですが、語源を考えると、妖しく不気味な存在の方が正統派<魔女>のはず。というわけで、今回はこの小説を取り上げたいと思います。赤川次郎さんの『魔女たちのたそがれ』です。
こんな人におすすめ
閉鎖的な村を舞台にしたホラーサスペンスが読みたい人
奴らは谷に棲んでいる---――平凡なサラリーマン・津田のもとに、幼馴染である依子から電話がかかってくる。「助けて・・・殺される」その声に尋常ならざるものを感じ、依子が教師として勤める小さな村へ向かう津田。そこで起こる不可解な死の連鎖。村中に蔓延する憎悪と恐怖の嵐。そして、狂気の波は、依子をも飲み込もうとしていた。山奥の町で起こる連続殺人事件の顛末を描いたダーク・ホラーサスペンス
別作品のレビューでも書きましたが、赤川さんはこういう<狂気が日常を侵食する>みたいなホラーが上手いんですよね。恐怖がじわじわ迫ってくる描写の巧みさは、軽妙なユーモア・ミステリをたくさん書いている作家さんとは信じられないくらいです。かといってグロテスクな部分はほとんどないため、「怖いのは好きだけど猟奇的なのは嫌」という人でも安心して読めますよ。
主人公の津田は、幼馴染の小学校教師・依子から「助けて。殺される」と電話で訴えかけられます。不審に思いつつも、依子の赴任先である山奥の町に駆けつける津田。そこでは、住民たちが次々と喉をかき切られて死ぬという事件が起こっていました。おまけに、肝心の依子さえ津田を殺そうと襲いかかってきます。どうにか制したものの、我に返った依子は自分の行動の一切を忘れていました。そんな彼女の口から、<谷>にまつわる陰惨な出来事が語られ始めます。
閉鎖的な田舎町で起こる連続殺人事件はとにかく不気味。でも、それ以上に怖いのは、偏見と猜疑心に凝り固まった住民たちの姿です。何しろ彼ら、<谷>に住む者達を当然のように差別し、時に殺しても知らんぷりする有様ですから・・・差別やいじめは世界中で起こる出来事とはいえ、こういう寂れた田舎が舞台だと、より悲惨に、より陰湿に感じられますね。
と、ここまでならよくある<田舎どろどろサスペンス>なのですが、本作はそれでは終わりません。ある辺りから、<谷>への迫害は本当にただの偏見なのか、無意味で理不尽なものなのかという疑問が出てきます。そうこうする内に物語のホラー要素が徐々に強まり、戦慄のラストに結びつくわけですが・・・・・前半の「なるほど、<人間が一番怖い>って話ね」という予想を見事に裏切ってくれました。
もう一つ、面白かったのは、本作では明確な主人公がいない点です。導入部は津田、途中では依子が主人公格に見えるのですが、話が進むにつれて違うと分かります。依子が知り合う町の少女・多江、刑事の三木や小西といった登場人物たちがそれぞれ負けず劣らずの個性を放っていて、各々を主役に一本の小説が書き上がりそうなほど。赤川さん特有の分かりやすいキャラクター設定が、いい意味で作用していたと思います。
ちなみに本作、『魔女たちの眠り』というタイトルでスーパーファミコンのゲーム化されています。本作と続編『魔女たちの長い眠り』を原作とした内容で、プレイステーションでリメイクもされているんだとか。プレイステーション、今も実家の押入れに眠っているけれど・・・さすがにもうソフトが手に入らないかなぁ。
本当の<魔>は果たしてどちら・・・?度★★★★★
できれば続編と併せて読んでください度★★★★☆
八ツ墓村のような閉鎖的な村のクローズドサークルミステリーに個性的な刑事たちのストーリーに魔女とはどういう設定か?村八分か悪しき因習か村の呪いか?
赤川次郎さんは土曜ワイド劇場や火曜サスペンスでの2時間ドラマで観たことしかなく原作は読んだことがないですが、科学的・現実的な設定だったと思います。
続編もあるのなら読んでみたいですね。
赤川次郎さんは軽妙な雰囲気の作品の方が有名ですが、けっこう救いのない話や陰惨なホラーも書くんですよ。
この作品も、田舎の閉ざされた空気感と<魔女>というキーワードが巧く絡み合っていて面白いです。
ボリューム的にもちょうど良く、一気読みできました。