はいくる

「上と外」 恩田陸

結構な映画好きを自負している私が一番初めにハマったジャンル、それはアドベンチャーです。例を挙げるなら『インディ・ジョーンズシリーズ』や『ハムナプトラシリーズ』などですね。この手の作品はストーリーやキャラクター設定が分かりやすく、最後には善が悪を倒してスッキリ解決!という流れが多いので、安心して楽しむことができました。

ただ、映像作品ではなく小説、それも現代の日本人を主人公としたものとなると、数が限られてきます。手に汗握るハラハラシーンは画面映えしますし、今を生きる日本人が冒険に出かける機会は多いとは言い難いせいでしょうか。現に、田中芳樹さんの『アップフェルラント物語』は二十世紀初頭のヨーロッパの小国が舞台ですし、宮部みゆきさんの『ブレイブ・ストーリー』は日本人の少年が異世界で大冒険を繰り広げます。なので、今日ご紹介する作品は、なかなか貴重な設定と言えるかもしれません。恩田陸さん『上と外』です。

 

こんな人におすすめ

少年少女の冒険物語が読みたい人

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両親の離婚により離れて暮らす父に会うため、母とともに中米の某国を訪れた練と千華子。和やかな再会の場で、母の口から父と千華子は血縁関係にない可能性を示唆され、一同は大いに動揺する。そのショックから覚める間もなく、四人はクーデターに巻き込まれ、練と千華子はジャングルに取り残される羽目に。生還を目指す二人が出会ったニコという少年は何者なのか。彼が練に参加を強要する、マヤの成人式とは一体何なのか。そして世界に衝撃を与えたクーデターの行方とは・・・・・ひと夏の冒険を通して成長する少年少女を描いたスリリング・アドベンチャー

 

いやー、手に汗握った!!恩田陸さんと言えば、直木賞を獲った『蜜蜂と遠雷』をはじめ、どことなくクラシカルで情緒溢れる作品を連想しがちです。ところが本作は、前書きにも出した『インディ・ジョーンズシリーズ』辺りを思い起こさせる冒険小説。物語は波乱万丈ながら明快だし、登場人物はみんな魅力たっぷりだし、映画一本分に相当しそうな迫力と吸引力がありました。

 

主人公の中学生・楢崎練は、夏休みを利用し、母親と妹の千華子とともに、学者の父親が暮らす中米G国を訪れます。両親の離婚後、ばらばらになった家族四人が久しぶりに集合し、楽しい夏になる・・・と思ったのも束の間。なんとG国で発生したクーデターに巻き込まれ、避難中、練と千華子がジャングルに取り残されるという事態に陥ります。どうにか脱出しようと悪戦苦闘する二人の前に、ニコという謎の少年が現れます。柔和に振る舞う一方、千華子を人質に取り、練にマヤの成人の儀式に参加するよう迫るニコ。彼に連れられていった巨大な地下施設では、命を懸けた<成人式>が今しも始まろうとしていました。果たして練と千華子はこの儀式をクリアし、無事、家族と再会することができるのでしょうか。

 

前半、練と千華子を中心とした人間模様、家族が抱える複雑な事情が描かれる場面も一筋縄ではいかない感じで面白いのですが、やっぱりインパクトがあるのは中盤以降、G国での兄妹の大冒険が始まる辺りからでしょうね。恩田陸さん、中米の環境やマヤの歴史についてもかなり詳しく調べたようで、描写がものすごく丁寧かつ緻密。二人がジャングルを彷徨い歩くシーンでは、植物の濃密な匂いが立ち上るようですし、やむを得ず練が儀式に参加する箇所では、彼の心臓が早鐘を打つ音まで聞こえてきそうです。というか、この儀式、怖すぎ!私なら絶対へたり込んで泣くってば!

 

そんな物語を盛り上げてくれるのは、恩田ワールドの魅力の集大成とも言うべき、個性溢れる登場人物達です。G国で大冒険する羽目になる練と千華子、同じくG国でクーデターに巻き込まれた二人の両親、練達が出会う正体不明のジャニーズ系美少年(本文表現)のニコらに注目が集まりそうですが、本作の場合、日本で一家を案ずる家族のキャラクターもかなり凝ってます。特に、練に多大な影響を与え、冒険の最中でも彼の心の支えとなる祖父の渋いことといったら!寡黙ながら一言一言に重みがあり、おまけに実はものすごい人脈を持っていたお祖父ちゃん。仮に映像化するとしたら、配役は誰かしら。個人的には田中泯さんがぴったりなイメージなんですが。

 

恩田陸さんのミステリーやSF小説は、あえて明確な謎解きをせず、真相を読者の解釈に委ねる傾向にありますが、本作は冒険小説だからかすべてがきっちり作中で解決します。伏線もばっちり回収され、最後は拍手喝采したくなるほどの大団円。「恩田陸さんのミステリーはちょっと苦手かな」という人でも楽しめると思いますよ。私は全六巻から成る文庫版しか読んでおらず、一巻一巻のボリュームが少ないので気づきませんでしたが、これ、けっこうな大作なんですね。そんなの感じさせないくらい、疾走感ありました。

 

危機が多すぎて息つく暇なし度★★★★☆

お祖父ちゃんは名言製造機!度★★★★★

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コメント

  1. しんくん より:

     少年・少女のアドベンチャーはグーニーズやスタンドバイミーを思い出します。
     ストーリーの内容からドラえもんの長編シリーズか十五少年漂流記のようなイメージですがこれは面白そうです。
     恩田陸さんのミステリーは「失われた町」「ユージニア」のように意味が分からないストーリーもあれば「蜜蜂と遠雷」「夜のピクニック」のような大当たりの作品もあり自分の中では当たり外れの多い作家さんですがこれは当たりだと感じます。

    1. ライオンまる より:

      長編ドラえもんとは言い得て妙!まさにそんな感じです。
      私は恩田陸さんの大ファンですが、ホラーでもSFでもなくミステリーで結末を曖昧にされると「???」となっちゃいます。
      その点、本作はすっきり解決するアドベンチャーですので、一切もやもやすることなく楽しめました。

  2. しんくん より:

    面白かったです。
    インディ―ジョーンズシリーズよりまさのドラえもん長編「のび太の大魔境」を思い出しました。
    中央アメリカのジャングルでヘリコプターから落ちて生きている、日本語が話せる少年に導かれる、ジャガーと戦う、クーデターや地震、ピラミッドなど全てのアドベンチャーを凝縮した長編でした。

    1. ライオンまる より:

      「のび太の大魔境」!言い得て妙ですね。
      ジュブナイルアドベンチャー要素てんこ盛りで、わくわくしながら読みました。
      お祖父ちゃんに比べると目立たないけど、日本で待つ従兄弟の邦夫君も結構好きだったりします♪

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